06 ☆ α β γ δ
語り部:姫野 真輝
「ちょっと、そこのキミ。」
話しかけられたのが始まりだった。
◇◆◇◆◇◆
僕は、姫野真輝。“マサテル”じゃないからね!“マキ”だからね!ついでにいっとくと、男だからね!うん…。
「髪の毛が長いのは仕方がないんだよ!だって伸びちゃうんだからね!仕方ないの、仕方がないんだからっ!」
…………。
…………?
……あれ?
僕、何かしゃべってた?
(スタッフ)「……かくかくしかじかです。」
「ワワワ~っ!」
赤面した。するしかないでしょう。
しかも、何?その口調。
「ごめんなさい。今のは忘れて下さい!絶対に!永遠に!」
首をガクガクガクー
おもいっくそ、首を振ったった。
(スタッフ)「うっ……永眠しそーだよ……」
「あっ、ごめん!大丈夫?」
(スタッフ)「…ん、まあ……なんとか、ね。」
「…良かった。じゃあ、自己紹介をしまーす。えーっと……僕は14歳(中2)で、成績は下の上。中の下よりはよくみえるかなー?どーでもいいけどな。まあ、パッとしない、目立たない地味な僕なんです。」
(スタッフ)「…さっきのは?」
「…………(プチッ)。……一回、消していい?」
(スタッフ)「あっ、いえ……ぎぃゃーー!」
ーー脳内スタッフ消去完了。
◇◆◇◆◇◆
「……真輝、何ブツブツ言ってるの?」
「ああ、ごめん。独り言だ。」
「なんか、めっちゃテンション高かったよ。ツッコミもしてたし。まっ、お前の話はどーでもいいけどさ。」
「よくないときもあるけど。」
「そーだね(適当)。それより」
「大切な時もあるけど!」
「ハイハイ。そんなことより…」
「無視!?」
「……あの前の席のかぐや姫。」
無視か……
「綺麗だよなあ。キュッと結ばれた口、キュルンとした目、パッツンの前髪に切り揃えられたローテイル。ちっちゃな体にセーラー服なのに、あの攻撃性。たまんないよな~。」
あら、そうですか。
「…………。……お前、M?」
面倒そうな娘によく関わろうとするなぁ。
「Mじゃないよ。でも、あの娘にお金貸してって言われたら、借金してでも貸しちゃうよ。」
「…本当かよ?」
「むー、でも貸したらきっと冷めるだろーね。」
「まあ、そりゃなあ。」
「でもそんなことはないって、絶対。だって、あのかぐや姫の家は世界に名だたる、あの竹村だよ?総資産は少なくとも数百億円。そんなかぐや姫が小市民の俺にタカるわけないよ。」
「まあ、そりゃそうだ。」
……竹村が、僕にポンッと一億円くらいくれたらなぁ。
「でも、俺はそんな竹村の財産なんか、欲してないのさ。あの娘がいれば俺は十分なのだ!(仰々しくポージング)」
そーですか。
「はぁ…。……じゃあ、果たしてそんなことを思ってる人は何人いるかな?」
「数百人?」
「わかってるじゃん。同じクラスだから、若干確率上がるだろうけど数百分の1だぞ?」
「いいんだよ、別に。眺めてるだけで幸せだから。」
「…ニヤニヤしてるぞ。あっ、先生来たぞ。」
「じゃあ!」
◇◆◇◆◇◆
先生の話が始まった。長いんだよなぁ。
別にこんなSHRなんていらないのに。
時間の無駄だ。
ため息つきたくなる。でも、ため息つくと幸せが逃げるよなーーーー
「おいっ!姫野!後で前に来い!」
あれ?ついてないのに、幸せが逃げた!!
何でだろ。平和に暮らしたいのに。
放っといて欲しいな。
あーあ。
面倒臭い面倒臭い。
嫌になっちゃうよ。
「姫野!」
「はーい……」
なんだよ、このハゲジジイ。
「伸ばすな!なあ……あのなぁ、姫野。いい加減髪を切れ。」
「…2ヶ月に一度切ってます。」
十分だろ?
「じゃあ、1ヶ月に一度は床屋に行け。」
「家はそんなに裕福じゃあありません!」
「だったら、自分で切れ。」
「すごく変になります。」
「別にワシには関係ない。それにな、お前は茶髪なんだぞ?」
「地毛です。」
「んなことは、どうでもいい。あんたのお母さんにも許可とったし、今切るぞ。」
「……本気ですか?」
キラーンと輝くハサミを机の中から取り出す。
「ほ、本気じゃないですよね……?」
シャキシャキと準備運動してから、いきなり……
ジョキン。
「うわぁぁ!!先生!髪は女の命というでしょう?」
「あんたは女じゃない。安心しろ。」
安心なんてできませんよ、先生!!
「ワシは昔、美容師……」
「美容師?」
“だった”を期待したい!!
「になりたかった。」
“だが断る!”
「!」
断られちゃった…。
「大丈夫だ。キレイにするから。」
「……信用できませんから!!」
そう、絶対に。
その間にも髪はじょきじょき切り落とされ、床に落ちていく。
パサッ、パサッと落ちていく。
あーもう。
諦めた。メンドイ。
掃除は誰がするんだろう?
面倒事はパスしたい。
◇◆◇◆◇◆
「終わったぞ。」
急に声をかけられてビクッとした。
なんだよー、話かけるんじゃねぇよ!
「掃除はしとけ。なかなかこざっぱりしてていい感じだぞ?あと10分あるからな。」
じゃあ。と言って教室から出ていった。
……人の髪を学校で切るなボケェ。
せめて、貴様のポケットマネーで切れや!
お前、僕のフサフサの髪がうらやましいんだろう?(担任は、バーコードのハゲ)
心の中で罵ってると、クラスの女子たちが寄って来た。
「大丈夫?」
「うん、まあ……ね。」
「頭酷いことになってるよ?」
「……やっぱり?」
「うん。ほら。」
女子には必需品(?)の鏡が差し出されるので覗く。
「…………!(ムンクの叫び状態)」
または、アゴが地面に着く描写。
驚きで声も出なかったわい。
「ねっ?すごいでしょ?」
「う、うん……。」
「掃除手伝うよ!」
「…ありがとう。」
「どういたしまして。」
手伝ってくれたのはクラスを牛耳ってる女子の5~6人。
おかげさまですぐ終わりました。
「本当に、ありがとな。」
「ううん、大丈夫だよ。」
掃除なんて面倒だ。
他人の機嫌とりはもっと面倒臭い。