宝箱設置隊
みなさんはRPGゲームをプレイしてて洞窟や塔と言ったダンジョンと呼ばれる場所には
当然足を踏み入れたことがあると思います。
そしてそこで『宝箱』を開きアイテムを入手してるはずです。
ですが、街の人に話を聞くと「あの洞窟に行ったら誰も帰ってこないんだ」やら「あの城は魔王の住処だから近づくだけ殺される」
といった話が聞ける時があります。
じゃあなぜその場所に『宝箱』が置いてあるのか? そう思ったことはあるでしょうか?
魔王が勇者の為に宝箱を置くなんて考えられません! 世界を滅ぼそうとしてるヤツですからね。
ならばいるはずです! 宝箱を置いている団体が!?この物語はそんな宝箱を置く団体『宝箱設置隊』の物語である。
「今回は六大魔王の一人、闇の魔王ブラムの城に宝箱を設置する!」
朝の定例会議で唐突に言い放つのは宝箱を設置する実行部隊『闇の剣』の隊長ヴァイスの言葉から始まった。
ヴァイスは二十五〜七歳の顔立ちに若い隊長だ。しかしその信頼性は絶大で他の部隊からも信頼がある。
周りからは「とうとう魔王か!」や「やってやるぜ!」やら威勢のいい声が聞こえるなか入隊してから三ヶ月になる短い金髪が眩しい
少女カリン=エルヴァート絶句していた……
「あの……ヴァイス隊長……本気ですか?」
と、十六才になったばかりの剣士カリンがそんなことを言ってみた。が、カリンにはわかっていた。その質問が無意味であることを。無意味とわかっていても訊かずにはいれなかった。なんせ魔王城に宝箱を設置するのだから。
「もちろんだ! カリン=エルヴァートよ!」
思ったとおりの返答にカリンは「やっぱり……」とうつむきため息交じりにつぶやいた。
ヴァイスが相手をフルネームで言い放つって事は本気の証拠だ。本気で魔王城に宝箱を置く気だ。カリンはふたたび深いため息をつき入隊したての頃の初仕事。ドラゴンが住まう森の事を思い出していた。
(あの時もこんな感じの始まりだったな……大変だったな〜〜)
今となってはその初仕事はいい思い出になりいい経験になっていた。
「カリン! カリン!」
隊長の言葉に思い出から呼び戻される。
「なに、ぼぉ〜としてるんだ! 設置会議を始めるからこの魔王城の見取り図を見ろ!」
「は、はい! すいませんでした!」
「よし、まず『風の剣』が偵察してきたこの見取り図をみてくれ」
部屋の中央にある大きな机に大きな魔王城の見取り図を広げてその圧倒的な広さに目を見張る。
六階建ての魔王城はかなり広く一階だけでも部屋が十以上ある城だった。
そして、この大きな地図がなんと縮小図だとヴァイスが言った。その場の皆が少し立ちくらみがしたのは気のせいではないだろう。
ちなみに『風の剣』とは偵察部隊のことで主に洞窟や森の偵察や見取り図の製作が主な仕事だ。その製作した見取り図のもとに今回のような会議を
開くのである。
「とんでもなく広いですね……いやむしろ無意味に広すぎるくらい……」
実行部隊『闇の剣』の好青年っぽい副隊長ランディアス(歳はヴァイスよりも下)が口を開いた。
「その通りだ! ランディアス! 見ての通りとんでもなく広い! そして無意味だ! よって今回の作戦は各階同時設置とする!」
他の隊員達はわかりきっているがカリンだけがきょとんとした顔した。
「各階同時設置? 隊長なんですか? それ?」
と、とっさにカリンが初めて訊く作戦名なのでヴァイスに尋ねる。
「そうか、カリンは初めてだったね。この作戦は。」
ヴァイスに代わりランディアスが説明役を買って出てくれたので耳をランディアスに傾ける。その間設置会議はひとまず小休止に入った。その他の
隊員たちは(と、言ってもカリンとランディアスを抜いた五人だけがだ)は、思い思いの行動をとる、ジュースを飲む者や本を広げる者もいた。
「いいかいカリン。この各階同時設置は簡単に言うと一人で一階または二階分を全てを受け持つことなんだ」
「えっ!? じゃあ、一人で一階分の全ての宝箱を設置しないといけないってことですか!?」
「物分りがいいね。まあ、そういこと」
「ふえぇ〜〜〜〜! ムリですよぉ〜〜〜わたしまだ入隊三ヶ月ですよ!?」
「違うよ、カリン。もう三ヶ月だよ」
やさしくにっこりと口を開くランディアス
「でも、考えてみてくださいよ! この無駄にただっ広いこの城を一人で設置するんですか!?」
「話を聞いていただろ? 誰も一人で全階に設置しろじゃなくて一人一階だぞ?」
「でも! でも!」
「そういうことだ! 見苦しいぞ! カリン=エルヴァート」
隊長にフルネームでの激を合図に散り散りになった隊員たちが席に着き始める。そして同時に、同時設置の説明は終止符を打たれたのだった。
「カリン、この作戦には意味があるんだ」
全員席に着いた事を確認し話し出す。
「ふぇ? 意味?」
隊長が切り出したのは闇の魔王ブラムの特殊な城の事だった。この闇の城は夕暮れから朝方にかけてしが現れない城だ。つまり夜しかこの城はお目にかかれない。と、いう訳である。
朝方までに城をでないとその日の夕暮れまで城から出られないといった最悪な状況がまっている。
場合によっては夜まで魔王ブラム(と、モンスターたち)と夜通しバトルなんてことになりえない。
「と、言う訳だ。わかったか? だから今回は時間がないんだ本来なら魔王と話し合いののちに後から宝箱を設置するのだが今回は事後報告という事で話をつける。」
(話し合いぃ〜〜〜〜)
疑いや不安が交じり合った表情でヴァイスを見るカリン。その表情を読み取ったのかヴァイスが どうした? カリン? と口に出し言いたい事があるならさっさと言えと言った表情で見る。
「あの、話し合いって本当に魔王と話し合うんですか?」
「当たり前だろ? 勝手に宝箱を置いて帰れるか?」
「そうですけど、もし、魔王が「宝箱は置いちゃダメ」って言ったらどうするんですか?」
「その時は実力に訴えるまでだ」
きっぱりと言い放つヴァイス隊長。肩をガックリと落とし(やっぱり……)とカリンは胸中で呟いた。そのじつヴァイスが実力に訴えたのは一度や二度ではなかった。
イヤむしろ話し合いで決着が着いたことなどカリンの知る由では一度もなかった。
「じゃあ……バトるんですか? 魔王ブラムと?……」
「そうだ」
「ふえぇ〜〜〜! ムリですって! 魔王ブラムですよ! 魔王なんですよ!? 死んじゃいますよ〜〜〜」
童顔の赤と青の色違いの瞳から涙をいっぱい流して懇願するカリン。
「カリン=エルヴァート。いい機会だ、お前ももう入隊して三ヶ月。魔王の一人や二人倒せないようじゃランクの高い宝箱を設置できないぞ」
ううっ本気なのね。本気で魔王と戦うのね…… 流れる涙が床に水たまりを作る
そして、隊長の絵に描いたような不気味な笑みの中カリンの頭の中が真っ白になった。ヴァイスの「設置は今夜決行だ!」の言葉と共に……
「はぁ……魔王城に宝箱を設置かぁ……」
設置決行の夜まで自由行動となった設置部隊『闇の剣』の隊員たちは外へ出かけたり、夜まで仮眠を取るも者もいた。しかし、そんな中、屋上に居たカリンは空を見上げどうしょうもない不安に駆られていた。魔王城に宝箱を設置。それは今まで行ってきた宝箱設置に比べ危険度が高い。
その任務に入隊してたった三ヶ月の新人が勤まるのだろうか。
考えれば考えるほど不安が広がる。気持ちが重い。出来れば逃げ出したい。だがそれはできない。カリンは頭をぶんぶんと大きく振りマイナスの考えを振りほどく。
「カリン、ここにいたんだ。探したんだよ」
カリンを探していたアクアが屋上にまで足を運んでくる。
「あ、ごめんね」
「ううん、いいよ」
カリンは一瞬眼を合わしてたがすぐに再び空を見上げる。
「カリン。お昼まだでしょ?」
「えっ?」
「お昼食べに行こう!」
「えっ、アクアちょっと、ちょっと〜」
アクアはカリンを腕をひっぱり無理やりであり強制的にお昼ごはんに誘った。
「アクアちゃん。わたし今そんな気分じゃないんだけど…」
「いいからいいから、安くておいしいお店があるから」
そして、アクアたちは本部を後にしたのだった。
「バラエティサンドイッチとミルクティーをお願いします。カリンは?」
「えっと…じゃあ、このチーズハンバーグセットとウーロン茶で」
注文をとりにきたウエイトレスに注文を告げる。アクアが案内したのは値段が高そうな高級レストランだった。入店すると店内の雰囲気もよくとても清掃が行き届いていて綺麗なレストラン。
「かしこまりました。ではご注文を繰り返しいたします。バラエティサンドイッチがおひとつミルクティーがおひとつ、チーズハンバーグセットがおひとつ
ウーロン茶がおひとつでよろしいでしょうか?」
繰り返された注文にアクアは「はい、それで」と答え「飲み物は一緒に持ってきてください」と付け加えた。
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
ウエイトレスは一礼しその場を足早に去っていった。
「アクアちゃん、この店高いんじゃないの?」
ウエイトレスが去った後に向かいに座っているアクアに小声で話す。
「大丈夫だよ、安くておいしいって言ったでしょ」
「ホントにぃ?」
疑り深くメニューを見直すカリン
「……えっ! 安い!」
驚くほどの安い、いや安すぎるくらいと思うほど安い。一通りメニューめくったが高いを思わせる品はひとつもなかった。ならばこのジャパイン大陸のメニュー『高級カブトエビの天丼』にしておけばよかったと後悔していた。
「よかった。元気出たみたいだね」
「えっ、あ、そっか私のこと心配してくれてたんだね。ありがとう」
「ううん、わかるよ不安な気持ち、わたしだって初めてだもん。怖いもん。でもねカリン、絶対に大丈夫だよ。
カリンの手を握り力強く、カリンを励ます。
「大丈夫…かな?」
「うん。大丈夫。だって隊長やランディアスさんがいるもん。ピンチになったら絶対に助けてくれるよ。ドラゴンの住まう森の時だってそうだったでしょ?」
「アクアちゃん…」
「もちろん私だって絶対にカリンを助けに行くよ。だから、ね」
「うん、わかった。わたしがんばる!」
「うん! がんばろ!」
決意を確認したちょうどその時、二人が注文したメニューが持ち込まれる。
「じゃあ、今夜に備えてしっかり食べよう」
「うん」
そして、それぞれ料理を口に運ぶのだった。
太陽が光の世界を照らす役割を果たし代わりに交代した双子の月が闇の世界を照らす時間。カリン達はブラム城があるだろうに広大な湖のほとりにいた。
「隊長。あと、三十〜四十分ほどでブラム城が姿を現します」
隊員のランスレットがヴァイスに報告する。
「わかった。よし、みんな最終確認だ。集まってくれ」
隊長の号令に隊員たちがヴァイスの周りに円形型に集まる。集まったのを確認しヴァイスによって最終確認が行われる。
魔王と戦いたくない思いが通じたのか魔王から一番遠い一階担当が剣士のカリン。
はい! と元気よく返事をしてブラム城がある湖を見上げ(よかった〜 一階で……)と心底から思っていた。
二階担当がカリンより五ヶ月早く入隊した槍使いランスレット。「がんばります!」と気合いれて作戦に望んでいた。
三階担当が自分の背より大きい大剣を持つヴァイスと同じくらいの年齢の無精ひげを生やしたガイア。こちらはヴァイスに向かって「任せろ!」と言う
四階担当が魔術師のアクア。美少女という言葉がぴったりの女の子だった。端整な顔立ちで長い髪が印象的だ。ちなみにアクアは女性でカリンと歳が近いせいか仲がいい。対線上にいたカリンと目が合いお互いに頑張ろうねといった感じに小さく手を振った。
(アクアちゃん回復系の魔術だけで大丈夫なのかなぁ〜)
カリンが不安な顔を察したのか隣に居たガイアがカリンに小声で話し掛けてきた。
「アクアが心配かい?」
「えっ? ええ、心配です。だって彼女は回復系しか使えないんでしょ?」
カリンもガイアと同じくらいのボイストーンで話す。
「その心配はいらないぜ。あいつはおまえが思っている以上に強いぞ?」
「ふぇ? そうなんですか?」
「ああ、あいつの二挺銃技は一級品だからな」
「二挺銃技?」
「なんだ? カリンはアクアから訊いてないのか?」
カリンがアクアの銃技を知らなかったことが意外だったのか目を見開きカリンに向いた。
「どういう事なんですか?」
「あいつは元・魔銃使いだぞ?」
「ええっ!! そうなんですか!?」
「本当に訊いてないみたいだな……カリン」
アクアの銃技の会話をしていると「ごめんね〜カリン、別に隠していたわけじゃないんだよ〜」と間延びした声がカリンとガイアの耳に飛び込んでくる。
「へっ?」とガイア。
「ふぇ?」とカリン。
みんなの目が二人に集まっていた。「……アクアちゃん? 聞こえてたのかな?」と間抜けな質問をしたら「あはは〜あんなに大きな声だから丸聞こえだよ〜」と
間延びした返答が耳に響く。
「聞こえてたんだ? 小声で話してたと思ってたんだけど……」
となりのガイアも同じくそうだと頷く。どうやら途中から話に集中してしまい大きな声に変換されてしまったらしい。
「そろそろ、最終確認に戻りたいのだがな」
カリンとガイアスがヴァイスに目を向けると腕を組み額にバッテン型の青筋が見えた。
「えへへ……」とカリン
「ははは……」とガイア
笑ってごまかそうとしたがさらに隊長の青筋を増やしてしまった。
『すいません』と二人で同じタイミングで謝罪した。
こーして話は再び最終確認へと移っていった。
仕切りなおして隊長が五階担当の名前を挙げる。五階担当はアクアと同じ魔術師のクリス。だがこちらは攻撃魔術専門で逆にアクアとは正反対の魔術だ。クリスは二十代前半の気の弱そうな優男風だがなにぶん無愛想で無口である。だが『闇の剣』設立当時のからいるメンバーで実はその高い状況判断は目を見張るものがあり信頼されている。(ちなみに設立当時はヴァイス・ランディアス・ガイア・クリスの四人)
クリスは五階は「がんばります」と小さい声で静かに言い放った。
「よし、最後の六階は魔王ブラムがいる階だ。よって六階は俺とランディアスの二人で設置する」
六階担当は格闘家ヴァイスと片刃の剣を持つ剣士ランディアス(本人はサムライだ! と言って聞かない)。魔王ブラムが居る六階だけあって二人での設置なった。
これは朝の設置会議で満場一致で決定した
ヴァイスの確認にランディアスが一つ頷き最終確認が終了する。それを待っていたかのように日が沈み湖の真ん中にうっすらと城のシルエットが姿を現す。
「時間ピッタリです。隊長」
告げるランスレット。
「いよいよ設置実行だ! みんなバイブルは持ったな?」
それぞれバイブルと呼ばれる聖書並みの大きさの本型端末を腰に携えているブックケースから取り出しヴァイスに差し見せる。
「タイムリミットの設定するから時間設定画面を開いてくれ」
ヴァイスの言葉を合図に本を開き七人全員で『リアルモードオープン』と口を揃える。
開いたページからボタンがたくさんある鍵盤と呼ばれる薄紫色の半透明な盤と中空に鍵盤と同じ色の四角い画面が浮き上がる。各自四角い画面を見ながら片手で鍵盤を叩きヴァイスが指定した時間設定画面を立ち上げる。
「えっと……時間設定は……確か……メニューから呼び出すんだよね?」
と、画面と鍵盤と睨めっこしながらカリンは自分自身で確認するように一つ一つ慎重にボタンを叩く。
「やった! 開いた!」
「……リミット設定は十時間だ」
喜びも束の間ヴァイスからの痛い視線で画面と睨めっこを再開、リミット設定時間を10:00に合わせる。
「いち……にの……さん!」
ヴァイスの号令に一斉に逆さエル字型のボタンを押す。ピッと音が鳴り設定時間が9:59になる。
「いいか常に半透明の四角い画面にこのリミット時間は表示しておけ。この時間内に宝箱を設置しなおかつ俺たちは魔王と話し合い
そして脱出しなければならない。気合を入れてこの設置に臨めよ!」
『はい!』
バイブルを閉じ半透明の四角い画面及び鍵盤が消え全員で返事をしヴァイスがそして、言う。
「行くぞ! 魔王ブラム城に突入だ! みんなレビテートシューズを作動させろ!」
ヴァイスの指示でカリンはしゃがみブーツ(男性はシューズ)のカカトの部分にあるボタンを押す。するとフワッと体が低空に浮きだす。他の隊員達も
同じ動作をし低空に浮きだす。
「いいか! 会議で言ったと思うがこのレビテートシューズは「水の剣」の所有物だ! 壊すんじゃないぞ! カリン!」
「なんでわたしだけなんですか!?」
などとツッコミを入れ湖を氷を滑るように駆け出した。闇の魔王ブラム城に向かって。
「ふわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ、退屈だぜ〜」
「そうだな〜退屈だな〜」
そんな、中身のない会話をするのはブラム城の正門を守る槍を持つトカゲ型のモンスター。
彼らは知らない、今、自分達に迫っている危機を……
「ん? なんだ?」
門を守るモンスターAが水面に浮く『何か』に気づいた。
「どうした?」
その動作につられ門を守るモンスターBがAと同じ視線を辿る。視線の先には七つの水しぶきをあげこちらにものすごいスピードで向かってくる
七つの『何か』があった。
「な、なんだ、あれは!?」
Bが叫ぶ。
「ヴァイス! ブラム城正門に門番モンスターリザードマンがいるぞ!」
「わかってる!」
ランディアスの忠告を機にさらにスピードを上げモンスター リザードマン二体に近づいていく。
「な、なんだ! お前達は!?」
「我々は、宝箱設置部隊闇の剣だ!」
「なっ! たか……ぐふっ」
「がはっ……」
瞬殺……とまではいかないが秒殺。トカゲ型のモンスター二体は泡を吹いて気絶していた。戦闘体勢に入るヒマを与えないほどの迅速さで
あっという間に倒してしまった。
(うひゃ〜〜〜〜相変わらず素手でモンスターを倒す所はすごいや)
気絶したモンスターを横目にヴァイスが開いた門から流れ込むように城に進入する。
「カリン! 一階はまかせたぞ!」
「はい!」
カリンはランプで照らされている一階を最奥に向かって、ヴァイス達は階段に向かって二手に分かれ設置行動を始める。
「ここから一番近い設置場所は……っと」
地面を滑りながらバイブルを開き「リアルモードオープン」と発言。鍵盤と半透明の四角い画面を起動させる。
そして〈マップ〉と表示されているマークに鍵盤に配置されているボールを転がしカーソルを合わせ逆エル字のボタンを押す。瞬間に画面いっぱいに
魔王ブラム城一階の地図が映し出される。
「現在地がここだから、次の角を右に曲がると設置場所か」
カリンが設置場所を確認している間に数体のモンスターが襲っていたがなんなくかわすカリン。
「よし! 確認終わり!」
バイブルを閉じブックケースに納め目的の設置場所まで急ぐ
「いたぞ! 侵入者だ!」
一体のスケルトン型のモンスターが叫び迎え撃ってくる。カリンは腰の剣を抜きこちらも迎え撃つ臨戦体制をとる。が、スケルトンモンスターの
攻撃をかわしそのまま廊下を滑り去っていく。攻撃したスケルトンモンスターは勢いを制御できず体制をくずしその衝撃で骨がバラバラになる。
が「まて! 逃がさん!」とバラバラになった頭蓋骨が口を開いた。
そしてバラバラになった骨達がカリンに向かってそれぞれの意志を持ったように襲い向かってくる。(ついでに、他のモンスターも援軍に来た)
「げっ!」
横目でそれを見たカリンうめき前方にモンスターがいないことを確認して滑りながら後ろに振り向く。
「一気に吹き飛ばすからしっかり防御してね!」
モンスター達に忠告をし、剣を左横水平に構える。
「いっけぇ〜〜〜〜!」
水平に構えていた剣を一気に斜め上に薙いだ。刹那、大きな氣の塊が廊下のタイルを剥ぎながら地面を這うように疾走しスケルトンモンスター共々まとめて吹き飛ばす。
吹き飛んだモンスターはピクピクと動いていたが意識も飛んでおりほぼ気絶状態にあった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ! とまんな〜〜〜〜いぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
モンスター倒したカリンは後ろに向かって引っ張られるように滑っていた。
「うきゃ〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
滑りながら転ぶ。そのせいか蹴られた小石のように横転、前転、後転しながら転がっていく。
ドォォン!
「…………いっつ〜〜〜〜〜〜……」
慣性。カリンはレビテートシューズを履いているので今、低空に浮いている状態である。この法則が働いているので先ほどの攻撃で発生した後方に働く運動状態を維持しながらスピードをあげ肩口から壁にぶつかった。
「あいたたたた……浮力なくしておこ……」
そう呟いてカカトのスイッチを切り浮力を無くす。
「えっと、あそこから吹っ飛んだんだから……こっちでいいんだよね」
走り出す。しかし、走り出してすぐに目的の設置場所の部屋の前に辿りつく。危うく通り過ぎるところで気づき慌ててとまりバイブルを開きマップを確認する。
「オッケ! この部屋であってる」
扉は観音開きの扉でカリンは片方の取っ手を掴みゆっくりと引き開ける。途中でそぉ〜〜っと半顔で覗きモンスターがいないか確認する。
「誰も……いない……よね」
モンスターが不在を確認すると流れる動作で部屋に流れ込みそっと扉を閉める。その部屋はなにも置いてなくカリン達設置隊にとっては設置にはベストな部屋だった。
「よぉし! 未来の勇者の為に宝箱を設置するぞ!」
自分自身に無意味な気合をいれ再びバイブルを開き「リアルモードオープン」と発言。キーボートが浮きあがり半透明の四角い画面が中空に現れる。
マップには設置する宝箱も表示してある。カリンはこの部屋に設置する宝箱をマップで確認する。
「現在地がこの部屋だから……設置するのはシリアルナンバー百八十三『ブリュンスタッドの鎖』か」
シリアルナンバーとアイテム名を確認しバイブルのページをめくり『ブリュンスタッドの鎖』の載ってあるページを探す。
「えっと、このページは廃棄アイテムだから違うでしょ……百八十番台はもっと前のページかな……」
カリンが該当ページを探していると半透明の四角い画面右上のショートウィンドウと呼ばれる画面の中の小さな画面に
『着信があります』と表示されピロ〜ン、ピロ〜ンと半透明の四角い画面から鳴りカリンに知らせる。
「なに? この忙しい時に!?」
該当アイテムページが見つからずイライラしているカリンに来た突然の着信。 隊長かな…… と不安になる口には出さなかったが顔は緊張していた。
いつまでもこのまま鳴り続けられるとモンスターに気づかれる恐れがある。困ったもんだの末、カリンはとりあえず鍵盤の通話ボタンを
押し着信相手を確認する。
《やっほぉ〜カリン〜順調に進んでるぅ〜?》
間延びした声の通話相手は意外にもアクアだった。半透明の四角い画面に映し出された予想外に相手にカリンはハトが豆鉄砲を
食らったような顔を半透明の四角い画面を通じアクアに披露してしまった。
《どうしたのぉ? そんなに驚いた? 青と赤の瞳が点になってるよ?》
「えっ、ううん、そんなことないよ、実は隊長かなっと思って緊張してたんだ」
《そっか、どう? 宝箱の設置は順調にすすんでる?》
「今から設置するんだけど該当アイテムのページがなかなか見つからなくてさ〜」
後頭部を掻きながら照れ隠し笑いた。
《へっ? カリン? バイブルの検索機能使ってないの?》
「けん…………あっ〜〜〜〜〜そっかぁ〜〜〜〜!!!!!!」
カリンは思い出したかのように声をあげ半透明の四角い画面に向かい鍵盤を叩き出す。この声でモンスターに気づかれたら
元も子もないが……
《この前隊長じきじきに伝授されたばかりでしょ〜》
「えへへ……」
指を止め笑うしかないカリン。再び指を作動させメニューから検索を選択し詮索画面を起動させる。
起動した画面にはシリアルナンバー・アイテム名・種類・を入力する場所が設けられておりそれぞれの場所で入力すると該当アイテムを検索できるシステムになっている。
「アクアちゃん、シリアルナンバーだけ入力しても検索はできるんだっけ?」
《うん、できるよぉ。っていうかむしろシリアルナンバーだけで入力したほうが確実だよ》
へぇ〜そんなんだ。 と新たな知識を魔王城で得たカリンはさっそく実行に移してみる。
「シリアルナンバー百八十三っと」
シリアルナンバーを入力しカーソルを決定に合わす。すると、パラパラとものすごい勢いでページがめくれていく。画面には検索中……と表示。
検索終了しました。現在開いているページがシリアルナンバー百八十三『ブリュンスタッドの鎖』です。
と、画面にアイテム名とのアイテムの画像表示され目線を下のバイブルに移すと見事目的のアイテム名とご対面となった。検索時間わずか五秒弱。
カリンは思っていた。いままで自力で探していた自分がバカらしく思えて仕方ない事を。(自分が検索を覚えていなかったのが原因とも言う)
《どう? 検索できた?》
「えっ……うん! できたよ!」
《じゃあ、しっかりこの方法を覚えてね》
「オッケ〜 ありがとう、アクアちゃん」
《うん、じゃあ、そろそろ切るね》
「わかった。じゃあ後でね」
《うん、後でね》
プツン
通信回線が切れ右上のショートウィンドウも消える。まるでこの場所が魔王城ではないような雰囲気の会話が終幕を迎えた瞬間だった。
「ふぅ……よし! 設置再開!」
現実に戻り意気揚々と 鍵盤オフ! と声を高らかに言う。その声に反応し今まで浮き出していた鍵盤
半透明の四角い画面が一瞬に霧になって消えた。残ったのは該当ページが開いたバイブルだけとなった。
部屋の奥まで歩ていき開いたままのバイブルを返し背表紙を天に向ける。地には開いたページを向け目の前に突き出し……
「シリアルナンバー百八十三『ブリュンスタッドの鎖』! ダウンロード!!」
カリンの声に反応したバイブルは淡く光だしシリアルナンバー百八十三『ブリュンスタッドの鎖』のページから淡い光の玉がゆっくりと
バイブルから落ちていく。
地に着いた淡い光の玉は一瞬まばゆく光りその後に木と金具の額縁が特徴の宝の箱になっていた。それを見届けたカリンはすばやく鍵盤をオンにさせメニューから『宝箱オプション』内のロック設定を起動させ「対モンスターロック」が設定されているか確認を行う。この設定が選ばれていないとこの宝箱がモンスターに開けられてしまうからけっこう重要な設定だったりする。
「ふぅ、これで設置は完了。次の設置場所に急がないとね」
入ってきたのと同じように扉をそぉ〜っと開けモンスターがいない事を確かめ次の設置場所に向かって駆け出していった。
「やっぱり、検索機能が使えるのと使えないとでは作業の効率が違うな〜」
最初に設置した宝箱からはや五時間。カリンはモンスターの猛攻をかいくぐり(または気絶させ)順調に宝箱を設置していた。アクアに感謝しつつ。
「よし、次で最後ね。アイテムは『アヌビスの翼』か」
バイブルを開きマップで最終設置場所を確認する。場所は一階最奥。そこで指定のアイテムを設置すればカリンの設置業務は終了である。
(う〜ん! もうすぐ終わり! 仕事が終ったらリリスさんの店のメロンパンを食べて、メロンソーダ飲んで家に帰ったら即寝よ!)
胸を躍らせこの後の至福のひと時を思い描いていく。(リリスさんのメロンパンはおいしいからなぁ〜)とすで使命をどこかにふっ飛ばし心は
この後のメロンパンに奪われていた。
ゴバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
勢いよく水が流れる音がカリンの走る廊下の前方、扉の中から扉越しに耳に入ってくる。
(ん? あそこはトイレかな? やっぱりモンスターも出るものは出るのかな?)
と、思いつつカリンはトイレ? を通り過ぎようとした時に思いっきりドアが開く。
「ふぇっ!?」ドガン!
カリンの目の前に現れた突然の壁に顔から激突。「はにゅ〜ん」と意味不明な声をだし地に崩れる。
「ん? なんだ?」
トイレ?から出てきた全身黒い服と黒マントのナイスミドルのオジサマが視線をカリンに向ける
「いったぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
鼻頭を押さえ痛みに悶え足をバタバタさせる。
「ほう、我が城に人間とはな」
「ふぇ?」
嘲笑を浮かべ口の端がつり上がりカリンは見下すナイスミドルなオジサマ。しかしその頭には角が生えていた。
「ヴァイス……」
「どういうことだ……」
六階の最奥、「王の間」と言われる場所で魔王と話し合いをするはずだった二人。しかしその玉座には座っているはずの主がいなかった。
「各階の緊急連絡をいれる!」
ランディアスは腰に携えているブックケースからバイブルを取り出し鍵盤をオンにする。通信を同時回線に設定し隊員たち全員に連絡を入れる。
バイブルの半透明の四角い画面にショートウィンドウが五つ表示されアクア・ランスレット・クリス・ガイアの順で通信が開いていく。だが、
一階のカリンのウィンドウには『呼び出し中』と虚しく点滅していた。
「カリン……」
呟く声が事態を圧迫させる。
「ランディアス、最後の宝箱の設置を頼んだぞ」
ランディアスのバイブルを覗き込んでいたヴァイスがそう言い残し王の間の扉に向かって歩きだした。
「ど、どうしても宝箱を置いてはダメですか!? ブラムさん!?」
必死になって黒服、黒マントの男魔王ブラムに説得を試みるてみるが……
「当然だ! どうして我がブラム城に未来の勇者達が使うであろう道具を置かねばならん!」
問答無用で暗黒の波動でカリンを狙い打ち放つ。
「それは、あなた達モンスターは人間よりはるかに強力な力を持っているのに対してわたし達人間は貧弱です! それを補うために少しでも
未来の勇者が対等に戦う力を得てもらうためです!」
魔王ブラムから放たれた暗黒の波動をギリギリでかわし魔王を見据えてカリンが吼えた。
「ブラムさん! お願いです! 宝箱を置かせてください!」
「くどいぞ! 人間!」
願いが却下されブラムの手のひらが黒く光り闇の波動は放たれる。
これをまたギリギリでかわす、が、「あまい!」とブラムが叫び逆の手から暗黒の波動を放った
「!!!!?」
直撃をくらい数十メートル後方に吹っ飛び壁に二回目の激突を果たす。
「終ったな」
飛ばしたカリンの下に歩きながら近寄る。ブラム。その顔は勝って当たり前のような表情だった。
「人間とはまったくもろ……なに!?」
崩れた壁からタイル剥ぎ地面を這うように氣の塊がブラムを強襲する。しかしブラムは逡巡ののち手をかざし地面を走る氣の塊を霧散させる。
「ほぅ、まさか人間があれをまともに食らって生きているとはな……」
「ブラムさん……交渉決裂でいいですよね?」
満身創痍の姿で剣を支えに立ち上がるカリン。服は裂け体中にキズができ額からは血が流れている。それでもカリンは剣を構えブラムを見据える。
「我は最初から交渉などしたとは思っておらん」
「わかりました……では、強制執行します」
「はっ、そんな体で何ができる!」
キズだらけのカリンとどめを刺すため疾走するブラム。カリンも走りブラムと戦う覚悟を決めた。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!」
カリンの剣撃なんなくかわしブラムの反撃のハイキックを紙一重でかわす。しかし、ブラムの反撃は終らないさらに回し蹴りで追撃をかける。
メキッ……
回し蹴りを左手で防御した瞬間に骨が軋む音、苦痛に顔を歪めながらカリンにははっきりと聞こえた。折れてはいないが少なくてもヒビは入っているだろうと認識する。
(左手に力がはいらない……剣を支えるだけで精一杯……)
ブラムは攻撃の手をゆるめずにカリンに水平蹴りの追撃をかける。カリンはジャンプ一番で蹴りをかわし空中でとっさに膝を胸の前まで引き寄せて
カカトのレビテートシューズのスイッチを入れる。
ほぼ思いつきの攻撃論で地面との摩擦力のなくなったその靴で着地。そのままブラムに向かって滑り出す。ブラムの数十メートルに迫った所で軽くジャンプ。
「なんだと!?」
驚愕のブラム、それもそのはずカリンが軽くジャンプしたのは壁でそのまま横体勢で左壁を滑っていたのだ。
ブラムの一瞬の戸惑い、カリンはその一瞬も逃さなかった!
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ザシュ…………
剣が凪ぐ。飛び散った赤い色が軌跡を描き剣先を彩る。魔王の右腕から血が滴り落ちる。
「やっぱ……あんな攻撃じゃダメだね……」
力なく着地し倒れ目線だけ魔王に向ける。そこにはこちらに振り向き何事もなかったように佇む魔王がいる。自分の右腕から流れる血を眺めまるで
久しぶりに見たような懐かしがる表情になっていた。
「見事だ。不意を突かれたといえ我が血を流したのはなんと久しぶりか」
倒れたまま視線を自分に向けているカリンに向け賞賛の言葉を投げかけ問う
「人間の娘よ。死ぬ前に問う。お前の言う『未来の勇者』とやらが現れなかったらどうするのだ?」
カリンは剣を支えに立ち上がり苦笑を浮かべ魔王の問いに答え始める。
「何を……言ってるですか? あなたは……自分の立場を……わかっているんでしょ?」
肩を上下させ荒い息継ぎをしながらカリンは口を開いた。
「どういう意味だ?」
「あなたが世界の破壊や征服を望んでいる『魔王』と呼ばれる『闇』ならば世界を守る事や救う事が望みの『勇者』と呼ばれる『光』が必ずいるはずです!!」
最後の力で精一杯咆哮する。
「そうか、ではさよならだ。そして、最大の賞賛を込めて楽に逝かせてやろう」
天に左腕を掲げ最大限の力を込めて闇の波動を集約しカリンにその左腕を向ける。
「最後に……リリスさんとこのメロンパン食べたかったな……」
この世に残す最後の言葉がこれか? とカリンは思いプッと吹き出し少し笑ってしまった。そして打ち出される暗黒の波動。
カリンは目をつむり今この瞬間に十六年の生涯を終えようとしていた。
ドォゴォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!
突然崩れる天井。崩れ落ちる天井石から一筋の黒い影が落ちる。落ちた影はブラムから放たれた暗黒の波動とカリンの間に着地し手のひら突き出した片手で受け止め暗黒の波動がはじけ飛ぶ。
カリンは突然崩れただした強烈な崩壊音でつむっていた瞳をそっと開き目の前に立っていた見知った背中を見て、言う
「た、隊長……」
涙目になりその背中に言った。
「よくぞ、耐えた」
魔王から視線を外さずに声だけをカリンに投げる。
「そして、よくぞ生き抜いてくれた。カリン=エルヴァートよ」
「隊長……すいません……わたし、がんばったんですよ? 必死にブラムさんに宝箱を置かせてもらうように話し合いしたんですよ? でも……ダメでした……」
今はそんなこといっている場合じゃないのはわかっているがカリンはボロボロの姿になりながらも話し合いがダメだった事を報告する。
「わかった。もう喋るな。もうすぐアクア達が来る、来たら回復魔法をかけてもらえ」
「はい……隊長……後は任せていいですか?」
「ああ、任されてやるぞ」
「ありが……とう……ござ……」
最後まで吐くことなくカラン……とカリンの手から剣が離れ地に落ちる。落ちた剣の音がきっかけになりカリンは膝から崩れ落ち意識は闇に落ちる。
全ての決着をヴァイスに託して……
「お前が魔王ブラムか?」
「貴様……何者だ?! なぜ、闇の波動を片手で受けて平気なのだ?!」
「部下が世話になったな」
「うっ……」
殺気の篭った強烈な視線でブラムを睨む。その視線でたじろぐ魔王と呼ばれるブラムがそこにいた。
「全力でいく、安心しろお前には見えない」
ヴァイスの周りの場の空気が圧縮されるような感覚をブラムは感じていた。そして、ヴァイスの青い瞳が漆黒の瞳に変わる
「なっ……ぐがっ……?」
その瞬間、ヴァイスは光になった。
「ぐはっ!」
一瞬で決まった。ヴァイスが目で捕らえきれない神速でブラムとの間合いを詰め、蹴りや拳を何十発も食らわせていた。崩れ仰向けに倒れ大の字になるブラム。
何が起こったさえわからないだろう。それが瞼を閉じる一瞬での出来事だったのは人間技ではなかった。
「なにが……起こったのだ……」
天井を見上げブラムが呟いていた。目を泳がせていると視界にヴァイスの姿が飛び込んでくる
「お前のその瞳……そうか……『真黒の瞳』を使っているな?……」
「知っていたか……」
その時ヴァイスは瞳が漆黒の瞳から元の青い瞳に戻っていた。
「わかるぞ、それは、肉体と精神に莫大な負担をかける……」
「俺は使いこなしているぞ」
「ふっ……そうらしいな……さあ、とどめをさせ」
ヴァイスは眉をひそめた。何を言ってるんだ? といった表情でブラムを瞳に映す
「カリンが言ってたろ? お前を倒すのは『光』だ。俺の役目じゃない」
お互い何も語らずに刻だけが刻み込まれる。
「わかった、好きに宝箱とやらを置け」
沈黙を破ったのはブラムだった。
「ありがたいが多分時間がない」
ブラムに背を向けカリンのもとに駆け出す。
「大丈夫か? カリン?」
倒れているカリンに寄りかがんで声をかける。
「………………………」
声が返ってこない……ヴァイスの顔が固まり額から油が混じった汗が滲み出てくる。耳を唇に近づけ息継ぎをしているかどうか確認をとる。が、
ヴァイスの心配をよそにカリンの口からはスースーと寝息を立てて寝ていたのだった。
「ふぅ……まったく、これだけのキズを負っても寝てるとはな……たいしたもんだな」
呆れ顔のヴァイスの後方から先ほどヴァイスぶち開けた天井の穴からアクアたちが降りてやってくるのが目に入った。
「隊長! 大丈夫か?」
ガイアが口早に言う。
「大丈夫だ!」
「ヴァイス、時間がない! 早くここから脱出を!!」
ランディアスがガイアと同じように口早に告げた。
「わかった! みんなこの城から脱出するぞ!」
カリンを背中で担ぎ脱出を促す
「でもぉ! カリン、キズだらけですよぉ?!」
カリンを心配そうにみながら隊長とカリンを交互に見るアクア。
「案ずるな! カリンは寝てるだけだ! 治療魔法はこの城を出てからだ!」
ヴァイスの叱咤を訊きそれぞれカカトにあるレビテートシューズのスイッチを入れる。
「ガイア! 先頭はまかせたぞ! ランディアスはしんがりを努めろ! ランスレットはガイアのサポート! クリスとアクアは三人の支援だ!」
ヴァイスの指示した陣形で低空を滑り出し「モンスターは無視しろ! 今は脱出が最優先だ!」と大声をだし陣形の真ん中を滑るヴァイスは隊員たちに告げ出口を目指す。
「どうして襲ってこない……」
しばらくしてランディアスが呟く。
脱出開始直後はあんなに襲ってきたモンスター達も出口が近づくにつれ襲ってこなっていた。
ブラム城のモンスター達は殺気を漂わせているが襲ってくる気配はまったくなく。なぜ襲ってこないのか意味がわからないままヴァイス達は順調と
言っていいほどあっけなく出口に辿り着いたのだった。
消え行くブラム城をヴァイスは横目で見上げ一階のバルコニーに居る人物に気づいた
(ブラム……)
こちらを見つめるブラムがバルコニーにいた。殺気も邪気も感じられない魔王……
(ブラム……お前なんだな。モンスター達に攻撃するなと命じたのは)
霧のように消えつつあるブラム城を尻目にヴァイス達は対岸を目指し湖を滑空していた。
「う〜ん……もう、メロンパンは食べられませんよ〜」
夢の中でメロンパンをむさぼり食っていたであろう眠り姫が夢から目覚める
「ふぇ?」
「おはよぉ〜、カリン。メロンパンはおいしかった?」
瞼をあけたカリンの顔寸前まで顔を近づけ夢言に付き合い質問をしてくるアクア。
「あれ……ここは……あれ、確かブラム城にいたはず……」
混乱しているカリンは事態を飲み込めず頭を押さえだした。
「もう、終ったぞカリン」
とヴァイスが告げる。
「そうだ! 隊長! ブラムさんはどうしたんですか!?」
あっさりと「倒した」と言った。「えっ? 魔王を……」と口走ったが「それよりも、どぉ〜 キズの具合は?」とアクアの言葉にカリンは自分の身体を
確かめるように額と腕や脚のキズを調べる。
アクアの治療魔法は完全に効いておりほとんどのキズが完治していた。
最後にブラムの蹴りでヒビが入った左腕を入念に調べた。
「すごい……完ぺきに治ってる」
左腕を前後上下左右に動かし自分の腕が自在に動く事を確かめる。
「よし! 全員ごくろうだった! 本日の設置はこれで終了だ!」
カリンの自身の治療の確認が終わりヴァイスが声高らかに隊員たちに言葉を投げる。
『はい!』と全員で返事をし書類を作成するために「闇の剣」の本部に戻る。
(このまま、アヌビスの翼を設置できなかったことは内緒にしておこう)
そう心に決めカリンは「闇の剣」の本部に戻るのだった。
宝箱設置隊 〜完〜
おまけ(後日談)
ブラム城宝箱設置任務から半日後。
「カリン、ちょっとこっちに来い」
リリスの店のメロンパンを買えウキウキ気分のカリンの耳にヴァイスの声が空気に乗って耳に届く。
ヴァイスは両肘を机に預け指を組み「カリン」と、もう一度呼ぶ。
「は、はい」と返事をしイスから立ち上がったカリンはヴァイスの机に向かい(なんだろ〜 なんだろ〜)と不安さ大爆発の気持ちでヴァイスの前に立った。
「カリンよ。お前は昨日のブラム城設置任務で「アヌビスの翼」を設置してこなかったな?」
両肘を机に預け指を組んだままカリンを見上げ問いを出す。
「あっ……(ううっ……バレてしまったのですね……)」
心胸で嘆きうめいた。
「でも、それはあの時にブラムさんが突然トイレから出てきて話し合いをしてバトルして……その、設置どころじゃなくて……」
あの時の状況を必死に説明するがヴァイスは「それで?」と返す。
「あっと……えっとですね……」
両の人差し指を尖端でつんつんさせ、俯き加減で次を言葉を捜していた。
「俺は当日にちゃんと報告していれば不問にしようとしたんだがな……残念だよ、カリン=エルヴァート」
が〜ん!
頭に響くヴァイスの言葉……罰としてカリンは一週間業務終了後の本部の掃除を言い渡された。
(人間、やっぱり正直が一番ね……)
一人で掃除をしつつ人生の教訓をまたひとつ教わったカリンであった。
おまけ(後日談) 〜完〜
はじめまして間宮冬弥です。この小説をここまで読んでいただいてありがとうございます。
さて、この作品ですがこれは昔僕がと〜やという名前で三年ほど前にあるサイトに初めて投稿した思い出深いオリジナル作品です。現在そのサイトはあるにはあるのですが投稿小説だけ閉鎖してしまいました。
なのでこちらの『小説家になろう』様に投稿する際に若干の加筆・修正が加わった完全版(?)となっています。まだまだいたらない点があるとおもいますがどうかこれかもよろしくお願いします。では、これで失礼します。