虐殺鬼の報復 2
テストが終わりました、が
一週間とちょいあと、模試
↓
その一週間後、模試
↓
次の週はテスト二週間前。
……泣きたい
あと、眠いです。
不定期になっており、誠に申し訳ない。
「じゃ、さようなら。悪い人には捕まらないように」
「では、また機会がありましたら、会えるといいですね。悪人には気をつけさせていただきます」
またの機会はないといいのだが。
……辰砂……か。
おっぱいが、大きかったな。さすが、エルフ……もとい、エルフの血を継いでいる人だ。
自分の胸は膨らみなど全く、地面によく滑りそうだ。
……ああいう、人は配偶者が見つかるんだろうなぁ……
自分の絶壁な胸を見ると、悲しくなってくる。
「……ご飯にしよう。和食がいいが……ないだろうな」
手近にあった、食堂に入る。
宿も付いている、らしい。今日、一日ぐらいは、立ち止まってもいいだろう。
……今日、一日だけは。
「……おばちゃん、おすすめは?」
「おばちゃん、じゃ、ないでしょ? おねえさんと呼んでね?」
どう見てもおばさん、悪く言ったらおばあさんと思われてもおかしくはないが……
「……オネーサン、おすすめは?」
「山羊のミルクシチューと、黒パンに……お嬢ちゃんはかわいいから、おねえさんの親愛の抱擁ね!」
……? ホウヨウ……なんだろ。ふくろうと軽薄の証? 梟肉を使ったの軽くて美味しいものかな?
「……じゃ、それで」
「毎度ありー! じゃ、サービスの抱擁は今やるよー! せーのっ!」
「むぎゃー!!!」
うわっ!
何するんだ、このおばさん!
離せ、はーなーせー!
「ふわっほ、ふふふぃーはほっ!」
呼吸……はできるか?
すーっ、と匂いをかぐと、石鹸と年を取ったさっぱりとした甘い香りがする。
……なんだか、落ち着く?
「おばちゃーん、若い子をいじめんなよー! ははは!」
「いじめてなんか、ないわよー! それから、おねえさんと呼びなさい!」
「「へーい」」
「ぷはっ!」
ほーよーって抱くことだったのか。初耳だな。
……うん、悪くはない。
「……ごめんねー、急に抱きついちゃって。抱擁って受けてくれる子は少ないからね。お礼に、杏仁豆腐、サービスね」
「……あ、あの……」
「おとうさん! 今日のおすすめと、杏仁豆腐ね!」
「あいよー!」
聞こえてなかったみたいだ。少なくとも、今の声の返事はない。
サービスなんか、してもらっていいのか、と今更ながら思う。
やっぱり、然るべきお金を払うべきでは……?
……それから。
何故、アタシは抱擁から逃れなかった? 逃れるタイミングなんていくらでもあった。
……おばさんが、巨乳だったから?
違う。巨乳だなんて、死体のヤツを何個も触ったことがある。食べたことはあるけど、美味しいと思ったことはない。
じゃあ……いきなりされて、脳が固まったから?
違う、反射的に振り払うこともできたはず。怪我をさせないようにでもなさそうだ。怪我をさせないように振り払うなんて、簡単にできる芸当だからだ。
……では、やはり…………認めたくはないが、アタシが人の優しさを知って、心根が温くなっているのではないか?
亜人であっても人間を憎まずに、むしろ爽やかな笑顔を浮かべる辰砂。
見ず知らずのアタシに抱擁するほど、愛情豊かな宿屋の女将。
それに触れて、それが普通、むしろ出来て当然とは思っていないか?
……アタシは、どうしたらよいのだろう。
人間のために、生きるのも悪くはないのかもしれない。
「お待たせしましたー。えーっと、山羊のシチューと黒パンとサラダね。杏仁豆腐はあとで持ってくるから、言ってね。で、料金は千二百五十ルナです」
「あ、はい……」
赤いポーチから小さな財布を取り出し、千二百五十ルナ丁度払った。
「じゃ、ごゆっくりー」
おばさんはお金を受けとるとポケットのポーチに入れ、るんるんで戻っていった。よっぽど楽しいことがあったらしい。
……それから。杏仁豆腐の料金を払うのも忘れていた。
……しまった……
「……まあ、あとで払えばいい。」
はむっ。
……おいしい、な。
そういうのとか、よくわからないのだが……滅法うまい。杓子が止まらないぐらいにはおいしい。
……生の血肉には勝らないが……
生の肉はいい。鉄とほんのり苦い味と塩っ気と旨味。これ以上に美味しいものは他にはない。
掬っては口に入れ、咀嚼しては掬いを繰り返していたら、いつの間にかシチューはなくなっていた。
肉は生肉に限るが、加熱した肉もおいしいと思えた。ぱりぱりとサラダを噛み砕くと、青臭いような、土臭いようなよくわからない風味が広がる。嫌いでもないが、好きでもない。
……でも、もしかしたら、人間として振る舞うのだとしたら、これを食べたら、辰砂のようにふわふわと生きていけるのかな――――なーんて考えてみたり。
「……加工品もおいしいものなんだな……」
ぽそりと呟いた。普段の食事は保存食か、生の肉。肉ならば、どんなものでも食べる。
「この食事に慣れてしまったら大変だな……。おばちゃーん、デザートもらえますかー?」
「あいよー!」
時刻は午後の三時頃。昼には遅く、夜には早すぎる時間だ。さっきまで数人いた冒険者たちも、いつの間にか姿を消していた。
「はーい、杏仁豆腐ねー」
何故かおばさんは二つの杏仁豆腐を持ってきた。よく、わからない。料金のことも言わなければ。
「ありがとうございます……あの、」
「お嬢ちゃんって、冒険者?」
「……あっ、はい」
「お母さんとか、心配してない? そんな若いのに一人でいるなんて……冒険者って危ない仕事なんでしょ?」
「いえ、両親はいませんし、冒険者も慣れれば大変じゃありませんよ」
「でも……女の子だし……冒険者が嫌だって思ったことはないの? ……もし、嫌だったら……ここで雇ってあげられないこともないのだけれど……」
椅子に腰かけていたおばさんはそう言って、お盆の上のもう一つの杏仁豆腐に手を伸ばした。二つあったのはそういう意味があったらしい。
「……………………」
ぱくり。
一口、杏仁豆腐を口に運んだ。
甘くて、冷たくて、ぷるぷるしていて。
なんて、おいしいんだろう、ワタシをどうしようってつもりだろうって思った。
甘やかして、突き放して、そしてただ不干渉を貫いて……でも簡単に崩れてしまって。
一体ワタシはどうしたらよいのだろう?
おばさんから、冒険者業から足を洗うよう言われた。次の就職先も教えてくれた。
ワタシ……はどうしたらいいのだろう。
ぱくぱく。
匙だけが止まらない。
おいしいだけ。甘いだけ。冷たい……だけ。
ワタシは……
「美味しかったかい?」
「……あ。はい、おいしかったです」
「答えは保留でいいよ。今日はウチに泊まってくんだろ? その間にでも決めればいいさ。ま、一日で決まらなかったら、二日三日と泊まればいいさ」
ガッハッハと笑って部屋の鍵を渡してくれた。
「料金は、八千ルナ。風呂と夜と朝はついてるよ。ゆっくりしていきなさい」
「……は、はい……」
「じゃあ、また。夜にでも」
そう言い残すとおばさんはカウンターの中に戻っていった。
どうしよう……どうしよう。
ワタシは何故、冒険者をしているのか虐殺をしてるのか。
――何故……生きているのか。
◇◆◇◆◇◆
夜ご飯を食べた。おいしかった。
でも、ワタシの生きている理由がわからない。
何故、何故何故何故何故。
ワタシは生きているのだろう?
……そうだ。辰砂を襲った盗賊集団を片付けよう。
……何かが、わかるかもしれない……。
「〈テレポート〉」
視界が灰色に濁って、それから、鮮明になる。ワタシがよく使う、風の魔法だ。
「確か……あっちだったような……?」
O☆HA☆NA☆SIした奴等から居場所を突き止めようと試みる。
だが、無駄足だったようだ。二つの縄は紅く染まっており、肉片は全く見当たらない。喰われたようだ。
……どうしたものか。
「……妖精さん、風の妖精さん、ワタシに力を貸して下さいな」
『いいよぉー……』
返事をして下さった。ありがたいことだ。
「うら若き乙女を襲った盗賊を捕まえたいのです。何処にいるか教えてくださりませんか?」
『えーっと、そうだねー…… 北に六キロ、東に三キロ行ったところにそれっぽい場所があるよー』
「ありがとうございます、助かりました」
『へっへー。期待してるよ、虐殺鬼の千種ちゃん?』
「えっ、何でワタシの名前を!?」
『千種ちゃんは有名人なんだよー。じゃあね、また呼んでくれてもいいよー……』
さすが……妖精だ……。何でも知っている……
さて、盗賊のアジトにいこうとするか。
「さて……」
愛刀を鞄から出して、駆け出した少女は気づかなかった。妖精が彼女にキラキラ光る粉を振りかけたことを。気づきようがなかったのだ。
赤とオレンジに輝く粉、“バーサク”魔法が掛けられた粉は彼女の体に降りかかりすぅっと溶けていった。
『ケケケッ、どんな面白い画が見られるかなっ?』
耳の尖って露出度の高い服装をしているフェアリーはそう笑って闇に消えていった。
◆◆◆◆◆◆
「フフフ、アハハ、あはははははは!」
自分と体の癒着が曖昧になり、体が勝手に動いてしまっていた。体は血の池で周りの悪党を殺しているが、ワタシの意識は……
《浮いたままだ》
ザクザク、シュババァッ――――!
切る音と血の吹き出る音が耳に入る。
紐のない操り人形は向かってくる人間をざくざく切り殺す。殴ったり、蹴ったりもする、でも最終的に殺す。絶命させる。
「あはは、あははははははっ!」
……余りにも少女の肉体は楽しそうに踊っていたので、少女の思念も踊り始めた。
「あはは、あはははははは!」
《……あはは、あはははははは!》
「あはは、あはははははは!」
《あはは、あはははははは!》
「《あはは、あはははははは!》」
思念と肉体は一つとなり、最早少女は自らの意思でダンスを踊っている。
少女は大勢の人の中で踊っている。
少女のダンスはある意味規則的だが、型も何もないような踊りでもそれはそれは美しく見える。
なんという効率的な美。
切って殺して、刺して殺して、蹴って殺して、殴って殺して。また、斬って。
目深にかぶったキャスケットからは時折、狂喜に染まった瞳が見える。
本当に愉しそうに楽しそうに踊っているのだ。
その場から一歩も動かずに人を殺す。
首をかっきって、
腰をぶったぎって、
心臓に突き刺して、
殺す。
殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――――!
ぴちょん。
刀から垂れた血の滴が血の池に落ちた。
生きている人は誰もいなかった。
例外は祭りの真ん中にいたヒロインのみ。
少女は、刀についた血を直接舐めた。
舌から血が出て、でもそれもさも美味しそうに飲む。
「うふふ、あはははは!」
少女は、完全に狂気に染まりきっていた。
人嫌いの少女は――――
……殺人鬼と化した。