表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

第28話 憧れ?

 翌日、茜ちゃんは明るくまりんぶるーにやってきた。

「おはようございます」

 私にもそう元気に挨拶をした。でも、目が腫れぼったくて、泣き腫らしたのがわかってしまう。


「お、おはよう」

 あ、なんかぎこちない挨拶になっちゃったかも。

「あの…」

 茜ちゃんは私のすぐ横に来ると、

「あとでちょっとだけ、時間もらえますか?」

と小声で聞いてきた。


「え?う、うん」

 何かな。

 ドキドキする。どうしよう。宣戦布告とかだったら。私、空君のこと諦めませんとか、そんなことだったら、なんて答えよう…。


 緊張しながらその日は過ごした。ちょっとだけ、お腹が痛くなってきた。

 そして、

「二人とももうあがっていいわよ」

という春香さんの声がして、茜ちゃんはエプロンを外した。


「リビングでお茶でも飲んでいく?」

「いいえ。今日はこのまま帰ります」

 くるみママの誘いに茜ちゃんは、にっこりと微笑ながら答えた。それから私の方を見て、

「時間、大丈夫ですか?」

と聞いてきた。


「え?うん」

 二人でお店から出た。外はまだ暑かった。


「今日は、空先輩遅いですね」

「そうだね」

「……。私がいるからかな。避けられているのかなあ」

 一気に茜ちゃんの表情は暗くなった。


「それはないと思う…よ?多分」

 そう言ってみて、もしかしたら避けているのかもしれないと言う気がしてきた。

「海沿いの道歩きながら、話してもいいですか?」

「うん」


 私たちは海を見ながら、なんとなくぶらぶらと歩いた。しばらく黙っていた茜ちゃんは、海を見ながら立ち止まり、

「私、中学1年の時、あの辺で空先輩を見たんです。浜辺に座って、ぼ~~っとしていました」

と話し出した。


「浜辺に?」

「はい。横顔が寂しそうで、でも、夕日に照らされて綺麗で…。中学で空先輩を見かけた時は、ちょっと怖いくらいに近寄りがたい雰囲気があって」

 そうだったかもしれない。私も声をかけづらかったし、話しかけてもらえなかった。


「水泳部にも、たまに出てくるくらいで、プールより海が好きだからって、しょっちゅうさぼっていました」

「そうだったよね」

「その頃から、付き合っていたんですか?」

「ううん!全然、その頃はあんまり仲良くなかったし」


「そうなんですか。なんだ。じゃあ、その頃に頑張ればよかった。高校入るまで、勇気も出ないし、ずっと会いたくても会えなかったし…」

 う。そうなんだ。

「海に来たら会えるかなって思って、時々見に来ていたんです。でも、なかなか会えなくて…」


「……」

 そんなに茜ちゃんも長い間、空君に恋をしていたのか。

 ズキン。なんだか、自分のこととだぶっちゃうなあ。空君と話が全然できなかった頃を思い出しちゃう。


「私、本当のこと言います。こんなこと言ったら、迷惑だろうなと思って、どうしようか迷ったんですけど」

 本当のこと?

 茜ちゃんは私の方を見た。その目は、何かを決心したような眼差しだった。


「ずっと、空先輩と話もできなかったんです。それが、やっとできるようになって、私、この夏、まりんぶるーに勇気出してバイトをしに来て、本当に良かったって思っています」

 勇気出したんだ…。すごい勇気だったのかな。そうだよね、きっと。


「それで…。せっかく話が出来るようになったのに、避けられるのは悲しいし…。空先輩と凪先輩がすごく仲がいいってことも、お二人を見てわかりました。私が割り込む隙なんかないし、私なんかが太刀打ちできないくらい、長い期間お二人は過ごしているんだなってこともわかったし」

「……」


「だから、邪魔とかしません。でも、空先輩と星の話をしたり、まりんぶるーで会ったりできたら、それだけでも私、すっごく幸せだから、いいですか?アルバイト続けても」

「え?うん。私が決めることじゃないもん。それは茜ちゃんが決めることだし」

「本当に?続けてもいいんですか?」


「う、うん」

 そんなに目を輝かせられると、どうしていいかわかんなくなる。

「良かった~~~」

 茜ちゃんは思い切り安堵したようで、全身の力が抜けたみたいに、ほ~~っと息を吐いた。


「空先輩と付き合うとか、好きになってもらうとか、そんなの私にはおこがましかったです。ちょっと近づけて、話が出来たらそれだけで、私にとって奇跡だったんです。って、昨日そう思いました」

 何それ。なんでそんなに謙虚なの?っていうか、茜ちゃん、いい子すぎる。


 私だったら、きっと嫌だ。好きな人に彼女がいて、そんな二人を間近で見ないとならないなんて、そんな状況悲しすぎる。今だって、空君が他の女の子と話しているだけで、嫉妬しちゃうのに。

 私が独占欲が強すぎるの?そうなのかな。


 茜ちゃんの話はそれだけだった。にっこりと微笑み、

「お疲れ様でした」

と茜ちゃんは元気に走って行ってしまった。


 私はまりんぶるーに戻り、すぐにリビングに行った。リビングには、おじいちゃんとママが、寝ている雪ちゃんを見ながら、のんびりと話をしていた。

「茜ちゃんは?」

 ママが私に聞いてきた。


「帰ったよ」

 そう言いながらソファに座った。

「今日、碧も空君も遅いね。いつもなら、来てるのにね」

「うん」


「碧はあれかな。もしや部活終わってデートかな」

「ああ、もしかして文江ちゃんのバイト、休みなのかもね」

「どうした?なんか元気ないね、凪」

 おじいちゃん、するどい。

「空君がなかなか来ないからすねてるんでしょ」


 ママ、違うよ~~。

「そう言うんじゃなくって…。あのね」

 ママに聞いてもらおうと、茜ちゃんの話をした。私ってやきもち妬きなのかな、独占欲強いのかな…っていうことも聞いてみた。するとママは、くすくすと笑い、おじいちゃんもにこにこと笑っている。


「私も聖君に誰かが言い寄ると、すごく嫌だったよ。聖君、モテモテだから、本当に大変だったもん」

「それ、私が阻止していたんだよね。って今もか」

「そうそう。凪、赤ちゃんの頃から、聖君に近寄ってくる女性を追っ払ってくれてたよね」

「そっか。ママもやきもち妬きなんだね」


「聖君もだよ。そんなの、みんなそうなんじゃないの?」

「そうだよ、凪。気にすることはないさ。それだけ、本気で好きってことだよ」

「そう思う?おじいちゃん」

「茜ちゃんは、空君に憧れているんじゃない?そばにいて、話が出来て、それだけで幸せって、そんな感じなのよ」


「……憧れ?」

「ふふ。大丈夫よ。空君は凪がやきもち妬いたら、きっと喜ぶから」

「喜ぶ?」

「空の方も独占欲強そうだしなあ。凪が他の男と仲良くしたら、ものすごく嫉妬するんだろうなあ」

 あははとおじいちゃんはそう言った後に、笑った。


「何の話してんの?」

 そこに、突然空君が入ってきておじいちゃんに聞いた。

 わあ、空君が来た!嬉しい。

「空君、いつ帰ってきたの?」

「今」


 あれれ?なんか、空君ご機嫌斜め?不機嫌そうな顔でそう言うと、私の隣にドスンと座っちゃった。

「まったく。俺がいない間に、なんだって俺が嫉妬する話なんかしているんだよ」

「違う違う。凪が独占欲が強いとか、やきもち妬きだって話をしていたから、空も嫉妬するから大丈夫だって、そう話していたんだよ。ね?桃子ちゃん」


 きゃあ。

「おじいちゃん、そんなことばらさないでよ!」

 信じられない。ああ、おじいちゃんの前で話すんじゃなかった。

「あ、そういう話?」

 空君は私の方を見た。そして、首を斜めに傾げ、

「もしかして、昨日のこと?」

と聞いてきた。


「昨日っていうか、その…」

「大丈夫だよ。もうなるべくあの子には会わないようにするし」

「あ、もしかして、それで今日遅くに来た?」

「うん」


 やっぱり。茜ちゃんのこと避けてるんだ。

「大丈夫だよ、早くに来て茜ちゃんに会っても」

 私がそう言うと、空君は「え?」とびっくりして目を丸くした。それにおじいちゃんまで、

「なんだ。凪は独占欲が強いんじゃなかったのか?」

と聞いてきた。


「そうなんだけど。でも、茜ちゃんの純粋な思いを聞いちゃうと、なんか、避けられたりしたら悲しいだろうなあって思うし」

「じゃあ、俺が茜ちゃん…、いや、あの子と仲良くした方がいい?」

「ええ?そういうわけじゃ!仲良くしたら、きっと私嫉妬しちゃうし」


 わあ。自分でどうしていいかわかんなくなってきた。空君は私のことを思って、ちゃんと時間ずらしてまりんぶるーに来たっていうのに。

「ごめん、空君。私、変だよね」

「……」


 あ、空君、向こう向いちゃった。もしや怒った?

「空君?」

「俺は、嫌だな」

「え?」

 何が?


 空君は下を向き、

「俺は、凪と凪の隣に住んでる奴が仲良くしているの、嫌だな」

とぼそぼそと言った。


 かっちゃんのこと?


「友達って言うけど、あんまりいい気はしない」

「あはは。ほら、空のほうがやきもち妬きだ!」

 おじいちゃんがまた大笑いをした。

「うっさいよ、じいちゃん」


 あ、空君、もっとへそ曲げたかも。

「聖君も、私と桐太が仲いいと、ぶーぶー言ってたっけ。桐太が麦さんと付き合ってからは、あんまり嫉妬することもなくなったけどねえ」

 ママは、懐かしそうに遠くを見ながらぼそっとそんなことを言った。


「ママと桐兄ちゃん、親友だもんね」

「そうなの。男女の友情もありよ?空君」

「………。俺は聖さんみたいに、寛大じゃないんです。すみません」

 あ、もっと拗ねた?いや、落ち込んだ?


「でもね、かっちゃん、最近ひいちゃんといい感じだし。あの二人がくっついたら、もう空君、嫉妬しないよね?」

「…。わかんない」

 え?そうなの?

 あ、空君、うなだれちゃった。


「私、空君が嫉妬したり、独占欲強くても、全然いい。まったく嫉妬してくれないほうが、きっと心配しちゃう」

 そう言って、空君の腕にむぎゅっとひっついた。すると空君は、天井を見て、

「うん」

とはにかみながら、微笑んだ。


「光出た?」

「うん。出た…」

「あははは。仲いいなあ、ねえ、瑞希」

 おじいちゃんは誰もいない空間を見て笑った。空君も同じところを見て、

「おばあちゃんたちも仲いいじゃん。いまだにさ」

と優しい口調で空間に話しかけた。


 そこにおばあちゃんがいるんだ。いいなあ、おばあちゃんが見えて。それに話もできて。


「凪、俺、そろそろ帰るよ。凪はどうする?」

「え?勉強?」

「うん。もうすぐ模試があって」

「じゃあ、私はまだここにいようかな」


 寂しいな。でも、勉強なんだもん、しょうがないよね。

「うち来る?」

「え?でも、勉強の邪魔したくないし」

「うん。えっと。凪は勉強しないの?それとか、本読んだりとか、漫画とか…」


「あ!じゃあ、空君の家にある本が見たい」

「うん。じゃあ、うち来る?」

「え?本当にいいの?私、邪魔じゃないの?」

「全然」


 わあい!

「じゃあ、行く!」

 空君と一緒にソファから立ち上がった。

「夕飯は?空君とうちで食べる?」


「どうしようかな。えっと、昨日は空君の家で食べちゃったから、今日は家に帰ろうかな。パパ、昨日すでに怒ってたもんね」

「怒っているって言うか、拗ねてたよ」

「だよね。今日は夕飯食べに帰るよ」


「じゃ、空君も夕飯の時間になったらうちにおいでね」

「はい」

 ママにそう言われ、空君は素直に頷いた。そして二人でおじいちゃんとおばあちゃんに挨拶をして、リビングを出た。


「昨日、親子3人みずいらずの中、邪魔して悪かったかなあ」

 空君の家まで自転車を押して歩きながら、そう聞いてみた。

「まさか。父さんも母さんも凪が大好きだから、喜んでたよ。いつもうちで飯食えばいいのにってさ」

「ほんと?」


「父さんと母さん、うちには息子しかいないから、凪ちゃんは娘みたいで可愛いって言ってたよ。いつか俺と結婚したら、本当に娘になるから嬉しいってさ」

 ドキン!

「そんな話、しているの?」


「うん。してる。けっこう、しょっちゅうしてる」

「そんな時、空君、なんて答えるの?」

「俺?」

「うん」


 ドキドキ。

「別に、黙ってるけど?」

 なんだ。そうなのか。一緒に喜ぶわけじゃないのね。


「だって結婚したら、俺と二人で住むんだろうし、父さんと母さんに凪を渡さないよって、そう思いつつ、黙ってる」

「……え?」

「でも、うちの親より、聖さんの方が心配。凪を手放さないとか、駄々こねたりしないよね?」


「あ、そうだよね。なんか、駄々こねそう。でも、雪ちゃんいるし、大丈夫だよ」

「じゃあ、雪ちゃんがお嫁に行く時は大変だね」

「そうだね。確かに…」

 そんなことを話しながら、私と空君は空君の家まで歩いて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ