欠食乙女の理不尽 1
今日でこの小説が連載されているのも、一年となりました。
読んでくださりありがとうございます。
なお、この話にはかなりフランクな王がでてきます。
ただの下調べ不足です。
「「「誰だっ!」」」
所謂異世界トリップを経て何処かという場所に着き、目を開けたらいきなり三人の騎士に槍を突き付けられていた。
「………………はぁ?」
とりあえず、そこんところの王様に話はつけといたからよろしく、と言われていたが…………ほぅ。
嘘つきめ。
「貴様は誰だ! 名を名乗れ! さもなくば……」
騎士Aが背景にヨーロピアンガーデンを背負って言う。騎士B、Cは槍を首元に突き付ける。
あのさあ、騎士sよ。そんなむさい顔で言われてもいう気にはなれないよっと。
「……お腹が空いたなぁ」
「貴様の名はオナカガスイタナァか? そんなふざけた名前はあるか! とっ、捕らえろっ!」
「「はっ!」」
騎士Aさんは上官らしい。腹が減っているというのに。
騎士B、Cは槍を突き刺すつもりらしい、殺す気か。
シュッと突き出される槍は――――
「……シャッフル」
騎士Aの鎧のど真ん中に刺さった。が、
「「「なっ……!」」」
ヒビが少し入っているだけで、本体には届いていない。
「へぇ、なかなかな鎧を使っているじゃん。ああ、でもお腹がペコペコだなぁ」
示しあわせたようにお腹がぐぅと鳴る。
「ふざけたことをっ……!」
騎士Aは 槍を 投げた!
「投げれるようなものじゃないのに」
ひょいっと右に避けると10キロはありそうな槍が側を飛んで行く。
「何ぃ……私の槍を避けれるだとぉ……!」
悔しそうに地に付している騎士Aを嘲け笑う。
「アタシは腹が減っている、さあ、飯を食べさせ…………ろ? ありゃ?」
しゃがみこんで騎士Aと話している間にアタシは捕まったらしい。
なんてこった!
パンナコッタ!
……パンナコッタ、食いてぇな。
◇◆◇◆◇◆
「――シャッフル。よっと」
「おっ、お前、捕虜の捕まったやつ……!」
「だけど、それが?」
体に纏っている縄をスルリとさも無意味であるかのように抜ける。ストンとちくちくとする麻縄が石床に落ちた。
「……ここの王様はどこにいる?」
「しっ、しはないぞっ! 教えるわけにはいかない……」
教える意思はなし……と。面倒だな。
「シャッフル」
無作為に城内の画像を連続交換する。
ふふっ、発見。
「……シャッフル」
石牢の中にきらびやかなマントを纏った王様が現れた。その代わり、無礼な衛兵は消えた。
「はじめまして、ABさん」
歩くとぺたりと音を立てる足、ホットパンツからすらりと伸びる漆黒の尻尾、腰まで届く長い髪、伸びをするだけでたゆんと弾むでかい乳、ぴくぴくと普段から動く可愛らしい猫耳――――
全てを武器にするつもりで歩み寄った。
「はじめまして、ミソラと申します。宇宙の王のケンジ、もとい第3691世界の世界の王のレサトの使いとしてやって来ました。とりあえず、お腹が空いたので何かご飯を欲しいです」
能力の使いすぎでお腹が空きました。責任をとって食べるものを用意してください。
「……ケンジ、とは何ぞ? 知らぬな。宇宙の王、世界の王とは、何だ? とりあえず説明せよ」
え、知らないの? 知らない子なの? え、ミソラ困っちゃうー!
「レ……あ」
「何だ」
あぁ……メンドクセェ。ケンジめ。この、嘘つきが。
「チッ、アタシは空腹だ。それ以上でもそれ以下でもない。早く食事にしてくれ」
「一国の王に向かってそんなことが吐いてよいとでも言うのか!」
「や、たかが一国の王なんでしょ? とりあえず食べるものを寄越しなさい。アタシはレサトの使者だ。アタシは聞かずに目を反らし続けるものには手は差し伸べない」
この体は何ともコストパフォーマンスが悪い。前は寝るだけで十分だったというのに。
「さあ、アタシを接待するか、冥土に行くか、どちらか選べ」
腹が減った。
それだけしか考えられない。
◇◆◇◆◇◆
カチャ……カチャカチャ…………
フォークとナイフと皿とが擦れあう音しかしない。会話など、一切ない。
一応、マナーは守ろうとカンニングをしながら食べているがさらにそれが食べたものをエネルギーとして消費してしまう。
何と無駄なことをと思うが、アタシは宇宙の王や世界の王の看板を背負っているのだから仕方がない。
とりあえず、王様もこの場にいるが、とっくの昔に食べ終えていて、何だか気まずい雰囲気。でもアタシは三食目のフルコースを食べ始めたばかりであとまだ二食ぐらいは食べれるだろう。
マナーも覚えたし、そろそろエネルギーの無駄遣いも止めようか。私はまだお腹が空いている。
この胸が無ければそんなにお腹が空くようなことがなかったかもしれないのに。
◇◆◇◆◇◆
「で、ご用件はいかほどでしょうか」
アタシが結局フルコースを六食食べ終えて、胸元にあった白い布で口元を拭ったとき、白い髭の王様から言われた。
「えーと、どういう意味ですか?」
満腹、満腹。アタシは幸せだぁ。そんな気分をぶち壊すなんて。ちょっとアタシ、キレちゃうぞ!
「あなた様がここにいらっしゃった意義を私めに教えていただきたいのですが……」
ああ、そういうことね。
テーブルの上にあった切り子細工のガラスのコップの中の水を綺麗に飲み干した。
テーブルの上で手を組んで、前の人を見つめる。
「えーと、端的に言いますと、この世界に災いが降り起こります」
「わ、災い、ですか……」
「はい。この世界の統率者、この宇宙の元締め共々、このような事態はいささか不本意という状態です」
「……はあ」
「とはいえ、この“災い”は目を反らし、耳をふさいで布団の中でガタガタと震えていれば特に問題はありません。正直、支配者の意志を交えずに歴史を進めるのも面白そうに思えます。あなたは、ユトゥルナ国の王様のニセモノは、どう思いますか?」
「…………! 私がニセモノなどと馬鹿にしたことが……」
「図星ですか。まあ、いいです。アタシはあくまで派遣された人です。派遣元に従うまでも、派遣先に従う訳ではありません。ニセモノさんはどう思います?」
「わ、私は……………………………。私には決められない」
「あ、そ。じゃ、本物さんを呼びましょう。シャッフル」
「あっ、こら! やめ……」
媒体はニセモノさん。
ちなみに映像をリアルタイムで送る魔道具があったので別の魔道具(空気清浄器)に替えておいた。
「はじめまして、このチキンのへたれで豚野郎。さすがに童貞野郎じゃないっぽいけど、身代わりを立てて自分はお風呂でぬくぬく気持ちいい、か。最低だな」
ホカホカと白い湯気を上げているバスローブのおじさんを蔑むような目でみる。そいつは若干メス臭い。
「そっ、それは貴様が食べ終わるのが遅かったからだ……!」
「……そうかもしれない……が、人が食事を終えるまでは黙って待っているのがマナーであろう。まさか、アタシがマナーを守らずに食べていたことはあるまい? ま、順番は多少は違ったかもしれないが、大きなミスはしていまい。なあ、ユトゥルナ国王」
「だがな……レサト様の使者のミソラと申す者……」
「宮廷魔術師の美人のエルフちゃんを食いながらアタシの動向を探っていた人がよく言えるな。女を侮辱する行為、最低だな。こんな下種は今駆逐した方が将来のためだ。一族郎党殺して並べて晒して革命でも起こしてみようか?」
「……だっ、黙っていれば……! セレイス、こいつを殺せ!」
ダダダダダと荘厳な食堂に無骨な足音が聞こえた。
――大人しくしていれば命だけは助けてやる!
なんて、なんて傲慢なことを口にしている。
ふざけるな。そして、アタシをなめるな。
「――シャッフル、」
頭の中に城内の画像をつらつらと並べていく。
「シャッフル、」
さすがに刺されるのは痛いから、手頃な兵士で身代わりをさせる。
…………!
ぷくくっ。
「……エウレカ。シャッフル!」
王様の腕を捕まえて、そこへ跳んだ。
ちなみに、そこはベッドの上で、騎士Aが“プレイ”をしていた。王様といい、騎士といい、風紀が乱れ過ぎているな!
騎士A、ざまぁ! 変態嗜好を皆にご覧じるがいい!
◇◆◇◆◇◆
「で、ここまで連れてきて何をするつもりだ!」
「シャッフル」
お、泉の畔だ。
「貴様、わしをどこへつ」
「シャッフル」
「わしをど」
「シャッフル」
「わしを」
「シャッフル」
「わ」
「うるさい、黙ってろ、シャッフル」
「………………」
「シャッフル。シャッフル。シャッフル」
「………………あの……」
「シャッフル。シャッフル。シャッフル。シャッフル。シャッフル」
「…………その……」
「シャッフル。シャッフル。シャッフル。シャッフル。……シャッフル。シャッフル」
「……あの………」
「シャッフル。シャッフル。んーと、シャッフル」
「……あ、もういいです……」
「シャッフル。シャッフル、……ふぅ、こんなところか。で何かようでも?」
「わしをどうするつもりじゃっ!?」
「……ハムにするのもいいな……じゅるり」
「冗談は後で言ってくれ。要件は何じゃ?」
「貴様を篭絡し、娼婦のようにあひあひ泣かせるのも悪くはないな。ほれほれ、このでっかい乳で頭を挟んでやろうか?」
「そっ……それは……」
「こんな簡単な色仕掛けに引っ掛かるなよな……。王様なんだから、さぁ。正々堂々と王座の上でふん反り返ってれば……ダメか。そんだけじゃ国が回らない……はぁー、政治ってのは難しいなぁ……」
「貴殿の用件とは何ですか?」
「あっ、やっと貴様の置かれた立場が分かった? 貴様の生殺与奪権はアタシが握っていること。殺ろうと思えばすぐにシャッフルで『他の首と変えることが出来る』のに。ねぇ、浮浪者の死体の上に王様の首が乗っているなんてなんともシュールで素敵じゃない?」
「もっ、申し訳ございませんでした!」
繰り出された小汚い土下座。やっぱり土下座は慣れている人の方が綺麗だ。
「もう少し誠意を籠めて、聞きなさい。少しでも気を抜いたら、お・仕・置・き・よ」
「はい、わかりましたご主人様!」
「アタシはご主人様なんてガラじゃないわ。そうね……ミソラ様とお呼びなさい」
「ミソラ様! どうかこの愚かな私めにどうか鞭を!」
「……貴方の対応次第ね。さて、どうします?」
「あぁ、それは……、ヒィッ! わ、わわわわかりました! 不肖バヤリース・ユトゥルナ、あなた様の軍門に下ります!」
「……ふむ、よろしい」
「一国の主である私が、平民に下ったことにどうか、罰を!!」
……へ・い・み・ん、ねぇ……
「アタシはそんな平民みたいな存在じゃないのだけど……?」
「そ、そうでした……、……て、天使様?」
「……そんな柄じゃないわよ、そうね……堕天使とでも名乗ろうかしら……あ、もちろん、宇宙の王の方だけど……」
「わ、わかりました! だ、堕天使様ぁ! どうか私に、げぶらぁ!!」
ムカついたから、蹴った。醜い脂肪がぶよぶよ揺れておもしろい。
「アタシのことはミソラ様と呼べと言ったはずだ」
「はっ、ミソラ様! 尊称を間違えた私めにどうか罰を!」
「……そんなに罰が欲しいの?」
「はっ、はい!」
「……そんなにがっつくんじゃないの。アタシは逃げないから……シャッフル、シャッフル、シャッフル。ほら、どれがほしい?」
バラ鞭、低温蝋燭、首輪。どれもこれもこいつの部屋にあったやつだ。変わりに土くずが置いてあるが、まあ、関係のないことだ。……エルフちゃんにはかわいそうなことをしたかな……。
「全て下さい!!」
「そう……欲張りな子ね……」
「ん、……あ、れ?」
穴ぼこの地面、散っている白濁液、ドミノ・ボールギャグ・首輪を付け、嬉しそうに倒れている豚、もといバヤリース公。
リードはアタシが握っていた。
かくいうアタシも半裸状態。急いで直す。
「……シャッフル」
地面に手をつき、綺麗な水と土を交換する。
バケツをひっくり返したような水が降り、洗い清めていく。
見当たるところに汚れがなくなったので止めた。
“ぐぉ……ぐーきゅー……”
「は、腹へった……シャ、シャッフル……」
東の空がしらみ始めているこの時分にはもう王城は機能しているようだ。旨そうな、朝御飯だ。
もが、もぎゅ、ごっくん。
旨し、旨し。
「シャッフル、シャッフル、シャッフル」
もが、もぎゅ、もが、もぎゅ、もが、もぎゅ、ごっくん。
……もうちょっと、食べたい……かな?
「シャッフル、シャッフル、シャッフル、シャッフル、シャッフル」
もが、もぎゅ、もが、もぎゅ、もが、もぎゅ、もが、もぎゅ、もが、もぎゅ、ごっくん。
「ごちそうさまでした」
この世界での挨拶とは少しばかり違うけれども、なんか習慣として取れなくなってしまった。やはり100年来の習慣というものは取れないものなのだろう。
送った土と皿をさらに交換し、……残ったのはぬかるんだ地面とSMグッズの数々と、幸せそうに倒れている全裸のじじい。
「どうしてこうなったーー!」
叫ばずにはいられなかった。