第4話 可愛い笑顔
空君と午後は、近所をぶらつき、駅近くの洋食屋でランチをした。
なんだか、新鮮だ。伊豆の、それも我が家かまりんぶるーでしか会わなかった空君と、初めての店でランチをしているなんて。
「デートみたいだね」
私がそう言うと、空君は、
「え?デートだよね?」
とそう言ってきた。
「そ、そうか。これ、デートだね」
か~~。なぜか、顔が熱くなった。
「昨日の夜、碧に呼ばれて凪の家に行ったんだ。聖さん、意気消沈してた」
「え?そうなの?」
「うん。ため息ばっかりついてて、桃子さんに甘えたり、雪ちゃんにもべったり。俺も碧も、雪ちゃんのこと全然抱っこできなかった。それで、雪ちゃんを見るたび、ああ、凪に似てるなあとか、今頃、凪一人で寂しくないかなあとか…」
……。もう、パパは。寂しがり屋の心配性だなあ。
「俺も寂しいですって言ったら、空は来年一緒に住めるからいいじゃんかって、拗ねられたし」
「…パパったら、何を言っているんだか」
「え?一緒に住むんだよね?」
「え?う、うん」
「だよね?部屋も二部屋あるし。…えっと、あれってさ、一部屋が凪で、もう一部屋が俺の部屋?」
「え?!」
そうなの?勝手に一部屋は寝室で、一部屋は勉強部屋って決めつけてた。
「……そのびっくりした感じだと、違うよね?」
ギク!
「あ、あの。それは、その」
「俺はできたら、凪と同じ部屋で寝たい……なんて、思っているけど。凪は?」
空君は顔を赤くして、そう照れくさそうに聞いてきた。
よかった。同じだ。
「私も、できたらそれがいい」
そう言うと、空君はにこっとはにかんで笑った。
可愛い。空君の笑顔ってなんでこうも可愛いの?
「布団も、二組あるの」
「え?まじで!?」
うわ。空君、すっごいびっくりしてる。
「パパが、パパが泊まる時用にって買ったの」
「あ、ああ。聖さんが泊まる時ね」
空君、空君用に買ったと思ったのかな。いずれは、空君の布団になるとは思うけど。
「……お、俺もいつか、泊まってもいいのかな」
「…え?今、なんて?」
「ごめん。やっぱ、無理だよね。二人きりでいるのも、俺、やばかったのに」
「そうだったの?」
「うん」
そうだったんだ。今迄と同じ距離感で、安心していたのに。
「でも…」
空君は、テーブルの1点を見つめた。それから私を見ると、また視線を外し、
「凪と、今日はずっと一緒にいたいし、夜までいてもいいよね?」
と照れくさそうに聞いてきた。
「え?うん。もちろん」
私だって、ずうっと一緒にいたいもん。
「良かった」
安堵のため息を吐いた後、空君はまたにこりと可愛く笑った。
ああ!可愛い。超可愛い。超、超、超、可愛い!!!
空君を伊豆に、帰したくないよ~~~。なんて、言えるわけないんだけど。だって、私も二人きりだと、心臓がバクバクになっちゃうし。
でも、帰って欲しくないよ~~~。
昼を食べ終わり、駅の付近をぶらついた。
「これから凪は、この町に住むんだね」
と、空君は時々そう言いながら、遠い目をした。
アパートに戻り、テレビをつけた。
「何か飲む?コーヒーか、紅茶か…。あ、オレンジジュースもあるよ」
「じゃあ、ジュース」
「うん」
コップにジュースを注ぎ、テーブルに持って行った。空君は頬杖をつき、テレビを眺めている。
「この部屋がリビング?向こうが寝室?」
「ううん。ここがリビング兼寝室で、向こうは勉強部屋」
「あ、そっか。机置いてあるもんね」
「あの隣に、空君の机も置いて…なんてどうかな」
「二人の勉強部屋?」
「うん」
「いいね」
にこっ。空君がまた可愛く笑う。
「いいな。凪と俺が横に並んで勉強して…。じゃあ、ここでテレビとかのんびり見て、寝る時は布団敷いて寝るんだね」
「うん」
「ダイニングはちゃんとあるし。凪一人で暮らすには、広すぎちゃうね」
「うん」
「凪…」
え?
ドキ!
突然、空君がキスしてきた。
ドキ。ドキ。ドキ。うわわ。なんか、いきなり二人きりなのを意識しちゃったよ。
「そ、空君。なんか食べる?」
「お腹は空いていないからいいよ」
「じゃ、ゲームする?」
「う~~~~ん。凪、下手だからなあ」
「じゃ、じゃあ、DVDでも…」
「なんか、映画とかでも観ようかな」
「うん!じゃ、これは?まだ観ていないよね?」
ディズニーの映画だ。それを観ることにした。
ドキドキ。ちょっと間を開けて隣にいる空君のことを、私はやたらと意識している。
空君も?
映画を観るどころじゃなかった。空君はずっと映画を観ている。集中してる?
空君の手って、こんなにごつかったかな。
空君、喉仏が前より目立ってる。
空君、肩幅広くなっていない?背中も前より広くなったような…。
「何?凪」
「え?!」
「なんか、俺のこと見てた?」
「ううん。なんでもない。映画、観よう。映画!」
「うん」
びっくりした~~~。見ているのばれてた。
空君、4月で18歳だ。私と同じ年になるね。
引っ越してくる前、まりんぶるーで誕生日パーティを開いてもらった。3月生まれの私とママと、4月生まれの空君も一緒に祝ってもらった。
空君は私に、可愛いブレスレットをくれた。今日もちゃんとつけている。
空君には、ミサンガを編んであげた。黒く焼けた肌に似合うし、カラフルなTシャツを着た空君が、カラフルなミサンガをつけると可愛いから。
空君は喜んでくれた。そして、今日もつけてきてくれている。そのミサンガを、じっと見ていると、
「これ、ありがとうね」
と、それに気が付いたのか、空君はミサンガを指差しながらそう言った。
「私も、これ、ありがとう」
私の腕にしてあるブレスレットを指差しながら、私はそう答えた。
「凪に似合ってる」
「空君もミサンガ似合うね」
「そう?」
にこり。
うわ~~~。また、可愛い笑顔だ。キュンってした。
いつもより、私は空君を意識している。ドキドキしたり、キュンキュンしたり。二人きりでいるからかな。
空君は?
なんとなく、空君の横顔をじっと見つめてしまった。すると、ぽっと顔を赤らめ、
「何?凪…」
と空君がちらっとこっちを見て聞いてきた。
「ううん」
空君、赤くなった。可愛い。
「あのさ」
「え?」
「さっきから気づいてた?」
「何が?」
「すんげえ、光出まくって、この部屋眩しすぎるくらいなんだよね」
「そうなの?」
「あれ?自分でわかってなかった?」
「うん」
だって、そんな余裕すらないんだもん。ドキドキしちゃって。
「嬉しい…し、癒される…けど、なんか照れる」
空君はそう言うと下を向いた。
ダメだ。
限界だ。
ドキドキしているけど、そんな胸のドキドキよりも、抱き着きたい衝動が、今にも勝ちそう。どうしよう。
でもこの状況で抱き着いたりしたら、なんか大変なことになりそうな予感も…。
だから、我慢。じっとここは我慢。
「え~っと。光がどうしてさらに増したの?凪」
「え?そ、そ、そう?」
「うん。俺、めっちゃ光に包まれちゃってるんだけど…」
「だって、空君可愛いから」
「……またそんなこと言ってる。俺のどこが可愛いんだか」
そう言いながら空君が、鼻の横を掻いた。うわ。顔、真っ赤だ。
「そ、そういうところが」
「え?どこ?」
顔を赤くしたまま、空君は首を傾げて上目づかいで私を見た。
うっわ~~~~~~~~~~~~。キュン死にするかも。ほら、可愛い小型犬みたいだよ。ううん。柴犬にも似ているかも。
それも、まだ首を傾げたまま私を見ている。
可愛すぎっ!!!
ムギュ!!!!
とうとう、私は思い切り空君に抱き着いてしまった。
「な、凪!」
空君が慌てたのがわかった。うん。わかってる。ちゃんと離れるよ…。と、そんなことを心の中で呟き、空君から離れようとすると、空君のほうが私をギュって抱きしめてきてしまった。
わ。こ、これはもしや、やばい状況?
ドキドキドキ!一気に心臓が早くなっちゃった。
「凪…」
ドキドキドキドキ。
ドキドキしているの、私だけじゃないみたい。
どうしよう。この状況。空君を突き放す?
それとも…。
ど、どうしたらいいんだろう。
空君にギュってしてもらうのは、正直嬉しい。ドキドキしているけど、やっぱりこのままでいたい。
あったかくって、優しいオーラはいつもと変わんない。もう少し、このまま…。
ピンポーン!
え。
誰?!
「凪ちゃん!いる~~?」
「…誰?」
空君が私を抱きしめたまま聞いてきた。
「わかんない」
突然訪問に来る人なんて、見当もつかない。
「凪ちゃん!」
「はい!!」
思わず返事をした。空君から離れ、玄関のドアを開けると、そこにはお隣の弟さんの方が立っていた。
「いた。良かった。夜、兄貴が帰ってきたら、うちでお好み焼き食べるんだけど、一緒にどう?」
「お好み焼き?」
「うん。凪ちゃんの歓迎会もかねて」
「いいです。そんなことしてもらわなくても。お気遣いなく」
慌ててそう答えると、
「あれれ?まだ、弟君いたんだ」
と、部屋からこっちに来た空君に気が付き、お隣さん(確か、かっちゃんだっけ)が聞いてきた。
「凪、男だけの部屋になんか行かせませんから」
空君がすごんでる!なんか、いつもと違う。
「へ?あ、ああ!お姉さんの心配しているんだ。へえ。もしかしてシスコン?」
そう言われ、思い切り空君は頭に来たようで、
「俺、弟じゃなくって彼氏だから!」
と、大声を出した。
「……え。弟なのに彼氏?」
「弟じゃなくて、彼氏。弟は昨日引越しの手伝いをしに来てた!」
「あ、弟とは別人…で、彼氏」
「だから、凪を男だけの部屋になんか行かせられません。それから、これからも凪にちょっかい出したりしないでください」
「………。いや。ちょっかい出そうなんて気は…。まあ、可愛いから仲良くなりたいとは思ったけど。俺の後輩になるわけだし」
そう言ってお隣さんは黙ってしまった。
「あ、そうか。男だけだからダメなのか。女がいれば問題ないんだろ」
「そういうわけじゃ」
「了解。それじゃ兄貴の彼女でも呼ぶから、だったら文句ないよな?」
そう言うと、お隣さんはさっさと自分の部屋に戻って行った。
「…凪、呼ばれても行くなよな」
「え?うん」
「…俺、今日最終電車までいる」
「へ?」
「また、あいつが呼びに来るんだろ?」
「そうかも」
「しつこいようだったら、俺、今日泊まっていくから」
え~~~~~~~~~!