どうせ明日がこないなら。
飲み屋で隣になった。少し不思議な距離感の男女の話。
初めまして。冷凍みかんです。登録したばかりで、中々勝手がわからない中、一作投下させて頂きました。拙い文章ですが楽しんで頂けたら幸いです。拙い文章ですが。
秋風冷たくなり、夏の終わりを強制的に感じさせられる今日この頃。
夜の寂れた飲み屋で比較的若い2人の男女が座っていた。
私は近くの席で一人で酒を飲んでいた。
何故一人寂しく、こんな時間、ちょうど日付が変わる頃まで飲んでいるのかというと…。
…まぁ色々あったのだが、その話は置いておいて。
とにかく、一人で飲んでいたところに、若い男女が近くの席で深刻な顔で話していたら、悪気はないが、ついつい聞き耳を立ててしまうのが人間心理というものではないかと思う。
2人はこんな話をしていた。てっきり恋仲の別れ話だと思っていたのだが、全然違った話だったのでしっかり覚えてしまった。一応明記しておくが、普段から盗み聞きをして内容を覚える趣味はない。
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男『俺さ、もう死んじゃおうかと思うんだよね。』
女『じゃあこれが、あんたと食う最後の晩餐なわけだ。』
男『止めてくれないのか(笑)』
女『だって、止められる言葉が思いつかないもの。どうやって止めたら良いのか、私があんたに聞きたいくらいよ。』
男『滅茶苦茶だな。』
女『せめて最後の晩餐をあんたが楽しめる様、明るい話でもしてあげるわよ』
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まぁこの様な話だったのだが。その後二人はそれまでの話がなかったかのように、横から見てる限りではそれはそれは仲睦まじい恋人のように楽しげに、酒を流し込んでいた。
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男『じゃあ今日は俺帰るわ。帰って寝て明日死んでさよならだ。』
女『そう私はもう少しだけ残るとするわ。自分の分のお金は置いて行ってね。さようなら。』
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こうして男は帰り、女は残り、私も大分酔っていたのだろう。女に少し話しかけてみたのだ。
「最後のお別れにしては、あっさりしてましたね。良いんですか。彼は明日死ぬそうですよ。」
女『大丈夫よどうせ死ねっこないわ。』
「何故?」
彼女は泣きそうな声で言った。
女『あいつには明日がこないからよ。』
彼女は、彼について話してくれた。彼は事故の後遺症で、1日分の記憶しか覚えていられないのだとという。事故の前までの記憶に加えて一日分だ。
女『だから明日になったらあいつは、死にたかった事なんか忘れてる。そして事故のことを前日のことのように思い出して、また明日死にたくなるのよ。その繰り返し。死ねっこないわ。』
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その後、彼女も帰り、一人私は酒を飲み、時に流されない気持ちの重さに悶悶とし、
家に帰りながら、嫌なことは早々に忘れてしまおうと思ったのだ。