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第15話 旅行

 結局、ひいちゃんも一緒に行くことになった。最寄りの駅まで電車で行き、駅前に着くとすでに、パパの車は到着していた。


「やあ、秀実ちゃん」

 メールでひいちゃんも一緒に行くとパパには送っておいた。パパの車には、ママと雪ちゃんが乗っていた。

「ひいちゃん、よろしくね」

 ママも車にひいちゃんが乗ると、ニコニコ顔で挨拶をした。ひいちゃんも恥ずかしそうにパパとママに挨拶をしていた。


 私はまだ複雑な心境。

「ママ、空君は?」

「空君は爽太パパのワゴンで、春香さんと櫂さん、じいちゃんとくるみママと行ってるよ。もう旅館についているんじゃないかな」


 そうか。みんなで一緒に出発して、パパの車だけが私を迎えに駅まで来てくれたのか。

「部屋割りは、うちの家族、春香さん家族、父さん、母さんとじいちゃん…、で分けたらいいよな?」

 運転をしながらパパがそう言うと、

「え?じゃあ、私は?」

とひいちゃんが焦った顔で聞いた。


「秀実ちゃんは、自分の家なんだから、自分の部屋があるよね?」

 パパがバックミラーを見ながらそう言うと、ひいちゃんは暗い顔をして、

「私、みんなと一緒に泊まりたかったんです」

と呟いた。


「みんなって?」

 ママがそう聞くと、

「榎本家のみんなです。この前凪ちゃんの家に泊まった時、とても楽しかったから」

と、ひいちゃんはまだ暗い表情のままそう答えた。


「うちにはまた泊りにおいで。でも、今日はちゃんと自分の家に泊まったほうがいいんじゃないのかな。お母さんやお父さんと、しばらく会ってないんじゃないの?」

 パパが優しく聞くと、ひいちゃんは黙って頷いた。でも、

「お父さんもお母さんも忙しいから、私がどこに寝泊まりしようが構わないと思います」

と、そうパパに訴えた。


「う~~~ん。じゃあ、どういう部屋割りにしようかな~」

「私たちと一緒の部屋に泊まって、聖君が爽太パパの部屋に行ったらいいんじゃない?」

「え?!何それ!俺がなんで桃子ちゃんや凪と離れなきゃならないんだよ。俺だって凪と一緒に寝れるの楽しみにしていたのに」


「そんなこと言って、どうせ櫂さんと酔っ払って、他の部屋で寝ちゃうんじゃないの?」

「まさか!今日はそんなに飲まないつもりだし」

「じゃあ、くるみママと春香さんとひいちゃんとで寝る?空君と櫂さんには、爽太パパの部屋に行ってもらって」

「え?それはちょっと。凪ちゃんが一緒だったらいいけど」


「ダメ。凪は俺の隣で寝るの」

「もう~。聖君、大人げないよ」

 ママにそう言われても、パパは拗ねたまま。


「いいな。凪ちゃん…」

 ぼそっとひいちゃんが、俯きながらそう呟いた。

「何が?」

「お父さんと仲良くて」


「……」

 そうか。あんまりひいちゃんは仲良くないんだっけ。

「とりあえずさ、秀実ちゃんはご両親のところにいきなよ。帰ってくるのを楽しみにしているかもしれないんだから」

 パパの言葉に、ひいちゃんは特に何も答えなかった。


 我が家は、娘や奥さんにべったりの甘えん坊のパパがいて、私もパパともママとも仲良くて、それが当たり前だと思っていた。だけど、お父さんと娘の仲が悪いっていう家族もあるんだよね。


 旅館に着いた。すぐに旅館から人が出てきて、

「お待ちしていました」

と明るく出迎えてくれた。


 驚いたことに、大きな旅館だ。それもかなりの歴史があるような…。

 旅館の中に入ろうとすると、

「いらっしゃいませ。お待ちしていました」

と、ひいちゃんに似た人が出迎えてくれた。まだ、若そうな女の人。


「秀実がいつもお世話になっています」

 その人はそう言って丁寧に頭を下げた。

「姉です」

 ひいちゃんは、パパとママにその人を紹介した。


「お姉さんなんだ。どおりで似てると思った。よろしくお願いします」

 パパが爽やかにそう微笑むと、お姉さんは顔を真っ赤にさせた。あ、またパパやっちゃった。パパの爽やかな笑顔でなんで女性のハートを掴んじゃうのかなあ。


「あ~~~う!」

 ママに抱っこされている雪ちゃんが暴れ出した。車の中ではぐっすり寝ていたが、旅館に着くとぱちりと目を覚まし、どうやら広いロビーを自分の足で歩きたいようだ。


「雪、あんよしたいの?」

 パパがそう聞いて雪ちゃんをママから受け取った。そして、床に下ろすと雪ちゃんは嬉しそうによちよちと歩き出した。


 このよちよち歩きはたまらない。しばらくパパ、ママ、私で雪ちゃんのよちよち歩きを見守るように眺めていたが、

「あの…。お部屋の方に案内してもよろしいでしょうか?」

とお姉さんに聞かれ、パパはひょいっと雪ちゃんを抱っこして、

「すみません、お願いします」

とにこりと微笑んだ。


 お姉さんは、「こちらです」と顔を赤らめながら歩き出した。荷物はすでに、他の人が部屋に運んでくれていた。

「あ~~う~~。あ~~~」

 パパに抱っこされ、また暴れ出した雪ちゃん。

「わかった。わかったから暴れるな、雪。部屋に着いたら思う存分よちよちしていいから」


 歩けるようになってから、雪ちゃんはすぐに歩きだがるからなあ。けっこう、あっちこっち行っちゃうし、おてんばなんだよね。誰に似たの?と前に聞いたら、凪も碧もそうだったって言われたっけ。


 ママは赤ちゃんの頃大人しかったらしいから、みんなパパ似なのかなあ。う~~ん。


「こちらの部屋です」

 案内された部屋に入り、パパは雪ちゃんを下ろした。雪ちゃんは、すぐににこにこしながら歩き出した。と思ったら、ころりんと尻もちをつき、そのまま今度ははいはいをし始めた。そして、部屋の真ん中にあったテーブルに上り出そうとしている。


「雪、そこは上っちゃダメ!」

 パパが慌てて雪ちゃんをまた抱っこする。

「や~~!」

 そうすると雪ちゃんが下りたがって、足をバタバタさせる。


「わかった。雪、ほら、外を見よう。あとで散歩に行こう、な?」

 パパは雪ちゃんを抱っこしたまま、窓のほうに行って雪ちゃんに外の景色を見せている。

 大変だ。雪ちゃんはしばらく見ないうちに、どんどん動き回るようになったんだなあ。


「お茶を入れましょうか?」

「自分たちでします。きっと、今入れたら雪ちゃんがこぼすかもしれないし」

「そうですか。かしこまりました。何か用がある時はいつでも申し付けてください。では、ごゆっくり」

 お姉さんはお辞儀をして、静かに部屋を出て行った。


「あれ?そういいえば、ひいちゃんは?」

 ママが私に聞いてきた。

「みんなで雪ちゃんのよちよち歩きを見ているうちに、どっかに消えちゃったよ。多分、自分の家に行ったんじゃないかな」


「ひいちゃんの家、旅館と離れているの?」

「うん。同じ敷地内にはあるって言ってた」

「そっか~~。しばらくぶりに帰ってきたんだし、家でのんびりしたほうがいいよね」

 パパがテーブルの前に座りながらそう言った。雪ちゃんはパパの胡坐をかいた足の上にちょこりんと座った。


「雪ちゃん、喉乾いたでしょ?お茶飲む?」

「ぶ~~」

 飲むと答えたらしい。雪ちゃんはご機嫌な顔で、お茶を飲みだした。


 トントン。とその時ドアをノックして、

「聖、着いたのか~~」

と爽太パパが入ってきた。その後ろから空君も顔を出した。


「空君!」

 なんだか、前より顔が黒い。日に焼けたのかな。

「凪」

 会えた。嬉しい。抱き着きたい!!!


 ギュ!

「こら!凪、そんなに空に引っ付くなよ」

 パパに怒られた。でも、そんなの無視して、空君の腕を引っ張り私の隣に座らせた。


「凪ちゃん、桃子ちゃん、雪ちゃん、着いたのね」

 くるみママと春香さんも来た。でも、おじいちゃんと櫂さんはいない。

「じいちゃんと父さんは、露天風呂に入りに行ってるよ。今の時間帯は男風呂になってるんだって」

 空君はそう言いながら、テーブルの上にあったお菓子を一つ取って、

「これ、うまいんだよ。凪も食べたら?」

と私にくれた。


「ありがと!」

 なんだか、すごく嬉しい。空君と旅行って初めてかもしれない。

「そっか。今、男風呂だったら、父さん、露天風呂入ってこようよ」

「早速行くか?空は?」


「俺、風呂入ると寝そうだし、いいや」

 爽太パパの誘いに乗らず、空君はすっかり私たちの部屋で寛ぐ体勢になっていた。


「ほんじゃ、行ってきます」

 パパは雪ちゃんをママに渡し、浴衣やタオルを持って部屋を出て行った。

「あ~~う」

 ママの膝の上に座った雪ちゃんは、さっさとママの膝の上から立ち上がり、嬉しそうにテーブルを伝い歩きして、ちゃっかり空君の膝の上に乗っかってしまった。


「雪ちゃんに空君取られた」

 ぼそっとそう呟くと、

「え?」

と空君は私の方を向いた。


「雪ちゃん、空君が大好きだもんねえ。ライバルになっちゃうかしら」

 くるみママが笑いながら私に言った。

「ライバル?」

 え~~~。嫌だよ。勝ち目ないかもしれないじゃない。


「でも、俺、来年には伊豆からいなくなるし、そうそう雪ちゃんに会えなくなるから、すぐに俺のことなんて忘れられるんじゃないのかなあ」

「寂しいの?忘れられたら」

 つい、私は空君にそう聞いてしまった。


「まあね」

 空君はそう言ってから私の方に顔を寄せ、

「でも、毎日凪に会えるようになるから、そっちのほうがいいけど」

と、すごく声を潜めて囁くようにそう言った。


「聞こえたよ~~、空君。でもその前に受験がある」

 くるみママの言葉に空君は顔を赤くさせ、

「そうだった」

と目を伏せた。


 それにしても、すぐ横に空君がいるのが嬉しい。膝の上は雪ちゃんが占拠しているとはいえ嬉しい。べたりと空君の腕に私の腕をくっつけた。ああ、空君の可愛くてあったかいオーラ。それに包まれ、一気に幸せ気分になる。


「そうだ。凪。今ね、ばあちゃんも来てるから」

「え?そうなの?」

「うん。雪ちゃんと凪の光で、癒されるって喜んでる」

 そっか。私も嬉しい。


「さすがにじいちゃんにくっついて、男風呂には行けなかったみたいだよ」

「あ、そうなんだ。じゃあ、いつもおじいちゃんと一緒にいるの?」

「たいていがね。でも、俺の部屋に遊びに来ることもあるし、凪のところにもよく行ってるみたい」

「私もおばあちゃんと会話が出来たらいいのに」


「だから出来るって」

「どうやって?」

「う~~ん。チャンネルを合わせるみたいにするんだけど」

「え?それ、どうやってするの?」


「説明は難しいなあ」

 そう言う空君の膝の上で、楽しそうに雪ちゃんが誰もいないほうを見てきゃっきゃと笑っている。

「雪ちゃんは、ばあちゃんと話せるみたいなんだけどね。今も、ばあちゃんにあやされて笑ってるし」

「お母さん、雪ちゃんのことあやしているの?」

 春香さんがそう聞くと、空君はうんと頷いた。


「いいわね、私もお母さんと話がしたいわ」

 春香さんがそう言うと、くるみママもママも頷いていた。


 トントン。

「はい?」

 ドアをノックする音が聞こえ、春香さんが大きな声で返事をした。

「失礼します」

と入ってきたのは、ひいちゃんだった。


「ひいちゃん?どうしたの?」

 ママが聞くと、

「あの…。しばらくお邪魔してもいいですか?」

と返事も聞かず、ひいちゃんはどんどん部屋の中に入ってきて、

「あ、空君!」

と空君を見つけ、空君の右隣に座ってしまった。


「……」

 空君はちょっとびっくりして、黙っている。

「ひいちゃん、家には帰ったの?お母さんとお父さんは?」

「二人とも仕事しているから、家はもぬけの殻です」

「そう」


 ママの言葉にそう答えたひいちゃんは、空君の方を向き、

「空君って、一見とっつきにくそうだけど、そうでもないよね」

と唐突に話しかけた。

「え?」

「こうやって隣にいても、大丈夫だもん」

 勝手に隣に座って何を言っているんだ。空君の左隣で私はやきもきしてしまった。


「ねえ、お姉さんがこの旅館をつぐの?」

 春香さんがひいちゃんに聞いた。

「そうです。今は若女将って呼ばれています」

「じゃ、お姉さん、ご結婚は?」

「まだです。結婚するのかどうかもわからないです。だって、旅館から一歩も外になんか出られやしないし」


「大変ねえ」

「私はもう、この旅館を手伝うのも嫌だから、あんまり帰ってきたくないんですけど」

「じゃあ、どうして一緒に来たの?」

 つい、きつい口調で私は聞いてしまった。


「それは、みんながいるから」

「みんな?」

「榎本家の皆さんと会いたいって思って」

「へえ。気に入っちゃった?だったらまた、まりんぶるーにも遊びにおいでね?」

 くるみママが優しく言うと、ひいちゃんは嬉しそうに頷いた。


 私もまりんぶるーに来るのも、我が家に遊びに来るのも全然OKだ。でも、空君の隣に居座られるのはすごくいい気がしない。


「ねえ、空君」

 またひいちゃんは空君に話しかけた。でも、なぜか空君は私の方を見て、

「どうした?凪」

と聞いてきた。


「え?」

「あ~~う」

 空君とおんなじように雪ちゃんまでが、私に何か話しかけてきた。それに、私の腕まで触ってくる。

 その途端、ふわっと気持ちがあったかくなった。


「あ~~?」

 にっこりと雪ちゃんが微笑む。

「今、凪から光が一瞬にして消えたんだ。でも、雪ちゃんが凪のこと光で包んじゃったけど」

「だから、あったかかったんだ」


「なんかあった?凪」

「え?ううん。なんでもない。疲れちゃったかな。ちょっとよっかかってもいい?」

「いいよ」

 空君の肩にもたれかかった。


 それを見てひいちゃんはもう、空君に話しかけてこなくなった。


 光が消えたのは、嫉妬したからかもしれない。雪ちゃんがそれを察して、ちゃんと光で包んでくれたのかな。優しいなあ。まだ1歳の妹に、守ってもらっているだなんて…。

 それに比べて私はなんて、心が狭いんだろう。そのあと、ほんのちょっと私は落ち込んでしまった。


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