#1・回想
「ふあぁぁぁ…ん〜…」
重たい目をこじ開けると、自分のベッドの上だった。時刻は6:30。起き上がり、カーテンを開けると、柔らかな朝の日差しが差し込んできた。いつもと同じ朝。俺、神楽大樹の一日の始まりだ。
『おはよう、大ちゃん』
「おはよう、雪子さん」
雪子とは俺の家に住み着いている若い女の霊だ。
毎朝、俺に声をかけてくれるやさしい霊。
なぜ霊なんかと話すことができるのか。
実は俺は昔から霊感が強くて、物心ついた頃から霊感をフルに使っていた。
幼稚園の頃なんてひどかった。
自分の傷を治癒したり、小さな霊を除霊してみたり、そして、嫌な奴を呪ってやったりと、ませたガキだった。
ま、今でもガキだが。
ちなみに今でも霊感は健在している。
しかし、ませたガキも忙しい。
家では融通のきく可愛い一人息子を演じ、学校では明るく元気で素直で人気者の高校二年生を演じる。
コレが俺の朝、及び昼の顔だ。
そして夜。霊能力者、神谷零の行動開始だ。『ゼロの館―心霊現象相談所―』というマンツーマンのチャット形式のホームページをつくり、日々送られてくる相談を解決している。俺は、零でいるときの自分が好きだった。いつも仮面をかぶっている大樹より、有りのままでいられる零は気が楽だった。仮面を外してしまえばいい、と思うかもしれないが、それはできないのだ。なぜなら今、俺の周りは零の話で持ちきりだから。そのきっかけは、数ヵ月前のあの“除霊”が原因だろう。