3〜富田と宮城クン〜
仕事も少しずつ覚えて来た今日このごろ。
今日は経営会議で孝生さんはギャラクシーに行っている。
いやあ…散々だったなぁ…
予想通り、孝生さんの教え方は鬼悪魔だった。
けれど細かい事を解るまできちんと教えてくれる。
最悪に口は悪いけど…。
こうして勉強しながら、烈さんの補助を頑張ってたりしてた。
そんなある日。
ぼんやりグラスを磨いていた時、
「あっ!」
烈さんが『やっちゃった〜』という顔をしている。
「どうかしました?」
烈さんは頭をかきながら
「トニックウォーター発注忘れちゃった。まずいなぁ…とみちゃん、悪いけど…」
「あ、いいですよ。おつかい行きますよ。」
「きょ…恐縮ですぅ」
こうして私は酒屋さんまでお使いに行くことになった。
―――――――――――
店を出た時。
「はいっ!」
と威勢のいい返事が聞こえて思わずビクッとする。
どうやら新人ホスト達がベテランホストに初めてのキャッチについて教わってる…みたいな光景だった。
そうして新人達は夜の繁華街に散っていった。
そこに白いスーツを着たいかにも性格の悪そうなホストが来る。
ベテランホストがペコペコしている。という事は偉いホストだろうか。
「んー。俺も久しぶりにキャッチしてみっかなぁ?俺、いつも店にいるだけで客が勝手にくるじゃん?たまには運動しないとね〜運動不足で顔に悪いしさぁ。」
と、余裕タップリに威張っている。髪をいやらしくかき上げながら。
運動不足って…顔が悪くなるのか?でも…なんか…やな奴…
「俺もたまには努力しなきゃ。ま、天才だからトップの座はいつまでも俺だろうけどね〜」
あー…ムカツク。
こんな話聞いてる場合じゃなかった。
さっさと行こう…。
時間を有効に使うという事を考えながら酒屋に行き、トニックウォーターを買ってくる。
その帰り道だった。
「おねーさん♪こんばんわっ」
嫌な予感!
振り向くとさっきの白いスーツのホストがいた。
…でた!
しかし…
間近で見ると本当いい顔だ…
悔しいけど、かなりかっこいい…こりゃあ…イイ漫画の材料になる。
とろけるような甘〜い視線。
長いまつ毛
クッキリ二重の綺麗な顔。
ホモ漫画に採用したい…!…って何考えとる私!!
「可愛いね!これからお仕事かな?君なら指名たくさんされてそうだから…なんか…妬いちゃうな」
あの…キャバ嬢じゃないんだけど…
でも…
正直悪い気しなーい♪
…ってオイコラ!私!
烈さんのお使い途中だろうが!!
「あ、あの…」
「ああ…脅かしちゃったね。ごめんごめん。…つい…来てほしくなっちゃってさ……会いに。」
「あ、あたしが…」
「うん…不思議な気分だなぁ…なんだろう?」
伏し目がちにホストは私を見る。
ややややヤバい…!
長いまつ毛がぁ…長いまつ毛がぁ…
ホモ漫画がぁ…!!
《コラァ!!あかねっ!!いつまでさぼってんだぁ!?とっと用件済ませろ!!》
ビクッ!!
「ど…どうしたの?」
頭の中に孝生さんの怒鳴り声の幻聴が聞こえた。
そうだ。万が一、孝生さんが戻って来てたら…エライ事になる。
「あの、あたし、すみません。」
ホストを振り払いソロモンまでダッシュする。
「あ、ちょっ………チッ!甘い言葉ですぐコロッと行くと思ったのに。……ーーーっつ!!!」
何かに気付いたようだ。
そしてホストは頭を抱えながら
「俺の無敗の記録があぁぁぁっ!!!!」
そして椿柄のハンカチーフを握り締めながら
「…はっ…ハンッ!どうせ門限とかそんなんだろ!?かっこいい俺がフラれる?有り得ねぇな!!」
―――――――――――
ソロモンに辿り着く。
ふう…びっくりした…。けど…本当、ホストに通う女の気持ち…わかるなぁ…ちょっとだけ。
さっきの白い奴…やな奴って思ったのに…
「かっこいい人だったなぁ…」
「誰が?」
「白い人…っ!?」
目の前には会議が終わり帰って来た孝生さんがいた。
「白い人?白ヘビか?」
「いや、それ人じゃないし…」
つうかそこで白ヘビを連想する人、そういないだろう…
あーはずかしっ…ホストにあんな事言われたうえ、急いで走って来たから顔真っ赤だよう…
それも…あの美しい鬼…いや、孝生さんの目の前で…
あたふたしながら足元の段差に躓いてしまう。
「わぁっ!」
その時。
その元凶の白スーツのホストがソロモンのある道の曲がり角に通り掛かった。
「ったく…ツイてないねぇ…ま、店に居りゃあ女なんてほっといてても俺を腐るほど指名してくるからな…?」
「イテテ…」
「本当ドジの天才だよなぁ…ほら」
「すみません〜」
「…(さっきの女の声…だよな?)…なっ…なんだとぉっ!!?」
彼にはこう見えた。
さっきの女が…抱き合って…男を見つめている?…しかもその男は…!!
「ぬわぁあぁぁあぁぁっっ!!!?」
構わず店に入っていく2人を見て、戻っていた椿柄のハンカチーフを噛みちぎりそうになる。
「くそっ…あの男か!?よりによって俺はアイツに負けたのかっ!?くそっ!くそっ!くそおーーーーっ!!!!」
電柱に頭をガンガンぶつける
「まあ…兄ちゃん…人生山あり谷ありですよ…100円あげるから元気だしてな…」
多分段ボールの家に住んで居る方に心配されてしまった。
100円をポケットにしまった。
―――――――――――
「椿ぃ〜待ってたよ」
「淋しかったよぅ〜」
店の前には俺の客が俺を待っていた。
ざっと20人程。
「ふっ…やはり。」
俺はやっぱり天才だ。
こんなに客供がいるじゃないか。
無敗の記録を持ってるんだ。
なのに…
―――――――――――
「いったあ〜い☆」
「本当ドジっ子ちゃんだなっ☆ほら立てるかいハニー☆」
「ダーリン…浮気はダメだっちゃ☆」
―――――――――――
ちゃんと聞こえてなかったのもあるが…時間の経過とは恐ろしい。セリフがだいぶ変化している。
しかも彼…ホスト・椿は気付いていない。
「有り得ない!あり得ないいい!!!」
バキン!
持っていた白ワインのグラスを握り締めて砕いた。
「あり得なイテェー!!!!」
「きゃぁぁぁ!!椿ぃ!?」
白ワインがロゼになってる。
「くそっ…くそうぅ!!タカのヤロオォッ!!思い知らせてやるっ!!!」
手から流血する血は赤ワインのようだった。
―――――――――――
孝生さんは相変わらず聞き役に回っりながらシェイカーを振っている。
私はいつも感心する。
あの豹変ぶり。
お客さん前にすると…よっぽど馴染みのお客じゃない限り本性を見せない。
クールで聞き上手なバーテンに変化している。
まあ…いつものあの鬼畜ぶりが出たら…ドMの人なら喜ぶんだろうけど…一般人はクレームつけるだろうな…80%。
「ねえ、とみちゃん…」
烈さんが何やら心配そうに私に対して何かを訴えてる。
「トニックウォーターの件…内緒ね。」
「もちろんですよ…」
烈さんは申し訳なさそうにいつもの
「きょ…恐縮ですぅ」
だって…孝生さんが知ったら…おおコワッ。
カランカラン♪
「いらっしゃいませ…あっ!」
そこにはさっきの白スーツのホストが立っていた。
「珍しいね!ミヤがここに来るなんて。」
烈さんが嬉しそうにホストにニコニコする。
え?知り合い?
私が聞こうとした時。
孝生さんがカウンターから出て来て
「おう!ミヤじゃねーか。珍しい客だな!何か用か?」
孝生さんも知り合いなの?
ミヤと呼ばれたホストは私を見つめながら
「ああ。このコに会いに来た。さっきは失礼。改めて会いに来たよ…。」
甘〜いまなざし。
ヤバい…心拍数がすごい
血圧が上がる…!
ミヤと呼ばれたホストは
「このコを指名したい。いいだろ?タカ。」
偉そうに孝生さんに指を指す。度胸あるなこの人。
「?いーけど?」
孝生さんの周りに『?』マークが見えた気がする。
「ふっ…カウンターでもお借りしようか。…タカ、君は黙ってシェイカーでも振っているんだな。…嫉妬というカクテルでも作りな。」
「…?まぁ、テキトーにやれって事か?」
カウンター席に座る。
数人お客は居たが、皆自分の世界に浸っているのか私の事を気にも留めてないみたい。
席に座りミヤは私の顔をジッと見つめる。
うわ…血圧が…ううっ…!
「君の名前。まだ聞いてなかったね。俺は隣りのホストクラブで椿って名前で通ってるけど…」
顔、近いよ!!
「君には本名で呼ばれたいな…特別ね…俺は…」
孝生さんが面白そうに
「宮城県1!」
「字がちがぁう!!宮城健一だ!!」
つうか…なぜ気付いた?
「とにかく!俺は宮城健一!タカ…野本孝生と小松川烈とは…腐れ縁だな。」
へえぇ!そうなんだ!
「私、富田あかねです。ここに最近入ったんです…バーテンとしてはまだまだですけど……!」
顔近いよぅ!
「あかね、か…ふふっ…可愛い名前だね…可愛いね…」
と言いながらチラチラ孝生さんを見ている。
なんでだぁ…?
「君は俺を何と呼んでくれる?」
気を取り直せ!
お客さんに合わせるんだ!
「うーんと…宮城健一さん…宮城クン」
「なっ!?」
「ぷっ…!」
「?」
上から宮城クン、孝生さん、烈さんの順だ。
「ダァッハハハ!!タメ扱いかよ!!」
孝生さんは腹を抱えて笑っている。
宮城クンはボーゼンとしている。
烈さんは状況が解ってない。
し、しまったぁ!!
明らかに年上なのに…それもお客なのに!!
タメ扱いは失礼だっ!!
「ごっ…!ごめんなさい!!」
宮城クンは席を立つ。
「…っ!!構わないよ…烈!会計!あとボトル3本キープしろ!!」
「えっ?うん!ありがと!」
そして万券を数枚投げて
「つ…釣はいらない。またくる!」
と言い残し宮城クンは去って行った。
「ごっごめんなさい!怒らせちゃいました!!」
私は必死で孝生さんと烈さんに謝るが
「大丈夫だろ。ボトルキープしてったし、またくるっつーてんだから」
流石の孝生さんでもよく解らないみたいだ。
「ミヤは昔からあんなんだよ」
烈さんもほんわか和む笑顔。
大丈夫かなぁ…?
―――――――――――
フラフラ宮城は階段を降りる。
「俺と…俺としたことがぁ…」
涙目で俺を見つめるあかね…
「ほっ…」
電柱にまた頭をガンガンぶつけながら
「惚れたあぁぁぁぁぁ!!!!」
その様子を見ていた段ボールにお住まいのオジサンが
「兄ちゃん…人生山あり谷ありですよ…100円あげるから元気…」
「いらんわぁ!!」
こうしてソロモンにまた常連さんがふえたわけだ。
☆富田の常連客リスト☆
宮城健一
26歳
ホストクラブ『KAGEROU』のトップホスト。あかねに惚れさせようとして逆に自分が惚れてしまう。重症のナルシスト。孝生と烈とは幼馴染み。