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第17話 幸せ者

 翌朝、目が覚めると可愛い空君の寝顔がすぐ横にあった。

 ドキッ。何でこんなに近くに?とびっくりすると、私も空君もしっかりと布団ギリギリまで近寄って寝ていた。

 うわあ。こんなに近くで寝ていたんだ。


 しばらく空君の寝顔を見た。くーくーと寝息を立てている空君の寝顔は子供の頃のまま。

 キュン。可愛い。思わず髪を撫でてみた。すると、

「ん?」

と空君が目を覚ましてしまった。


「…凪」

「お、おはよ」

「おはよう」

 寝ぼけた顔で空君が挨拶をした。それからもしばらく、ぼけっと私の顔を見ている。可愛い。


「あれ?あ、そっか。旅行中だったっけ」

 どうやら今、この事態を把握したらしい。

「母さんと父さんは?」

「まだ寝てる」


「…じゃあ、静かにしていようか」

「うん」

 小声でぼそぼそとそう言って、空君は手を私の方に伸ばした。すぐに私は空君と手を繋いだ。


「凪の夢見たよ」

「どんな?」

「多分、一緒に暮らしている夢」

「そうなんだ」


 そんな夢見ちゃうんだ、空君ったら。

「でもさ、聖さんも一緒なんだ」

「え?パパも?」

「うん。それも、俺と凪の間に割り込んで寝てるんだ。すげえ、迷惑だろ」


「何それ、くすくす」

「聖さんなら、やりかねないよね」

「かもね」

 そんなことを言いながら笑っていると、

「空、凪ちゃん、起きたの?」

と春香さんの声が聞こえてきた。


「うん、おはよう」

「櫂はまだ寝てるから、私、朝風呂行ってくるわ。凪ちゃんも行く?」

「ううん、私はいい」

「俺も行かない。まだ眠いからゴロゴロしてる」


「そう?じゃあ、櫂がいつまでも起きなかったら起こしてね」

「わかった」

 春香さんは、着替えやタオルを持って部屋を出て行った。


「すごいなあ、朝起きてすぐに行動できる春香さん」

 私が感心すると、

「毎朝そうだよ。あの人、ほんと元気なんだ」

と、まるで自分の母親じゃないみたいな言い方をした。


「あの人?」

「うん、母さん」

「私さあ、春香さんも櫂さんも、子供の頃から可愛がってもらっているし、大好きなんだ」

「うん」


「だから、嫁、姑の関係も絶対にうまくいっちゃうと思うんだよね」

「嫁、姑?そんなこと考えたりすんの?」

「気が早いかな。ごめん」

「あ、ううん。気が早いとかじゃなくって、凪でもそういうの気にしたりするのかなって」


「ちょっと思っただけ」

「変なの。それを言うならくるみさんと桃子さんも、嫁、姑の関係だけど、仲いいよ」

「あ、そうだよね」

「俺も、桃子さんと聖さんとは、仲良くやっていけるし、義理の弟の碧も妹の雪ちゃんも、仲良くやっていける自信あるよ」


「そうだね、もうすでに、兄弟みたいだもんね」

「うん」

「くすくす」

 また、二人で声を潜めて笑った。


「空、凪ちゃん」

 ドキ!いきなり櫂さんの声がして二人でびっくりしてしまった。そして慌てて手を離した。

「え?何?父さん」

「春香は?」


「母さんなら朝風呂に行った」

「なんだ。置いてかれた。俺も行ってくる。まあ、風呂入るよりここにいるほうが、熱々だけどね」

「何くだらないこと言ってるんだよ。早く行けば?」

 空君が顔を赤くしながらそう言った。


「へいへい」

 櫂さんは、タオルだけ持って出て行ってしまった。

「……二人きりだね。凪」

「え?うん」

 ドキ。二人きりって言葉に、最近どうも弱いなあ。


 空君がまた私の手を握ってきた。

「あったかいなあ、空君の手」

「凪のも」

 そう言って二人で思わず見つめ合った。


 キュキュン。空君可愛いな。

「私って、幸せ者だよね」

「ん?」

「つくづくそう思ったの。空君みたいに優しい彼氏もいるし」


「え?」

 空君の顔が赤くなった。

「それに、家族仲もいいし、親戚の仲もいいし」

「うん、そうだね」


「私にとっての帰る場所って、いつもあったかいところなんだ。家も、まりんぶるーも」

「うん」

「でも…」

「何?もしかして、ひいちゃんさんのこと考えてる?」


「うん。実家に帰るのを嫌がったり、両親に会うのを嫌がるって、なんだか哀しいことだよね」

「かもしれないけど…。だけど、凪が何とかしてあげられる問題じゃないし」

「うん。そうなんだけど…。ひいちゃん、大学でも友達ほとんどいないんだよね」

「凪だけとか?」


「そうかも…」

「ふうん」

「だから、私が離れたら独りになっちゃうよね」

「なんだか、黒谷さん思い出すなあ」


「え?」

「今は黒谷さん、友達いっぱいいるし、碧っていう彼氏もいて、すごく性格も変わったって言うか。あ、もともとの性質は変わっていないのかもしれないけど、明るくなったよね」

「うん」


「それ、凪の影響大きいだろうけど」

「空君もね」

「俺?俺はどうかな。一緒に幽霊の話をしていただけで、彼女は俺といても、他の人とは関わろうとしなかったし」


「だけど、空君の影響もあると思うよ」

「……でもさ、多分、俺や凪の影響もあっただろうけど、黒谷さん本人なんじゃないかな」

「え?」

「本人が変わりたいって思ったんじゃないの?そう思わないと、周りって変わんないと思う。俺もそうだったし」


「空君が?」

「うん。俺、ずうっと人と関わるのが嫌で…、自分で独りになってた。どっかで冷めてて、もうどうでもいいやって」

「うん」

「でも、凪が伊豆に来て、凪との仲が戻ってから、いつも安心していられて、そうしたら、他の人とも自分から関わるようになっていったんだよね。たとえば、峰岸部長とか」


「……」

 空君はしばらく天井を見ていたけど、私の方に目を向けて、

「だけど、凪の影響大大大だけどね?」

と可愛い笑顔でそう言った。


「今は?学校で空君、どんな感じ?」

「え~~~~っと。天文学部は、ちょっと最近さぼり気味…。やっぱ、凪がいないとつまんないし」

「そうなんだ」

「他の連中が頑張っているしさ。2年の天文オタクの子たち、張り切っているから任せちゃってる」


「空君、女の子は?」

「え?女の子?」

「空君、モテてたから…。また、いろいろと言い寄られていたり…」

「ないよ。そんなの…」


 本当かな。たまに碧や、文江ちゃんから、空君がコクられてたって報告のメールが来るんだけどな。それは、空君に聞いてもいいものなのかな。

「安心して。榎本先輩といまだにラブラブっていう噂、ちゃんと広まっているから」

「え?何それ」


「だって俺、言ってるもん。コクられても、俺は榎本先輩と今も付き合ってて、他の子に興味まったくないからって」

 うわ~~~~~~~。そうなの?

「空君」

 空君の手を引っ張り、腕にムギュっと抱き着いた。


「好き!」

「う、うん」

 もう、空君、大大大好き。

「うん。わかった。ありがと、凪」

「え?」


 心の声聞こえた…とか?

「光がすげえことになってるよ」

「あ、そっか。えへ」

 

 やっぱり、私は幸せだ。そう思えば思うほど、なんだか、ひいちゃんが気になってしまう。

 だけど、空君が言うように、自分で変わろうとしない限り変われないのかな。それに、私、今ひいちゃんに関わろうとすると、もやもやしちゃって、一緒に暗い霧の中に入りそうだし。


 どうしたらいいんだろう。


 春香さんがお風呂から帰ってきて、

「ほら、もうすぐ朝食の時間だから、あなたたちも起きなさいよ」

と言われ、私と空君も起き出した。


 そして、Tシャツとパーカー、スエットのパンツのまま、空君も私も一階の食堂に行った。すでにそこには、パパもママも雪ちゃんもいた。

「あ!凪!こら!」

 うわ。パパにおはようの挨拶より先に怒られた。


「お前、昨日部屋に戻ってこなかったな!」

「ひいちゃんがいたから、寝るところないかなって思って…」

「ひいちゃんだったら、自分の部屋で寝るって戻ったわよ」

「え?そうだったの?ママ」


「そうだよ。だから、凪が来るかなあって思ったのに。まさか、空と同じ布団で寝てたりしないよな?」

「あはは。心配性ね、聖。ちゃんと別々の布団で大人しく寝ていたから安心して」

 春香さんが笑いながらそう言って、席に着いた。私と空君も春香さんと同じテーブルに座った。そのすぐあと、櫂さんもやってきた。


「あ、凪、なんでそっちのテーブル?」

「いいじゃないか、聖。もう凪ちゃんはうちの家族も同様なんだから、ね?」

「櫂さん!まだ、凪はうちの娘なんだよ」

「そのうち、うちの娘になるんだから」


 櫂さんの言葉にパパはまだ文句を言おうとしたけど、

「聖君、大人げない」

とママに言われ、ようやく黙り込んだ。


 ああ、朝から、うちの家族は賑やかだよなあ。周りを見ると、みんな和やかにご飯を食べていると言うのに。

 食べ始めても、わいわいと賑やかで、笑い声が絶えない榎本家の面々…。


 そこに、ひいちゃんは来なかった。そして、私たちが旅館を出る時に顔を出したけど、

「私はもう少し家に残ります。みなさん、お世話様でした」

と誰ともなく私たちにそう言って頭を下げた。


「なんだ。凪と一緒に帰らないの?」

 パパが聞くと、ひいちゃんは「はい」と頷き、すぐに旅館の奥へと引っ込んでしまった。

 それと入れ違いで、ひいちゃんのお母さんが来て、私たちに丁寧に挨拶をしてくれた。


 そして、私たち榎本ご一行は、旅館を出て車に乗り込んだ。空君ともここでお別れだ。

「じゃあね、空君」

「凪、また何かあったらいつでも呼んで」

「うん」


 パパの車に乗って、私は駅まで送ってもらった。

「あ~~あ、アパートに戻りたくないなあ」

「どうして?凪」

「だって」

 空君とまだまだ、一緒にいたかったんだもん。


「聞かないでもわかるでしょ、桃子ちゃん。凪の考えていることなんて」

「まあね」

 パパの言葉にママはそう答えた。雪ちゃんは車に乗った途端、くーくーと寝てしまって大人しい。


「それだけじゃないよ、ママ。パパやママ、雪ちゃんといるとすごく癒されるんだもん」

「じゃあ、部屋に戻ってきたら良かったじゃないか」

「また、聖君は~~~。聖君だってね、きっと高校生の頃、私が親と一緒の部屋に泊まるって言ったら、拗ねていたと思うよ?」


「俺が?まさか!お父さんからむやみやたらと、桃子ちゃんを離れさせたりしないよ。俺はね!」

「あ、そうか。それもそうか。聖君、そういうのちゃんと考えていてくれたもんね。っていうか、うちのお父さんの場合、私より、聖君と一緒の部屋で夜通し釣りの話でもしていそう」

「ああ、そうかも」


「それか、ひまわりに聖君、取られていたかも。ううん、お母さんだって聖君と話したがるだろうし。ああ、きっと私より、他のみんなに聖君は取られちゃって、私がいじいじしているって、そういうパターンだ」

「ああ、そうかもね」

 へえ、そうなんだ。面白いなあ、ママ。


「パパって、ママの家族の人気者なんだね。今も、ママの実家に行くと、そうだもんね」

「そう。最近はひまわりの子供たちにも大人気」

 確かに。パパってなんだって誰からでも好かれちゃうのかな。


「パパは誰に対しても、ウェルカムだからなのかな」

 ひいちゃんだって、初対面のパパに対して、話せていたし。男性苦手なあのひいちゃんが。


 はあ…。そんな人がひいちゃんのそばにいてあげたら、きっと私が悩んだりしないでもいいんだろうな。なんて、そんなことを思ってみたり。


 ひいちゃんは、私と一緒に帰りたくなかったのかな。あんなに嫌がってた家に残るって言ってたし。明日帰るのかな。でも、明日大学あるのにな。


 もやもや…。一瞬、気分が落ち込んだ。でも、パパとママが笑いながら話していて、それを聞いていたらすぐに気持ちが上がった。

 それに、雪ちゃんの寝息もたまに聞こえてきて、私は車の中でずっと癒されていた。




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