表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/40

第20話 ひいちゃん

 翌日、土曜。夕方からバイトが入っていたが、その前にかっちゃんとお茶をしながら話をした。

「やっぱり、空君に頼らないでも光が出るようになりたくって」

「凪ちゃん、たった1日で大人になったねえ」

「ちゃ、茶化さないでください」


 駅近くのカフェで、私とかっちゃんはお茶をしていた。そこに、なんと同じテニスサークルのツッチーが偶然入ってきて、

「あ、やっぱり、付き合ってるんだ~」

と、またもや言ってきた。


 もう、うるさいなあ。

「違うよ。相談ごとに乗っていただけだよ」

 かっちゃんはすぐにそう答えてくれた。

「相談事?何々?恋の相談?」


 あ、勝手に私の隣に座ってきた。

「ツッチー、一人?」

「ううん。あとで友達が来る。待ち合わせしてるんだ」

「彼?」


「友達。彼と別れるかもって言うから、相談に乗るの。あ、そういう話?」

「違うって。ツッチーも知ってるだろ?ひいちゃん」

 またすぐに、かっちゃんはそう答えた。

「ひいちゃんって誰?」


「瀬戸さん」

 私がそう言うと、ツッチーは、

「ああ、瀬戸さんね。最近ずっと見ないけど、もしかして病気?それとも、大学辞めるとか?」

と聞いてきた。


「病気に近いかなあ」

 かっちゃんはそう言ってから、

「でも、体じゃなくて、心の方かもなあ」

と、宙を見て独り言のように呟いた。


「心?え?なんかあったの?」

「詳しくは俺もわかんない。でも、凪ちゃん仲良かったから心配してて。で、俺もその相談に乗ってたんだ」

「凪ちゃん、なんで瀬戸さんと仲いいの?あの子、暗いよね。友達いないし。私、多分一回も話したことないかも」


 ツッチーはそう言うと携帯を見て、

「そんな子と関わってると、凪ちゃんも病気になっちゃうよ」

と、軽く言い、電話をかけだした。

「あ、私。どうしたの?何で来ないの?え?何?」

 ツッチーはそのまま席を立ち、お店を出て行った。


「……」

「……」

 残された私とかっちゃんは、しばらく無言でコーヒーを飲み、

「まあ、ツッチーは凪ちゃんのことを心配してああ言ってくれたのかもしれないし」

と、かっちゃんは笑顔を見せた。


「え?うん。そうだね」

 ちょっと、ツッチー冷たいって思っちゃった。

「もし、私も心の病気になったら、かっちゃん、どうする?」

「俺?ほっとかないよ。ちゃんと、凪ちゃんのことは助ける」


「助ける?」

「うん。なんとかする。だって、友達だしね?」

 にこっとかっちゃんは微笑んだ。そして、

「でも、凪ちゃんは、彼氏君に会えたら一発で元気になれそうだけどね」

と笑った。


「そうだよね」

「あ、あれれ?凪ちゃん、敬語じゃなくなってる」

「あ!ごめんなさい。つい…」

「いい、いい。ツッチーだって、一個下だけどため口だし。他のサークルの子も、敬語使うのなんて凪ちゃんくらいだったし」


「そうなんだ。それだけかっちゃんって、話やすいのかな」

「うん。俺も自分でそう思う。だから、友達はたくさんいる。そして、彼女はいない」

「………」

「あ、今、可哀そうにって同情した?」


「え?ううん。してない」

「いやいや、今の目は同情の目だった。ふんだ。いいんだよ!そのうちにきっと、ドラマのような出会いがあって」

「………」


 かっちゃんはしばらく、素晴らしい出会いの妄想話を繰り広げていた。10分も話まくったあと、

「あ、ひいちゃんのことだったよね。ごめん、ごめん」

と、妄想から抜け出てくれた。


「強くなりたいけど、どうやったらなれるのかなあ」

「う~~~~ん」

 結局、答えは出なかった。バイトの時間になり、かっちゃんと一緒にバイト先に行った。


 帰りも一緒の時間に終わり、一緒にアパートに帰った。そして、かっちゃんは、

「凪ちゃん、あんまり悩み過ぎるなよ。禿げちゃうからね?」

と、冗談を言って、自分の部屋に入って行った。

「禿げないよ」

 ぼそっと呟きながら、私は自分の部屋に入った。


 お風呂に入り、おばあちゃんのオーラを感じた。おばあちゃん、最近よく来てくれてる。

「ありがとうね、おばあちゃん」

 私にはこうやって、守ってくれる誰かがいる。でも、ひいちゃんにはいないのかもしれない。


「どうしたらいいのかなあ」

 11時。一人で悩んでいると、また、空君が電話をくれた。

「凪、大丈夫?」

「え?」


「おばあちゃんが、凪が悩んでいるみたいだったって言ってたけど」

「……うん。まだ、ひいちゃんのことで悩んでいるの」

「俺、明日行こうか?塾、夕方からだから」

「いいよ。悪いもん」


「……なんで凪、遠慮するの?俺に会えなくて寂しくないの?」

「え?そりゃ、会いたいよ。でも、空君だって、勉強大変なんだし、そうそう頼っちゃ悪いし」

「どうしたの?なんで、いきなりそんなこと言い出したの?」


「え?」

「なんかあった?」

「………」

 どうしたのかな、空君。


「何もないよ?でも…」

「うん」

「いっつも空君にばっかり頼っていないで、もっと私、強くならなきゃって思って…」

「それ、どういうこと?」


「え?」

 なんか、空君の声暗い。

「凪、俺から離れるの?」

「違うよ。そういうわけじゃなくって」


「………。ごめん。ちょっと、俺の方が多分、凪がいなくて寂しくなってて」

「…空君?空君こそ何かあった?」

「ないよ。なんにもない。淡々と毎日が過ぎているだけで…」

 空君?


「ごめん。勉強疲れかも。明日は、久々父さんとサーフィンでもするよ。気分、晴れるかもしれないし」

「うん。気分転換は必要だもんね」

「じゃ、おやすみ、凪」

「おやすみなさい」


 電話を切ってから、なんだか申し訳ない気持ちになった。私、自分のことばかりで、空君のこと考えてなかった。空君だって、受験勉強で大変なのに。

「やっぱり、空君に会いたい」

 私だって、会いたいよ。


 なのに、強がった。ううん。遠慮かな。空君が言うように遠慮したのかも。

「は~~あ」

 空君を守れるだけの強い自分になりたい。だって、いつでも、空君に守られてばかりだ。


 ひいちゃんのことも、空君のことも、私、全然守ることができない。何もできない。

 

 翌日はバイトもなく、私は朝からママに電話をした。ママは、人のこととなると強くなれるって、前にパパがそう言っていた。

「凪?どうしたの?」

「……ママは、どうして人のこととなると強くなれるの?」


「え?どうした?何かあった?」

「私って、なんで弱いのかな」

「凪、ママだって弱いよ。聖君や、周りのいろんな人が支えてくれるから、きっと強くなれるだけで」

「……そうかな」


「ただ、人に甘えることが下手で、よく聖君に甘えていいよって言われてた。だから、今はべったり甘えたい時には甘えているの」

「甘えていいの?私も?」

「もちろん。ママにだって、聖君にだって、空君にも甘えていいと思うよ?」


「空君、大変な時なのに」

「あ、空君と何かあったの?」

「ううん。正確には、ひいちゃんと」

「ああ、ひいちゃんか…。あの子、ちょっと心閉ざしている感じあるもんね」


「ママもそう思う?それって、どうしたらいいの?」

「ママもわかんないんだよね。聖君の方がそういうの得意。聖君は、真正面から向き合うの。こっちが心閉じちゃうと、向こうも閉じちゃうじゃない?ママに対しても、ちゃんと向き合ってくれたし。あ、友達とは、喧嘩になっても向き合っていたなあ」


「…喧嘩?ママも誰かとしたことある?」

「う~~~ん。こじれたことはある」

「それ、どうしたの?どうやって、また仲良くなれた?」

「そんなの、凪だって得意でしょ?」


「私が?」

「高校の時の友達と、ちゃんと向き合って、仲良くなったでしょう?」

「……千鶴?」

「千鶴ちゃんもだし、文江ちゃんや、他の子とも」


「……うん。そうだよね。あの頃、ちゃんと向き合えていたかも。でも、いつも隣に空君がいてくれたから心強かったの。空君がいなかったら、私きっと一人で何もできなかった」

「…そっか」

「それに、パパとママもいた。碧も…。だから、安心していられたの」


「今だって、パパもママも碧もいるよ。ちょっと離れているだけで、だけど、凪のこといつでも思ってるよ?」

「……うん」

「それは、空君だって」

「うん。そうだよね」


 そうだよ。空君がいるから強くなれる。みんながいてくれるから、強くなれる。いくら、離れていたって、みんなの心は離れて行っていない。空君だって。


「ありがとう、ママ」

「なんかあったら、いつでも伊豆においで。聖君がすぐに迎えに飛んでいくから」

「うん」

 元気出た!!


 電話を切って、部屋の掃除をした。それから、私はまたひいちゃんに会いに寮まで行った。

 お昼を食べようと誘ってみよう。何度断られても。


 ひいちゃんと向き合って、ひいちゃんが何で心を閉ざしているのか聞いてみよう。もし、空君のことが原因だったら、それもそれで、ちゃんと話をしてみよう。


 寮に行き、ひいちゃんの部屋の前まで来た。すでに頭痛がする。

「ひいちゃん」

 ドアをノックした。返事はない。思い切ってドアを開けてみると、中から冷たい空気が流れだしてきた。

「ひいちゃん?」

 部屋の中に進んだ。ひいちゃんは、ベッドに横になっていた。


 ひいちゃん、ご飯は食べているんだろうか。布団の中にうずくまっているけど、まさか、ずうっとここで寝ているだけなんじゃないよね。

「ひいちゃん?」

「凪ちゃん?」


「うん。大丈夫?」

 ひいちゃんは、布団から顔を出した。青白い顔をしている。

「ちゃんと食べているの?」

「朝食は食べた。お昼はこれから…」


「大丈夫?食堂一緒に行こうか?」

「いい。いいから、ほうっておいて」

「でも…」

「私、凪ちゃんじゃダメなの」


「え?」

「凪ちゃんだと、イライラするの。ごめん。なんだかわかんないけど、顔を見るのも嫌なの」

 そう言うと、ひいちゃんはまた布団の中に顔を隠した。


 そんなに私、嫌われているの?

 ズキッ。頭が痛い。それにゾクゾクと何か冷たいものがまとわりつく。

「ひいちゃん、私、今日はちゃんと話をするつもりで来たの」

「話なんてないよ」


「どうしちゃったの?家から帰ってきてから、具合悪いの?」

「そうだよ」

「家では?大丈夫だった?」

「……家では、居場所がなかった。私の部屋は妹が占拠していたし、親はずうっと仕事していて、私が帰ったって喜んでもくれなかった」


 そうだったんだ。

「凪ちゃんにはわかんないよ。あんなあったかい家族がいて、優しい彼氏がいて。男の人が苦手とか言ったって、かっちゃんって人とだって仲良くやっているじゃない」

「ひいちゃんも、きっと仲良くなれるよ」


「やめて!適当なこと言わないで。そういうの、迷惑。もっと自分が情けなくなってくる。同情なんていらないから」

「同情じゃないよ。ただ、私も独りになった時があって、すごくその時苦しかったから」

「じゃあ、凪ちゃん」


 ひいちゃんはいきなり、布団から顔を出した。そして、泣きそうな顔をしながら、

「私に、空君、くれる?」

と聞いてきた。


「え?」

「ちょうだいよ。あったかい家族がいるだけでもいいじゃない。私には何もないの。誰もいないの。だから、空君、ちょうだい」

 何を言い出したの?ひいちゃん。


「そんなの、無理だよ」

 私はびっくりしながら、そう答えた。すると、枕をいきなり投げつけ、

「じゃあ、帰ってよ。結局、凪ちゃんは何も犠牲になんかできないくせに!」

と言って、私をひいちゃんは睨みつけ、そのあと、わあっといきなり泣き出してしまった。


 変だよ。ひいちゃん。どうしちゃったの?

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ