05 ☆ α β γ δ
語り部:竹村 乃子
この日の放課後、私は体育館倉庫の裏に呼び出されました。
体育館倉庫の裏は絶好の告白スポットでもありますが、犯罪が起きやすい場所でもあります。
少し危険な香りがしたので連絡して近くまでボディーガードさんに来てもらいました。
約束は守らなければなりません。
5分前行動は常識ですが、社会人はもっと早く準備するのです。
だから私は3時42分ちょうどに裏に着き、待っていたのでした。
◇◆◇◆◇◆
来たのはセーラー服の人でした。
セーラー服の人、もとい大友みゆきさんです。
なかなか美人でモテるふんわりと内巻きの髪の彼女。
も、なかなかの変人で、いわゆる“レズビアン”つまり“百合”なのです。
まあ、私はそういった趣味はないし、なりたくもないけれど、彼女はなかなか人がいいので、出来るならばこれからも仲良くしていけたらなぁと思っています。
あっ、彼女が来ました。
がさがさとした大きな袋を携えています。
息切れをしています。
「大丈夫ですか?」
声を掛けました。
「うっ、はぁうん…はぁはぁ大っ、丈夫だ…よ…。」
「本当に、大丈夫ですか?」
「ちょっと…ちょっと待って、ね……」
息が落ち着くまで待つ。
「わっ、私と付き合って下さい!」
いきなり言われましたよ?
ええ。
心臓がバックバクしてます。
一呼吸置いて、
「お友達としてでは駄目ですか?」
こう尋ねました。
私はお友達が欲しい。
そう、思っていましたから。
男の子は誤解するでしょうから。
女の子のグトグトでヌルヌルの妬みの視線はこれ以上感じたくありません。
その視線は体力を削るのです。
彼女はさばさばしていると聞いたことがあります。
ならば、私も同じように扱って貰えるのではないのでしょうか。
そんなことを込めて言葉を発しました。
「うーん、駄目だったかー。やっぱり付き合ってはもらえないんだね?」
「うん…。でも、友達としては付き合って欲しいなぁ。」
「ほっ、ホントですかっ!いいんですかっ!」
「うん!」
「ありがとうございます!乃子嬢!」
「乃、乃子嬢?」
「あっ、すいません!私、心の中でそう呼んでましたので…。」
「そんな他人行儀なことは止めて、乃子って呼んで。あと、敬語も止めて、ね?」
「分かりま…や、分かった!乃子!友達だねっ!」
「ええ…でも……」
「ん?どうかしたのか?」
「学校にいる間は話し掛けないで欲しいの。」
「ん?何で?」
「他にお友達になりたい人はたくさんいるだろうし、自称友達という人は、私という人間を理解してないから。」
「な〜る。」
「だから、文通しましょう。」
「うーん、忘れちゃうかも……」
「別に、好きな時でいいから。ねっ。お願い。」
「うん、分かったよっ。私らって、友達だよね?」
「うん…」
何か嫌な予感が……
「だったらさ、これ受け取ってくれない?友達になった記念として。」
「えっ、いいの?」
嫌な予感はあくまで予感なだけでした。
「うん、乃子のために作ったんだから!貰ってくれないと勿体ないよ!」
「ありがとう…」
「どういたしまして。あっ、もうそろそろ部活なんだっ!じゃねっ!手紙は私から送るからっ!」
手を振りながら去って行きました。
……さて、私も帰りますか。
ボディーガードを呼び寄せて車を呼ばせます。そして家路につきました。
#
はい?
ええ。
まだ文通はしていますし、友達ですよ。
失礼な。私だって友達は大切にしますよ。
まあ、友達認定したのは今までに数人ですが。
そんなことより?
ふざけないでくださります?
はい?
件のあれはどうなったって?
勿論返しましたよ、本人に。まあ、あれぐらいなら嫌がらせぐらいで済みますが、もっとひどかったらお仕置きしてましたよ。
お仕置きって何?
ふふ、受けますか?社会的にも精神的にも肉体的にも潰れますよ?やめた方が賢明ですね。貴方はどうします?
ほう、やめますか。
賢明ですね、妖精さん。
#
今日は終業式です。
街も何か浮き足立っています。
何てったって、クリスマスイブですから!
はい。恋人達の聖夜です。きっとホテルは一杯でしょう。
お久し振りです、竹村乃子です。
元気してましたか?
私はこんなに元気満タンです。
こんな聖夜になんと最後の一人がやって来ました。
迎え撃つ気は満々です。
さあ、It’s a show time!
◇◆◇◆◇◆
最後に来たのは磯野鯖人くん。
彼は顔の横の髪がかなり長い男の子。彼の祖母は皇族でしたそうです。
何でこの田舎中学校に凄い人が沢山いるのでしょう?
不思議です。
学校七不思議の一つとして、認定しようかしら……。
ところで、彼。
なかなかポイントは高いですよ。クリスマスイブを選択するなんて。
いまのところ、ダントツトップです。……条件に合うかはなぞですが。
「今、いいぃ?」
その傍若無人さもなかなかいいです。
うふふ。
でも、身の振り方を決めたくないのも事実です。
「もしぃ、君がよいのなら、受け取ってくれぇ。」
細長い箱を渡します。
箱を落とさないように開けると、中には……
箸?
持ちやすそうな漆塗りの角箸で上の方に竹と蝶々があしらわれています。
普段使いの箸。
こいつ、やるなっ!
「ごめんなさい。まだ自由の身でいたいので……。」
今回ばかりは相手に非はない。
「かっ、代わりと言ってはなんですが……」
逃げようとした鯖人君にこう言い放ちました。
「竹村財閥に忠誠を誓ってくれませんか…?」
目を合わせれないっ!
「つまり、竹村財閥に就職してくれとぅ?」
「これらはご自分でなさったのでしょう?」
「ん、どういう意味ぃ?」
「私へのこっ、告白計画は、自分で練ったのでしょう?」
「うん、まあぁ。」
これはウソでありません。
優秀な人材は引き抜かなくては。
「いつでもいいです。竹村財閥に就職してください。竹村財閥は貴方を受け止めます。」
「これは、ありがとうございます。」
即答されました。
「そのお礼にぃこれを受け取って下さいぃ。」
「あっ、ありがとうございます。」
「…ではまた。再び会いまみえるその日までぇ。」
ペコリとお辞儀をして去っていった。
うん。本当に惜しい人だった。
……今回の条件、厳しすぎたかなぁ。
そうして、乃子は5人の告白をすべて断った。
そして彼女は学校の中で孤立した。いや、孤高となったのだ。
こうした経緯があまりにも“竹取物語”に似ていたことからついたあだ名が――――
“竹村のかぐや姫”
誰が言い始めたかも分からないそんな名前は爆発的に広がって行くのであった。
#
まあ、こんなことがあったのです。
そう、ね。
まだ2ヶ月も経ってないけれど、私にとってはいい、思い出かな?
うん。
授業中ですからね。
うん。
じゃあね。
また、いつか――――
それから数時間が過ぎまして、国語の時間。
今日は川柳を学んでいます。川柳の先駆者は柄井川柳さんなんですって。
また、川柳のような短歌を狂歌と言うそうです。
なんだか、私みたいですね。――――狂花って。
まさしく、狂った花ですね、私。
あはっ。
あっ、そうだ。
一つ狂歌を思い付きました。
ノートに書いてにっこり微笑む私。
さて、私は何処へ向かうのでしょうか?