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5〜富田と薄幸一家〜

ぽっ…ぽっ……


アスファルトに模様が描かれる。


うわ…雨降ってきた…早く店行こう!



ザアァァ…


どんどん雨足は強くなる。


必死でソロモンの前まで走って来ると、巨大な男がいる。遠くても一目でわかる。


「あ、とみちゃん。おはよー」


「おはよーございます!」


雨はバケツをひっくり返したように激しくなってきた。


烈さんは、ちょっと不安そうに空を見上げている。


「大雨・強風・雷雨ってさっきテレビで言ってたからさ…こんなんじゃあ今日お客さんこないよね…」


「ですよね〜。こんな天気に来る人って…ある意味怪しいっすね…来てくれるだけありがたいですけど。」


烈さんはうんうん頷いている。


「孝生、可哀相に…。休みなのにこれじゃあスーパーにも行けないよね〜」


「今日孝生さんお休みなんですね…」


てゆうか孝生さんの買い物姿…


見てみたい。


「今日はのんびりやろうよ。」


そうっすね〜。と言いかけた時。


「今から開店か?売り上げ助けてやろうか。」


でた。宮城クン。


まあ暇だし…いいや。


―――――――――――

ザアァァ…


ゴロゴロ…


私は夕飯を食べながら休憩室のテレビを見ていた。


時々画面に雑音と線が入る。


『千葉県北部に大雨洪水警報…』


たまに雑音で途切れる。


『都内では激しい雷雨…落雷に注意…』


雷…もう鳴ってるなぁ…

『会社帰りの方は気をつけて……ブッン!…』


あ…消えた…!


ゴロゴロ…ドォォン…


光ってからすぐに音がする。

近いな…


「大丈夫かぁっ!あかねっ!!」


宮城クンがドアをいきなり開ける。ここでドアをいきなり開けられる事…多い気がする。



休憩室からホールへ戻ると、烈さんがキャンドルに火を灯していた。


かなり幻想的で…ちょっと自分が乙女である事を再確認できた。


「イイ雰囲気だな…あかね…」

と囁いて宮城クンは肩を寄せようとするが、


カランカラン…♪


ベルが力無く鳴る。


ずぶ濡れの夫婦…年齢不詳だ。2人の足元にしゃがんでいる男の子がいる。


「やっ…やってますよね…?」


母親が細々とした声で烈さんに問い掛ける。


烈さんは巨大な体をビクッ!とさせて

「はっはいっ!ど!どぞう!」


震えてるよ。なんか…


宮城クンは何かを言いたげに3人を見ていたが…


―――――――――――


烈さんは吊り電球に頭をスコーンとぶつけながらカウンターに入っていく。


親子は無言で水を払う。


「ご注文は…」

私が聞きかけた時、


「……」


「えっ?」


ぼそぼそ話すので聞きづらい。


「すみません…えっと…」

「オムライス…」


…ここはファミレスじゃないんだけど…


「あの…すみません。オムライスは…」


「おかあさん。おなかすいたよ」


「だめ?」


こ!断りづらい!!

なんだ?この妙な気迫は!?


「かしこまりました。」


そこに間を割ってとんでもない事を宮城クンが言い出した。


「烈、オムライス1つ!」


「ええっ!?」


なんだこれ…

何が起きてんだ?


宮城クンはキッチンに入って烈さんと何かを話している。


そして宮城クンは親子の前に戻って来て


「ドリンクなどのご注文ございますか?」


えっ?

なんか手慣れてる?


「…おとうさん、何か飲む?」


「…バレンシアを…」


「じゃあ…同じもの二つ…」


「かしこまりました。」


み?宮城クン?


そして宮城クンはオレンジジュースをとりにいく私に小声で


「いいか?あかね。」


わ!顔近いよ!


「あの客は…危険だ!」


「はい。なんとなく」


申し訳ないぐらい即答した。


「こんな雨の中…雷鳴りまくってるのに、親子連れで…あんなんだぞ。まるで…この後…」




ビカッ!!

バリッ…

ガラガラドォン!!!

「一家心中しそうな勢いじゃないか」


「いっいいいっ…!?」

一家心中!?


雷と同時だったから更に怖い。


「俺のトップホストとしての勘だけどさ。烈にはもう言ってある。」


なるほど。

だからさっきから烈さん向こうで割って失敗した卵の殻を一生懸命取ってる…


つうか。そんなんでオムライス作れるか超不安…


「裏は烈にまかせておこう。俺がシェイカー振るから…あかね。君に重要な役割を与える」

ま…まさか…?


「あの客を接客しつつ笑わせて帰すんだ」


ええぇっ?


「もしかしたら君の接客次第で…止められるかもしれない。」


ま、マジすか!?


ん?



「あの…こんな時になんですけど…」


「ん?俺に告白かな?」

「…いやいやいや。」


つうかなぜ残念そう?


宮城クンの冗談か本気か解らないセリフを理解するのは難しい。


「宮城クンは…バーで仕事したことあるんですか?」


宮城クンはセクシーにふふっと微笑み、


「ないよ。働いた事は」

な、なんだ?今のセクシーな微笑みは…


―――――――――――


ホールに戻って来ると…

キャンドルのさっきまで幻想的で綺麗だった明かりは…あの家族を照らしていると…まるで…冥界への入口のような感じがしている。死神の気配すら感じてしまう。


ひっ、ひえぇ…


冷や汗ダクダク。

でも…1家族の命を救うんだ!!


反面、失敗したら殺人犯か…ううう…


でも…これが初めての接客…!!


横には慣れた手つきでカクテルを作る宮城クン。

裏には慣れない料理に悪戦苦闘する烈さん。


裏は…ともかく。

横に居るのは月収800万以上のトップホスト。(…と、この前孝生さんに聞いた。)


充分心強い!


「はい。バレンシア。」

「はっ!はい!」


とりあえず元気に行こう。


「お待たせしました!バレンシアです!」


「…………」

うっ…


「……」


黙って一口すすってる…


夫婦間に会話が無い。

子供も黙って俯いてる。


む、無理だよ…これは…


「ヒソッ…(強敵だな。…まず大人は後だ。子供からいってみようか)」


宮城クン…いや、師匠!助言ありがたくいただきます!


「…お兄ちゃんは幾つ?」


男の子は顔をあげて


「5さい…」


「おおっ!5歳でお酒屋さんデビューとは…大人だねぇ!」


宮城クン!ナイス!


「…そうでもないよ…」


暗いよ!

頼むから、もっと生意気な事ぐらい言ってくれよ!!


あの宮城クンも冷や汗が滲んでいるようだ…


んーと…

「今日はどこかお出かけしてきたの?」


「…海」


宮城クン…真っ青な顔をしている。

地雷でも踏んだのかな…?


あわわ…話題変えよう!

「いいなぁ!おねーちゃんもハワイとかいってみたいな!」


「…お金がないから…」

父親がボソッと呟いた。


ひえぇ…すいません!


男の子は無表情で

「ウチ…この前の火事で無くなっちゃって…貧乏だから…」


「なにもかも…火事で燃えてしまったわ…」


ぎゃあああ!すみません!!


「いっそ火事で死…」


「そんな!気を落とさずに!この人のサービスですから!」


私はとっさに宮城クンを生け贄にした。


宮城クンはあたふたしていたが


「1杯サービスしますよ。…そうですか…それは…。気を落とさずに。いつかイイ事ありますから。」


ごめんなさい…宮城クン…


「ありませんよ…僕はリストラされましたし…」


ぎゃあああ!すみません!!


「主人は会社に尽くしていたのに…酷いわ…いっそ私達の人生なかった事…」


「わーっ!!!…失礼。そうですよ!会社に見る目がなかったんですよ!!な!あかね!!」


「そそそ!そうですよ!!」


宮城クンも私も必死だ…寿命がガンガン縮む…


「そういう事情。解ってくれる方…意外と身近に居るもんですよ。親戚とか…友人と…とか……」


宮城クン…途中でかなり自信無くして…るよね?


解るよ…

返って来る答えが…


「…親戚には裏切られました…友達もいません…」


ぎゃあああ!!

勘弁してくれぇ…


「世の中にまで見捨てられてる私達に存在意義なんて…」


「「わっ!ちょっ、まっ!!」」


私と宮城クンの見事なセリフのカブり具合。

なんて反応しろと。


完全にド重い空気の中に救世主が現われた!


「オムライスお待たせしました!」


烈さーーーん!!

ナイスだよう!!

オムライスの見た目はかなりヒドいけど…


「…まずそう」


子供は素直に遠慮なくヒドい事を言うもんだ…


「この子に…こんな仕打ちを…あぁ…」


「おかあさん…」


「僕たちは…やっぱり世間に邪魔な存在なのか…」


「おとうさん…」



…っ!うあああーーっ!!!



―私の何かが切れた―


「食べてみて!この無駄にデッカイお兄ちゃんが君の為に頑張って作ってくれたオムライスだよ!!」


「あかね!?」

「むっ無駄にでかっ…デカ?」


「お客様は私達の大切な命のような存在なんですよ!死にたいなんて言わないでください!!」


「まだ完全に死にたいなんて言い切ってないだろっ!?」

「と…とみちゃん!?」


「私は…お客様の為に頑張って働いてるんですから!」



「こら!うるせえ!あかね!掴まえたぜ!」



…えっ!?



警察の皆さんと…

たっ!!孝生さん!?


「連続食い逃げ一家!!」


連続食い逃げ一家ぁ!?


烈さんが

「実は…何日か前に警察から協力依頼が来ててね。幸の薄そうな一家を装ってタダメシしている人達が居るから、心当たりがあったらすぐ連絡してくれって…だからさっき裏で孝生に電話したんだ。」


「なっ…なーーっ!!!」


宮城クンが悔しそうに絶叫する。

そりゃ…あんなに必死になって騙されてた訳だし…


「人の休日をこんなんでぶち壊しやがって…!」


孝生さんも怒り心頭だ。


親子は急に態度を変えて…

母親は、ぷぅーっとタバコを吸いながら

「ハンッ…つまんねぇな!」


父親はカウンターに土足で足を乗っけて

「くだんねぇ」


子供は携帯ゲーム始めちゃってるし…

それ、私も欲しかったゲームだし…結構高い…


「ちょっと署まで来てもらおうか」



―――――――――――

あーくやしっ!


私のムカつきに反して外は雨も上がり綺麗な星空。


「でも…とみちゃんの接客。お客さんの為に一生懸命頑張ってて良かったよ!」


一生懸命騙されてたんだけどなぁ…


孝生さんは頭をガリガリかいて


「まあ、これで一つわかった」


え、嫌な予感…


「ミヤの技も盗んだんだろーし、あかねも接客に出せるな!いつまでも補助させるわけにもいかないしな」


宮城クンまでうんうん頷いてるよ…!うう…毎日寿命を縮ませろと言うんかい…


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