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闇の中にて僕は輝く。  作者: udakuda
第三章 冒険は、始まらず。
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欠食乙女の理不尽 2

エセパーティをしています。

ただの下(ry

 「……というわけだ、彼女……、いえ、ミソラ様がこの国の王になります」


 「「「「……はい?」」」」


 Oh,ぶっ飛んだことを言わないでくれよ、Baby……


「……しょ、正気でいらっしゃいますか!? お気分が優れないのでしたら早急にベッドのご用意を致しますが……」


「いんや、気分は爽快、数年ぶりに元気だぞ。ワシはミソラ様に王位を譲ると言ったのじゃ。」


「父上! ボクに王位を譲るって約束は!?」


「……そんな約束、したかのぅ?」


「正気の沙汰でいらっしゃいますか! この小汚い雌狐に騙されていらっしゃるのではありませんか?」


「騙されてなどおらぬ。ワシの好意から来るものじゃ。嘘発見器でも使うか? 無駄じゃぞ」

「すみません、使わせていただきます……」


 おい、嘘発見器を持ってこい! と騎士Dは言った。

 ……あれ? 騎士Aはどこいった?

 ……まあ、いっか。



 ……そ・れ・よ・り!!!



「アタシが王になるなんて誰が言ったぁー!!」


「ワシじゃが」


「違うでしょー! アタシが聞きたいのは何・故アタシが王様になるのかだ!!」


「ミソラ様と、レサト様に敬意を向けた結果じゃ」


「違ーう! アタシは自由がほしいんだ! そんな権力なぞ要らん!」


「そんな権力を欲しているボクはどうなるんだ!」


 知らんわっ!


「我が王は嘘をついていらっしゃいません! どうしましょう!」


 この目を見れば嘘じゃないなんてまるわかりだー!


「……何をあわてておるんじゃ? わしはただ、ミソラ様に」

「だぁーっ! な・んで、あ・た・し・が王様にっ!」


「「「「「……………………」」」」」


 沈黙が走った。

 あれ、少しはしゃぎすぎたみたいか?

 しょうがない。

 王様(ブタ)のふっくりとした手を握る。


「はぁー……、しゃ、シャッフル……」


 ここは政治犯罪者、その他諸々の犯罪者が入る牢獄だ。アタシはそのうちの一つ、ものっそい太った囚人と質量交換で跳んできた。

 足りない分は、地面の石畳でカバー☆


「というわけで、ナンだ。どうしてアタシが王様にならなきゃならんのだ」


 こめかみがひくひくしてるのがよくわかる。あー、腹立つ。


「それは私めよりもよほどミソラ様が偉いからであります」


「あのね、アタシの目標は遊んで寝て暮らすことなの。王様なんかになったらぐうたらできないじゃん」


「べ、別に王となっても遊んで寝て暮らすことはできますが……」


「それは責任の伴う自由だ。アタシが王様になったとして、あんたが宰相になったとして、あんたが政策を失敗したら、アタシは首がとぶね? それはイヤなの。ドゥーユーアンダースタン?」


「確かにそうですが……では、私はどうしたらよいのでしょう?」


「……ほっといて。ほっとくのが一番。アタシは宇宙の王(コスモスムンディ)世界の王(レサト)の使者だ。お前がしようとしていたことは宇宙の王(レックスムンディ)世界の王(レサト)の思し召しに反すること。アタシの行動は彼らの行動と同義。ゆえに、アタシの邪魔はするな」


「はっ、わかりました……、では、私めになにかできることはございますでしょうか?」


「ん……、あ、お腹が空いたね。じゃ、一泊させてくれ。ご飯はたくさん食べるから、よろしく」


「……それだけでいいのか?」


「え、もっといいの? ……じゃ、物置を貸してほしい」


「……どんなものが欲しいのか?」


「いや、何も。そのくらい自分でなんとかするからさ。逆に国政を圧迫したら悪いしね」


「いや、それだけでは申し訳がたたない……!」


「余分なモノは要らないよ。迷惑になる」


「やはりそれでは……!」


「いいっていいって。必要になり次第要求するってことで」


「ならば、よいのですが……」


「うん、OK、OK」




「お、王! ご無事でっ!」」


「おーおー、遅かったにゃー。忠誠心は有るのかにゃー?」


 一言二言言ったあと、パフォーマンスのように座った姿勢から空中一回転後、地に足をつけた。




◇◆◇◆◇◆




 わっ、わたくひはユトゥルナ国王城の門番を勤めさせていたたいていはふ、門番Aです! ご用件はいかがでしょうか!


 はっ、はひっ?


 何をおっしゃっていまふか!? 我が主はバヤリース様、ただ一人です!


 反乱なんか起きるわけあるません!


 え、王が狗のような浅ましい気質を持つように……なった、ですか?


 そんなわけあるわけありません! 我が主は国を治める良王です!


 ――――猫の獣人?


 しっ、知るわけがないぜすよ! しっ、知りません! 知りませんって!


 めっ、目なんて泳いでいますか! どこが泳いでいるんですか!


 図っ、図星じゃありません! 嘘なんかつきません! ついてません!


 ほえ、これ、何ですか?


 うわー、キラキラ光ってきれいですねー


 食べれますか?


 ほえ、食べれない!


 ……くれるんですか?


 ……そうですか。


 (ポチッ)ブーブーブーブーブーブー

 賄賂は禁止ですよ?


 神妙にお縄についてください。


 こちら、門番A、至急総員来るべ――……ブツッ


 ドサッ


 ◇ ◇ ◇


 カチャ、キィィィィ.......


 貴様、何者かっ!


 わ、私の名?


 名乗るわけがあるまい! 貴様こそ名乗れ!


 名前が、ない、だと?


 お前、影の者かっ!


 問答無用っ!


 キン!


 ぐはっ!


 影の者でないなら貴様は何者……




◇◆◇◆◇◆




「だっ、かっ、らっ、何で今夜パーティがあるんだー! アタシは宿をとるのが面倒だったから、泊まるって言ったんだっつーの! その意図わかってんのかー!」


 わがままなお尻もこれで満足! なふかふか椅子に座らされていた。

 左隣には王、そのさらに左には王の妻らしき人が座っていた。


「いや、我が国賓をもてなさねばならぬと思ってな。それから、ここは公の場じゃ」


 …………確かに公の場だねぇ。派手な顔つきがたくさんいるねぇ。


「ハイハイ、ワカッテマスヨー。ケイゴデハナセバヨイノデショー」


「そうじゃ」


「ではでは、ここにどう見積もっても貴族っぽい人がいらっしゃるのは何故でしょう?」


 アタシにずびばしと鋭い視線が突き刺さっているんだ……。


「……それは、呼んだからじゃな」


「それと、何故私は貴様の横に座っていなければいけないのでしょう?」


 見知らぬ人と王に馴れ馴れしい人で敵対視される確率がはねあがっているの、わかってる?

 ま、人間の敵対心なぞ、配慮するだけ無駄だけど。


「わしの妃になった……イタタ、痛い、痛いからっ! 嘘じゃ、嘘」


 身を乗り出して、耳を引っ張る。嘘だと言ったから、放した。


「本当に?」


「ああ、主賓は王と共にに出てくるものじゃ」


「……ふーん、危機感の無い国ですねー……」


 周りには衛兵が数人しか見てとれなかった。


「ま、普段は護衛がわんさかついておるし、危険と感じたときは別々に行動をとるからの」


「別々に行動をとるのは全体の何割程度でしょうか?」


「む……それは、ひ・み・つ、じゃ」


「全体の九分九厘は別行動でございます。なにしろ、我が国は“がんばろう ユトゥルナ”キャンペーンを実施しておりまして、他の国家よりも豊かであります。なので我が国は狙われる可能性が云々。つまりは、まもなく会が始まりますので口は慎みくださいまし」


「……へー…………。なかなかできた秘書さんじゃないの」


「お褒めにあずかり光栄です」


「…………わっ、わし……」




『――御会場にお集まりの皆様本日は国家主催のパーティにお越しいただきありがとうございます。只今より、開会式を始めます。始めに国王からの言葉を賜ります。』


 「わっ、わしは……キィーーーーーーーーーーーン!」


 ハウリングの音が五月蝿い。お腹が空いた。


 「わっ、……本日は無礼講じゃ! 何をしても、どんなことをしてもOKじゃ! ただし、礼儀礼節をわきまえた、貴族としての心意気は持つように。以上じゃ!」


『では、次に国賓の紹介をいたします。我が神レサト様の使者にして、我が主をもう既に尻に敷いた、ミソラ様です、どうぞ!』


 ……は?


「(ほら、立って何かをしゃべれ、ほら、ほら)」


 ……いやいや、それ、どんな無茶振りですか。

 キラッキラオーラをばら蒔いている、物理的にもキラキラなその貴族様の前でスピーチとか。

 あと、アタシの紹介もおかしい。

 こいつを尻に敷いた覚えはない。


「(早く、早く!)」


 小声でぽしょぽしょと喋る野郎を脇目に、立ち上がった。


「えー、はじめまして、ミソラと申します――、ってことで本日は無礼講らしいので食べまくるのでよろしくお願いします。そしてアタシは国賓とか、そんな大層なものじゃないんで、そこんとこよろしく。で、えーと……」


 ちらりと横目で王様を見る。

 こくりと頷いた。

 ……よーし、いいんだな?


「じゃあ、カンパーイ!!」


 一瞬の間を置いてカチーンとガラスがぶつかり合う音が出た。


「わしが音頭を取りたかったのに……」


 後ろの方で手持ち無沙汰で王がしょぼくれていた。


「あー……、ごめんねっ☆」


 てへぺろっ☆




 ◇◆◇◆◇◆




 カチャカチャカチャ


「えーと、全種類一つずつ持ってきて」


 バイキングとは言えども王城付きのウエイトレスさんやウェイターさんが食事を持ってきてくれる。

 それらは全て小さな小皿に入っているので量なども調整しやすい。ダイエットに気を使うご婦人や偏食な貴族様も満足していただくため、かなりの種類の料理が用意されている。

 それゆえ食べる量が多い人はそれだけ皿が多く溜まるのだが……


「少ないな」


 手のひら大の小鉢なぞ、三口四口でこと足りる。

 美味しい。

 確かに美味しいが、舌の上でとろけて無くなってしまうよう。美味しいという実感はあるが、腹には全然溜まらない。

 食事というものは命を奪うこと。遊びで食べるのはいかほどか。


「ま、アタシほど食べ物を冒涜してるやつはいないけれど……か」


 アタシは(チカラ)を使うために食べている。野菜を、肉を、魚を、食材を――()を。

 この体にあの宇宙の王(馬鹿野郎)がつけた制約で、食べなければ(チカラ)を使えない。

 食べるということ、それはこの星の資源を少しずつ奪っていることに変わりはない。アタシはこの星に骨を埋めるつもりはないし、例え望んだとしても無理だろう。

 しかし、やはり、何故だろうか。

 食べることが嬉しいのは。

 宇宙の王(アイツ)に創られたフォーマットの上に成り立つアタシが自分を保つことでさえ不思議だ。

 何時でも、何処でもアタシの自我を奪うことはできるのに。

 そう、アタシの自我がなければ、もしかしたらこんなことにはならなかったろうに。

 そんなことなんてないとは思っている。でも、アタシは疲れた。

 耳を隠すように付けられたヘッドドレス。それに似合うようにつくられたマーメイドラインの黒を基調としたドレス。純白の手袋に添えられた薄ピンクのコサージュがアクセントとなっている。


 ふぅ。ため息をつく。

 人として生きるのは悩みが多い。少なくとも、知能の低いビーストや怠惰に欲に忠実に生きることができたのなら、考えることも無かったかもしれないのに。


 「失礼いたします。追加のものをお持ちしました」


 豆腐のメープルシロップをかけたやつっぽいのを口に運び続けていたところに言われた。

 小鉢に入った食べ物がずらりとテーブルの上に並んでいく。

 実に壮観だな。

 ぱくぱくと口の中に入っていく食べ物は胃の中にだんだん積もって消えていく。

 アタシのために開かれたパーティーのはずなのに、主賓であるアタシが食べてばかりなのはいかほどか。


「ま、関係ないけどね」


 小鉢にスプーンを載せた。

 チーン、と感慨深い音が鳴った。




 ◇◆◇◆◇◆




 けぷっとげっぷをしてしまった。ごちそうさまでした、と。

 胸元に挟まっているナプキンで口元を拭き、一呼吸置いた。


「ふぅ」


 おいしい食事は気持ちを優しくするとは本当だな、と思った。本当に美味しかった。


「さて、……部屋に戻ろうと思うのだが……、案内してくれる?」


「もちろんです」


 殆どの蝋燭の火はすでに落とされていて、見渡す限り人が見えない大広間は夕暮れのような闇に覆われていた。アタシが出たあとは掃除係がやってきて、蝋燭の取り換えや絨毯の染み抜きをすることだろう。

 何となく、いけすかない。使えるものは親でも使え精神で働かないと。


「シャッフル」


 シミの場所を紙に移動。跳ばすものは部屋の紙の上に置いてあった糸屑。


「シャッフル」


 蝋燭の炎を跳ばした。対価を付けることが出来なかったから、エネルギーをたくさん使った。

 ついでに――真っ暗になった。

 あ。


「きゃっ! てっ、敵襲です! 守衛、守衛!」


 目の前でメイドさんが慌ててた。

 あ、これはアタシのせいだよね。


「すみません、これ、アタ」

「騎士アルファード到着いたしました! 周囲の警戒に当たります!」


 アタシのせいなんです、と口を出すのを遮られた。

 え、そんな大それたことはしてないつもりなんだけど……。


「あーあー、こちら大鷲の間、ミソラ様が何者かに襲われた模様、至急人員を」

「ミソラ様! お逃げ下さい!」


 何かの魔道具で連絡をとっている騎士Dの声を遮るように入ってきた騎士Eの声。騎士Eは何者かに追われているかのように息を切らして急いでいた。


「早く、早くお逃げ下さい!」

「侍女! 早くミソラ様を案内しろ!」


 騎士DとEは装飾性の低い、お揃いの剣を鞘から引き抜いた。

 …………。アタシはポリポリと頭を掻いた。

 次女はアタシの腕を引っ張り、避難させようとしていた。


「シャッフル。アタシがやる」


 等数交換で位置を変える。騎士達とアタシとメイドの位置が入れ替わった。


「シャッフル、」


 メイドと武器庫の武器と入れ換えた。細目の剣はキラリと血を求めて光っていた。

 メイドは……あとで迎えにいかねばならないな。


「姫、姫、姫、姫……」


 狼男のような、ドラムのように重低音の声が聞こえた。

 姫、誰かを探しているのだろうか?


「姫、姫、姫、姫、姫……」


 ここにいる人間は全部で三人、隠れている者もいるが、あれは男。女ではない。

 つまりはここには姫はいないということだ!

 姫は誰だ!

 まずは捕獲だな!


「シャッフル! あと、ロープ持ってきて!」


 不等価交換。ごっそり力が減る気がした。

 そして騎士に命令した、大理石の壁に囲まれた奴なんか逃げられないと思っていたから。

 なのに、轟音が響いて、

 こ わ さ れ た


「ええっ!?」


 ガラガラと音をたてて崩れていく大理石。くそぅ、弁償させてやるからな。

 出てきたのはまんま狼男。もふもふじゃなくてごわごわだ。

 なんとその男が、姫! と言いながら土下座した!


「「「えっええー!?」」」


 その男は何故驚かれているのかわからないようで、きょとんとしていた。




◇◆◇◆◇◆◇




「っというわけでアタシたちは今、草原に居まーす」


『経緯を説明しろ。何がっというわけかわからん』


「おい、偉ぶるな。アタシがボスだ。ヤるか?」


『いえいえ、ヤりませんよ。我にはまだ使命が残っていますので』


「いやいや、さっさと帰れよ、フェンリルさんよ。とりあえず帰ってアタシを自由にさせてくれ?」


『それこそダメですね。それでは我が殺されてしまう』


「はいはい、“宇宙の王(コスモスムンディ)”もご苦労なこって」


 まあ、つまりはそういうことだ。

 王都を強襲したやつの尻拭いをして、また重要なことがあったら知らせるだとかで口先三寸節を奏して早々と王都を出た。

 宇宙の王(コスモスムンディ)は一応の見張りにこの狼を派遣したということなので、せめてもの報復に足としてこきつかってやろう。


「あ、あそこにドラゴンがいるから狩るよー、連れてけー」


『あの、重いんですからちょっとは休ませてくださ』


「あん? 体長五メートルあるあんたが? アタシのことを重いとでも? あんたの方が重いっつーの! シャッフル!」


 よし、街に跳んでやった。食料を買い込んでっと。


「シャッフル!」


『ゲエッ』


 ごわごわの狼の背中に乗せた。これだけでくたばるとは情けない。


「さあ行け、ドラゴンの元へ! 今日の夕飯のために!」


『……はいはい』




 今日もお腹が空いた。

 満腹感が持続するのはいつになるのか。

 とりあえずはエンゲル係数がほぼ百の生活をしましょうか。


「いざ立てー進めー、ご飯のー、ためにー!」


『いや、我慢すれば貴方がいい話ですよね?』


 アタシは無表情で狼の背中に串カツの串を突き刺した。


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