第38話 同棲初日の夜
アパートに帰る途中、スーパーで食材を、その近くのケーキ屋でケーキを二つ買った。
そして、アパートに着いてから、また掃除や荷物の片づけをした。
「ここで、二人で暮らすんだね」
「家から離れて寂しい?」
「俺?いや、別に」
「でも、春香さんは寂しがっていない?」
「少しね。でも、母さんはほとんど店にいるし、父さんもそうだから」
そっか。家で空君は、独りだったんだね。でも、今日からは私といつも二人。
ギュ。空君を抱きしめた。すると、
「夜まで待ってね、凪」
と言われてしまった。
キュキュン。そう言って耳を真っ赤にする空君が可愛い。ああ、もっとぎゅ~~ってしたい。
「凪、離れて。でないと今押し倒すよ」
「……」
押し倒すと言われ、しぶしぶ離れた。
でも、私にはまだ、空君のそういう行動が想像できない。いつも、耳を真っ赤にして照れている空君しか知らないからかな。
夕飯の準備をしている間、空君はお風呂の用意をしていた。私は、今迄にママから習ったものを、とりあえず順番に作りつつ、徐々に料理のレパートリーを増やしていこうと思う。
一応私の誕生日ということで、今日は頑張ってパスタとサラダと、スープを作る予定。パスタは簡単なナポリタンだけど。
夕飯の準備も終わった。二人でテーブルを囲み、
「凪、誕生日おめでとう」
とジュースで乾杯した。
「ちょっとの間、凪がお姉さんだけど、すぐにまた追いつくから」
「うん」
空君は、「うまい」と言いながら、パスタもサラダもスープも、あっという間に完食した。
「本当に美味しかった?」
「うん。凪、腕あげたね」
嬉しい!そう言った空君の笑顔が可愛い!
幸せだ。幸せだ。今日から毎日、空君と一緒にいられる。
後片付けは、空君と一緒にした。私が洗ったお皿を、空君が拭いてくれた。
「今まで、凪一人で、寂しかった?」
「寂しかったよ。一人って、なかなか慣れないよね」
「そっか。凪はずっと家で家族と一緒だったんだもんね」
「空君は一人に慣れてるの?」
「慣れてた。でも、凪の家でご飯をみんなで食べると、家で一人で食べるのが寂しくなってたよ」
「でも、これからは…」
「うん。毎晩一緒だね。あ、朝も、昼も」
「昼は大学で」
「あ、凪、夜、バイトあるよね。あのファミレスで俺もバイトできないかな」
「できるよ!春休み終わると辞める人がいるの。短期で募集して入った人だから」
「そうなんだ」
「うん。ホールの子なんだけど」
「…でも、俺、接客苦手だった」
「大丈夫だよ。まりんぶるーでもたまに、ホールに出てたじゃない。あんな感じで大丈夫」
「そっかなあ」
お皿を洗い終え、空君は冷蔵庫からケーキを出した。
「紅茶でいい?空君」
「うん。いいよ」
私は紅茶を二つ入れ、それらをテーブルに運んだ。
「凪、どっちも食べたいって言ってたから、半分こしようね」
「ううん。半分こじゃなくって、あ~~んってやつがしたい」
「え?!」
「ね?」
「……。しょうがないな」
空君は照れて赤くなりながらも、あ~~んってしてくれた。
「私のケーキも、はい」
今度は私のケーキを少しフォークに乗せ、空君にあげた。空君は頬を赤くしながらも、口を開けてくれた。
可愛い!照れてる!!
「空君、めっちゃ可愛い」
「…それ、やめて、凪」
また照れた!
「俺、これでも高校じゃ、ちょっと話しかけづらい怖いイメージあったんだよ?可愛いなんて言われたことなかったんだからさ」
「うん。いいの。私の前でだけ可愛い空君だったら」
でへ。私は空君の隣に座りに行って抱き着いた。
「凪、ダメ。待て」
待て?
「風呂入ってくる」
そう言って、空君はすくっと立ち上がり、下着や着替えを持ってお風呂に入りに行ってしまった。
「……お風呂」
そうか。このあと私もお風呂に入って、それで…。
とうとう、とうとう、とうとう、この日が!!
お皿やカップを洗って片付けた後、私は布団を敷きに行った。
「どうしようかな」
こうなったら、今日はわざと布団を一式だけにしちゃう?でも、それじゃ、さすがに空君が引くかな。
とりあえず、ベタッとくっつけて布団を並べで敷いた。
「今日から、いつも隣には空君が…」
布団にごろごろして、私はにやけまくった。ああ、ハッピー、ハッピー!
そこに、空君がお風呂から出てきた。濡れた髪のまま、それも上半身裸!なんで?
「あ~~、あったまった。凪、入ってきていいよ」
なんだか、すっごくリラックスしているなあ。
「うん。入ってくる」
「あ、布団敷いたんだ」
「うん。くっつけすぎ?」
「……え、いや、いいけど」
あ、照れた!
でも、私はさっきから、そんなことよりも空君の上半身が気になる。いつの間にか、腕がまた逞しくなった気が…。
「ん?入ってこないの?」
「入ってくる」
慌ててお風呂に入りに行った。
そうだ。そうなんだよ。空君は男なんだよ。なんか、ちょっとだけ小さなころからの可愛い空君のままな気がしてたけど、もう、違うんだよ。
ドキドキした。
お風呂に入ってからも、なんだか、いきなり意識してきた。
ガチャリ。お風呂から上がり、バスタオルで髪を拭きながら部屋に行った。空君は、ボ~ッとしながらテレビを観ていた。
「疲れた?」
「ううん」
空君は私を見て首を振った。そしてなぜか、照れくさそうに視線を外した。
「髪、早く乾かさないと風邪引くよ、凪」
「うん」
ドライヤーで髪を乾かすと、空君がそれをじっと見ている。
「何?」
ドライヤーを止め聞いてみると、
「なんでもない」
と空君はテレビの方を向いた。
「ごめん、ドライヤーの音でテレビの音聞こえないよね?」
「ああ、別にいい。なんとなく眺めてただけだから」
「じゃあ、消す?」
「そうだね」
リモコンで空君はテレビを消した。そして、また私の方を見た。
「明日、帰るわけじゃないんだよなあ」
「え?うん」
「明日も明後日もその次の日も、一緒なんだよなあ」
空君が可愛いことを言う!キュキュン。
髪がまだ半乾きなのに、ドライヤーを止めて、私は空君に抱き着きに行った。
「まだ、髪、濡れてる」
「だって、空君が可愛い」
「……凪、凪ってさ」
空君が空君に抱き着いている私をひっぺがし、ドサッと押し倒してきた。
「え?」
「俺のこと、まだ子ども扱いしているよね?」
「ううん、そんなことない」
「いや。男として見ていないよね?」
「ううん。そんなこと」
あるかもしれない。…どうしよう。空君にばれてた。
「あの、空君、腕痛いかも」
ギュッと握りしめている私の腕を、空君は慌てて離した。そして、私の上からどいた。
「ごめん」
「ううん」
私も起き上がり、また髪を乾かしてから、ドライヤーをしまいに行った。それから、歯も念入りに磨いた。
「空君、そろそろ、寝る?」
「え?あ、俺も歯、磨いてくる」
「うん」
空君が歯を磨いている間、私は布団の中に潜り込んだ。
ドキドキドキドキ。
男として意識していない…。そうかもしれない。いまだに私には空君は可愛い空君だ。
前に空君が胸を触ってきたことがあったっけ。あの時ですら怖いとも思わなかった。でも、これから空君を男として意識したら、もしかして他の男みたいに、私、怖くなったり、触られるのも嫌になったりするのかな。
…え。じゃあ、このあと、私、空君のことが怖くなったりしちゃうの?
ど、どうしよう。もし、他のぎらついている男みたいに空君がなっちゃったら。
空君のこといやらしいってそう思っちゃったら。
そんなこと、まったく想像もできないけど、もし、そうなったら、どうしよう。
「あれ?凪、もう布団に入っちゃったの?」
ドキ!うわ。空君が来た。
「う、うん」
なんか、顔見れない。
「……あ、こっちの部屋の電気も消すよ」
「うん」
洋間も和室も空君が電気を消した。
「真っ暗は嫌だよね。小さいやつつけとく」
「うん」
「……あれ?さっきまで光全開だったんだけどな」
「光?」
「凪、今日ずっとすんごい光出しまくってて。あ、もう眠くなった?」
そうか!そういうので、私が何を思っているかもばれちゃうんだ。空君のこと大好きって思っていたら、光出しまくっているし、もし、私が嫌がったら、光なんかいっさい出なくなっちゃう。
「…眠いなら、寝ようか」
「う、うん」
空君は私の隣の布団に潜り込んだ。
「じゃ、じゃあ、おやすみ、凪」
うそ。
ダメだ。やっぱり、ダメ。ここで怖気づいたら、私、いつまでも空君と結ばれない。
きっと、空君も遠慮する。こうやって、ずるずるとずっと何もない状態になっちゃう。
「空君!」
「え?!何?!」
「そ、そっちに行ってもいい?」
「俺の布団に?」
「うん。一人じゃ寂しいし、それに、えっと、プレゼントあげないと」
「…俺に?!」
「う、うん」
「今日、くれるの?」
「………」
「凪、嫌なら無理しないでいいから」
「い、嫌じゃない」
うそだ。嫌になるかわかんないっていうのが、本音。
「じゃあ、はい」
空君が掛け布団を持ち上げた。そして、私一人入れる分、横にずれてくれた。私はそのスペースに寝そべった。
「お、お邪魔します」
そう言うと、空君は私にも布団をかけ、
「はみだしてない?」
と優しく聞いてきた。
「大丈夫」
そう言いながら空君を見た。わわ。なんか、照れたようなはにかんだ顔をしている。
キュキュキュキュン!可愛い。それに、空君があったかい。
ムギュ。
あ、しまった。反射的に空君に抱き着いちゃった。でも、ギュッと空君も抱きしめてくれた。
「凪」
「う、うん?」
「ありがと」
「え?」
何が?
「プレゼント」
「…う、うん」
空君は私の頬を優しく撫でてから、そっとキスをしてくれた。それから、髪を撫でる。それから、もそもそと私のパジャマのボタンを外し出した。
ドキ!うわ~~~~~~。いよいよ、いよいよだ。




