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第12話 久々のまりんぶるー

 ひいちゃんとイルカのショーを見に行った。イルカを見ていると、やっぱり癒される。ショーが終わると、

「凪ちゃん」

と、健人さんに見つかって声をかけられてしまった。


「あ、こんにちは」

「久しぶりだね。確か凪ちゃん、市内に一人で暮らしてるって聞いたけど」

「はい。大学の友達と今日は遊びに来ました」

「そうなんだ」


 健人さんはにこりとひいちゃんに微笑んだ。だが、ひいちゃんは私の影に隠れ、

「凪ちゃん、他のところ見に行きたい」

と私に話しかけてきた。

「うん。じゃあ…」


 私も健人さんはいまだに苦手なので、その場を二人でそそくさと逃げるように去ってしまった。

「なんだろう。どこが違うのかな」

 クラゲの水槽を眺めながら、ひいちゃんがぽつりとそう言った。

「え?なに?」


「今の人と、凪ちゃんのお父さん」

「健人さんとパパ?」

「凪ちゃんのお父さん、すっごく若いね。お兄さんかと思った」

「あ、よく間違われる」


「それに、すっごくかっこいいね」

「うん。昔からすごくもてるから、ママが大変なの」

「大変って?」

「気が気じゃないって言うか心配って言うか」


「ああ、そうだよね。あんなにかっこいいんじゃ…。でも…」

 でも?

 ひいちゃんはしばらく、ふわふわ泳ぐクラゲを見つめ、

「なんで、嫌な感じがしなかったのかなあ」

と呟いた。


「パパ?」

「うん」

「……なんだろう。何か発してるのかなあ…なんちゃって」

「爽やかさ?」


「ああ。それも良く言われる。パパや碧って、男臭さがないっていうか、爽やかなんだよね」

「碧って?」

「弟。今年高校2年。パパが高校生の頃とよく似てるらしいよ」

「じゃあ、イケメン?」


「う~~ん、まあ、そうかな。あ、でも、彼女持ちだから」

「へえ、いいなあ」

「え?何が?」

「爽やかな彼氏。きっと、私もそういう人なら大丈夫かもしれないなあ」


 でも、ダメ。文江ちゃんと付き合っているもの。まあ、会ったところでどうにもならないとは思うけど。


 水族館の中を全部まわり終え、私とひいちゃんは水族館の中にあるカフェでのんびりすることにした。

「な~~ぎ!お待たせ」

 そこに、パパがにっこにっこ顔でやってきた。


「早いね。まだ閉館まで1時間以上あるよ?」

「うん。凪が久しぶりに来てるって言ったら、帰っていいって」

「館長さんが?」

「うん」


 ほんと、館長さんはパパに甘いと思う…。まあ、パパが水族館に勤めるようになって、ここの水族館、平日でも冬の寒い時期でも、人が集まるようになったんだけどね。なにしろ、パパ目当てで来るママさんたちとか、けっこういるし。


「さ、まりんぶるー行こう。桃子ちゃんも凪に会うの楽しみにしてるからさ」

「桃子ちゃんって?友達?」

 ぼそぼそとひいちゃんが、私に聞いてきた。

「ううん。ママのこと」

「え?お母さん?」


 ひいちゃんと一緒にパパの車に乗り込んだ。パパはずっとご機嫌。ご機嫌だとさらにパワーが増すのか、パパと一緒にいるとどんどん元気になった。

 

「凪、大学慣れた?」

「うん」

「テニスサークル入ってるんだよね。変な男いない?」

「いないよ~」


「まじで?ほんと?」

「心配性だな~、パパは」

「だってさあ、凪、のほほ~~んとしているからさ~~」

「大丈夫。しっかりやってるから安心して」


「飯は?ちゃんと食べてる?弁当は作れてる?」

 ああ、もう。子供じゃないんだから。ひいちゃんだって、呆れちゃうよ、恥ずかしいなあ。

「頑張って作るようにしてる」

「あ、シチュー、旨かったって言っていたもんな」


「え?」

「空。この前、凪の作ったシチューを食べたって、喜んでいたから」

 うそ。喜んでたの?って、なんだってパパに報告しているんだ。

「いいなあ。パパも食べたかったなあ」

 あ、拗ねた…。もう~~、ひいちゃんがいるのに、恥ずかしいパパだなあ。


「仲いいんだね、お父さんと」

「え?う、うん」

「いいなあ」

「ひいちゃんは?お父さんと仲良しじゃないの?」


 パパがバックミラーでひいちゃんを見ながらそう聞いた。

「うちは…。旅館をしているから忙しくて、あまり話もしなくって」

「旅館?!凪、今度ぜひ、泊まらせてもらおう」

「え?う、うん」


 パパ、話、ちゃんと聞いていたのかなあ。お父さんとの話題はいいの?もっとちゃんと聞いてあげてよ。

「みんなで旅行とか行ってないもんなあ。まりんぶるー休んで、父さんや母さん、春香さんや櫂さん、空も一緒に行きたいねえ、凪」

 空君も?!


「行きたい。行きたい、行きたい。あ、でも空君、受験」

「1泊くらい、大丈夫だよ」

「だよね!?」

 それ、ナイスアイデア~~!!!


「そんなにたくさんでも、泊まれたりする?」

 パパがひいちゃんに聞くと、ひいちゃんは、

「はい」

と頷いた。でも、あまり乗り気じゃない。


「じゃあさ、お父さんに聞いてみて。週末…、土曜日に1泊、人数は10人くらい。赤ちゃんもいる」

「はい。部屋3部屋くらいでいいですよね」

「うん」


 わあい。わあい。わ~~~い。

 って、あれ?確か、ひいちゃんのお父さんとの話を聞いていた気が…。


 まりんぶるーに着いた。お店は二組のお客さんがいた。

「凪ちゃん、久しぶり」

 キッチンから春香さんが顔を出した。空君は?いないのかな。あ、そうか。まだ塾か。


「桃子ちゃんなら、リビングにいるわよ。雪ちゃんと碧と一緒に」

 そうくるみママもキッチンから顔を出して教えてくれた。

「うん。あ、友達のひいちゃん。ひいちゃん、くるみママ…、えっと、パパのお母さんと、パパのおばさんの春香さん」


「よろしくね、ひいちゃん」

 くるみママと春香さんがそうひいちゃんに言うと、ひいちゃんは顔を赤らめ、

「あ、はい」

とぺこりとお辞儀をした。


「空はあと30分もしたら来るわよ、凪ちゃん」

 リビングに行こうとすると、春香さんがそう後ろから声をかけてきた。

「空君って、凪ちゃんの彼氏の?」

 隣にいたひいちゃんが、私に小声で聞いてきた。


「うん。春香さんは空君のお母さんなの」

「え?そうなんだ。そっか~。親戚って言っていたもんね」

「リビングに行ってのんびりしよう」

「うん」


 ひいちゃんを引き連れ、リビングに行った。リビングにはパパもついてきた。

「ママ、碧、雪ちゃん、おじいちゃん!」

 リビングに入ると、みんなでテレビを観ながら寛いでいるところだった。


「凪!お帰り!」

 一番にそう声をかけてくれたのは、おじいちゃんだ。

「ただいま!」

 わあい。まりんぶるーのリビングが懐かしい。あ、おばあちゃんのあったかいオーラも感じる。きっと今、すぐ近くにいてくれてる。


「凪、お友達、紹介して?」

 ママに言われ、慌てて私はひいちゃんをみんなに紹介した。ひいちゃんは、顔を赤らめお辞儀をして、そのあと、碧のことを見てさらに顔を赤らめた。


「雪ちゃん、久しぶり」

 私は碧の膝の上にいた雪ちゃんを、ひょいっと抱っこした。

「雪ちゃん、凪お姉ちゃんのこと覚えてる?忘れてない?」

 雪ちゃんは、私のほっぺをペちぺちしながら、にこりと笑ってくれた。あ、覚えてくれてるんだ。


「ほっぺ、ぺちぺちするところは、凪にそっくりだよなあ」

 パパがそんな雪ちゃんを見て、私の横から言ってきた。

「私、ほっぺたたいてた?」

「うん。パパのほっぺ、よくペちぺちしてた。すげえ、可愛かったよ?」


 そうなんだ。

「あ、ひいちゃん、そこ座って。碧の隣」

 ママが碧の隣にひいちゃんを座らせた。碧は、

「どうも、初めまして」

と、適当に挨拶をすると、またテレビの方を向いてしまった。


 ん?機嫌悪いとか?

「碧、どうかした?」

「え~~~?別に」

「なんか、機嫌悪くない?」


「い~~~や、別に」

 何かあるな、これは。

「碧は拗ねてるのよ。今日、文江ちゃん誘っても来なかったから」

「な、何言ってるんだよ、母さん。俺は別に」


「なんで、誘っても来なかったの?」

「文江ちゃん、バイトなんだから、しょうがないじゃない」

「う…。そうだけどさ~~」

 ママの言うことに、碧は口を尖らせた。


 碧の隣に座ったひいちゃんは、ずっと顔が赤かった。どうやら、碧もパパ同様、隣にいても大丈夫らしい。まあ、霊も吹き飛ばしちゃうし、居心地はいいかもしれないなあ。


 それから30分後、息を切らしながら空君がやってきた。

「凪」

 空君の可愛い笑顔が、リビングのドアを開けて飛び込んできた。

「空君!」


 きゃわ~~~~~!!抱き着きたい。でも、パパがじとっと私たちを睨んでいる。でも、抱き着きたい~~~!え~~い。

 ギュム!


 抱き着いちゃった。


「凪、こら、離れなさい」

 パパに言われた。でも、しばらく抱き着いていると、

「な、凪。えっと、離れて?」

と空君に言われてしまった。


「あははは。相変わらずの光景だね。瑞希」

 おじいちゃんが大笑いをしながらそう言った。え?瑞希?

「空、瑞希も笑っているだろ?」

「うん。笑ってる」


 空君がそう言うと、おじいちゃんは嬉しそうに自分の隣を見た。誰もいないそこには、きっとおばあちゃんがいる…。

「じいちゃんも、ばあちゃんのことが見えるようになっちゃったんだ」

「え?!」


 空君、今、なんて言った?

「声まで聞こえないらしいけど」

「そうなの?すごい。羨ましい、私も見たいよ」

「凪なら見れるし、声も聴けると思うけどな」

 そう言いながら空君は、私の隣に座った。


「あの、おばあちゃんって」

 碧の隣にいるひいちゃんは、一回あたりを見回してから、私と空君に聞いてきた。

「おばあちゃんは、おばあちゃん。あ、正確に言えばひいばあちゃん」

 私や空君ではなく、そう碧が答えてしまった。ひいちゃんは、碧の方を見てまた顔を赤らめた。


「もう、亡くなっているんだけど、じいちゃんを守るために魂だけ残ってるんだよ、ここに」

「え?!ゆゆ、幽霊?」

「幽霊みたいなのとは違う。もっとこう…、エネルギーが高い感じ。わかる?」

 空君がそう言っても、ひいちゃんは首を傾げたまま、少し怖がっている。


「ひいちゃんも、霊が憑りつきやすいんだよね。今日も憑りついていたみたいで。でも、パパと会って、すぐに吹き飛んだみたいだけど」

「え?凪は?大丈夫だった?」

「ううん。ちょっとやばかった。だから、パパに会った時、思い切り抱き着いちゃった」


「あれ?それでだったの?パパに会えて嬉しくてじゃないの?」

 パパが寂しそうに聞いてきた。

「もちろん、嬉しくてだよ。それに、早くパパに助けてもらいたかったの」

「そっか」


 パパは私にハグをしようと、空君との間に割り込んで来ようとした。でも、なぜか空君が私の膝の上にいた雪ちゃんをパパに「はい」と渡し、空君と私の隙間を埋めるように私に近づいた。


「おい、なんで、凪に引っ付くんだ?」

「凪、守ってあげないとならないから」

「今は俺がいるから大丈夫なんだよ、空」

「でも、やっぱ、ここは俺が」


 あ、空君、パパに頑張って対抗してる。

「聖君、ほら、二人の仲に割って入ろうとしないで。そうだ。そろそろ櫂さんが来るんじゃない?お店に行って来たら?お父さんもいるんだし」

「ひどいなあ、桃子ちゃんまで追い出そうとして。ふ~~んだ。雪ちゃんさらって行っちゃうもんねえ」

 

 拗ねながらパパは、お店のほうに行ってしまった。

「くすくす。あとで、パパに優しくしてあげて、凪。凪に会えるの、本当に楽しみにしていたから」

「うん。うちに帰ったらね」

 でも、今は空君のオーラに包まれていたいから。


 空君の肩にもたれかかってみた。ほわわん。ああ、空君だ。


 ふと視線を感じた。横を見ると、ひいちゃんが、じいっと空君のことを見ている。

 まだ、空君に興味を持っているのかなあ。あんまり空君のことじろじろ見てほしくないんだけど。


 ギュ。空君の腕にしがみついた。空君は、私ではなく、誰もいないところを見つめている。あ、おばあちゃんかな?


「うん。そうだね。ばあちゃん」

 空君はにっこりと微笑んで、おばあちゃんに返事をした。

「おばあちゃん、なんだって?」

「凪のこと、守ってあげないとねってさ」

「え?」


「ばあちゃんも、たまに凪のところまで飛んでってくれるって」

「私の?」

「…アパート、ちょっとやばくない?」

 わかってるんだ。


「また、俺も行くけど、行けない時は俺の魂とばあちゃんで一緒に行くからさ」

 ぼそぼそと、他のみんなに聞こえないくらいの小声で空君はそう言ってくれた。


 よかった。ほっとした。なにしろ、ここでは霊が寄ってこないからいいけど、アパートではそうもいかないもん。あ、それにひいちゃんだって。ここでなら大丈夫だけど、あの寮に帰ったらまたやばいんじゃないのかなあ。





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