40 ☆ ーーγ δ
前話の復旧はテスト終了後、“魔導師は落ちこぼれ”が終わりしだい始めたいと思います。
〈前回のあらすじ〉
次の日。
朝、気持ちよく目覚めた僕達は、まず武器を買いに武器屋へ行った。
そして、50万ルナの“水属性の小剣”なるものを買った。いや、買って貰った。
アルサルが、チーム名を「そこのけそこのけ勇者が通る」にしようと言ったので、何でだよオイとツッコミをしたら、打ち所が悪くて血が出てきた。
ぺしぺしと叩いても反応なし。なので、前世界の常識通り人工呼吸をしたところ――――!
☆☆☆☆☆☆
えーっと、さあ。
公衆の面前で、剣の鞘でアルサルを殴り、熱烈なキッスをしたんだよ。
ああ。
だから、みんなは僕らが恋人だと勘違いしたんだ。
僕には、恋人がいるというのに。
空気が、ピリッとしている。
つーか、視線が痛い。
そして、アルサル!
嬉しそうな顔すんなっ!
「マキ、ありがとね。俺を認めてくれたんだね。」
「認めてねーし! そして、泣くなっ!」
抱きついて来ようとするアルサルの腹を蹴る。
「照れているんだね!? 大丈夫! 俺は何でも受け入れるよ!」
「ちょっ、止めろって! ここがどこかわかってんのかー!」
頬を殴っても、近づいてくる。
変態かっ! と言ったら、変態だ! と返ってきた。
もー、我慢できん。
剣を使おうか……と思ったら、向こうの方に転がっていた。
ちっ、使えねーな。
どうしよう、こいつ。
彼処とか此処とか其処とか触ってんですけど。
……魔法か。
ふょには頼めないもんな。
魔法と頭に浮かべると、使える魔法が目の前に浮かび上がってきた。
〈ファイア〉、〈ウォーター〉、〈ブリーズ〉、〈クレイ〉、だ。
〈クレイ〉ってなんだ?
〈ファイア〉……はパス。僕も燃える。
〈ブリーズ〉もどんな威力か分からない。もしかしたら、僕ごと飛ばされるかしれない。
……〈ウォーター〉しかないな。
すぅーーー、息を吸う。
あまり、濡れたくないので、思いっきり蹴って、
「〈ウォーター〉!!」
バッシャーンと、空から大量の水が降ってきた。
「ぶげらっ!」
と言いながら、水の直撃を受けている。
水の落下が終わったあと、立って辺りを見渡すと、水溜まりが直径10メートルに渡って広がっていた。
「ワオ……」
「何やってんだかー。びしょびしょだぞー。」
水の中から、アルサルが起き出してくる。
言っちゃ悪いが、ゾンビのよう。
「こんなとこでこんなことしちゃ、駄目だぞ。」
おでこを指で押した。
ああ。接近を許した、僕が悪かった。
「わ、わかってるよ!」
って、ててていうかさ、そろそろ視線がきついんだ。
「……ふむ。これが“つんでれ”と言うやつか?」
「違うわっ!」
おとぼけにも限度があるっつーの。
それから、抱きつくのはやめろ。
濡れるだろ!
「公衆の面前であんなことをする、君が悪いんだぞ?」
彼処とか其処とか触ってんですけど。
「止めれ!」
突き飛ばす。
泥々しい音をあげて、アルサルはしりもちをついた。
「…………。」
一瞬の静寂。
アルサルの顔が哀しそうに歪んでいるようにみえた。
「そうだね。じゃ、マキ。道具屋いこっか。急がなきゃいけないしな。」
なんだか、覇気のない声。
「で、でも……」
「ん? なんだい?」
ごめんなさいとか、痛くなかったかとか、言いたいことはたくさん有るけど、でも、それは何時でも言える。
し、またあんなことになったら、こっちが困る。
「これ、片付けなくて、いいの?」
大きな水溜まりは土を溶かし、泥水にする。
〈ファイア〉とか、……〈フレイム〉、〈フレア〉とかで、乾かせばいいんじゃないか?。
あれ、〈フレイム〉〈フレア〉は、さっきなかったのに?
何でだろ?
まあ、いっか。
「いいよ。そのままでいい。」
何故か――その声は冷たく聞こえた。
「お、怒ってる?」
「怒ってないよ?」
いんや、怒ってるな。
「僕、わかるもん。」
「知らんけど、早くいかなきゃ駄目だ! 速く!」
「後始末しなくても、いいの?」
「ああ。いくぞ!!」
「で、でもっ!!」
「ちっ。」
舌打ちをした。
「来たか。」
目線の方向に目を向けると、ムキムキマッチョなおじいさんが。
異様なまでにニッコリしていました。
「ちょっと、いいかの?」
目元は笑っても、口元は笑っていない。
背景に猛獣を背負っているように、威圧感がある。
「YesかNoか。」
背中にだらだらと汗が流れる。
こいつは、ヤバイ。
なんか、ヤバイ。
「は、はい……。」
声があったので振り返ってみると、アルサルも青ざめた顔で答えていた。
な、何で〜?
と言う顔をしてみたが、
お前のせいだろ、バカ。
と言う、厳しい顔をされた。
昔ー昔ー、浦島はー、助けた亀にー、連れられてー、竜宮城にー、行って見ればー、目ーにもかけない、美しさー。
僕は今、何処に向かっているのだろうかなー。
……逃げちゃ駄目?
◇◆◇◆◇◆
「で、君は何をしていたんだい?」
「…………。」
なんか、ムダに豪華なこの部屋。そして、持ってこられた紅茶っぽいのもおいしい。
で、僕はムキムキマッチョご老体ににらまれている。
「何で、街中で攻撃魔法を使ったんだ?」
いや、ここは街じゃないでしょうと言いたかった。が、
「…………。」
沈黙を保った。
ほら、沈黙は金なりって言うじゃな〜い? でも、悪い時もありますから〜!
残念!! と言う声とベーンという三味線(?)の音。
あっ、なんとか侍が出てきたー。
だからって、なんだ?
そもそも、何でここにきたんだっけ?
アルサルに水魔法で攻撃する前に、抱きつかれて、原因は人工呼吸で、それをした理由は、ツッコミをしたから。
じゃ何で、僕は、ツッコミをしたんだろ。
うー。
うーあー。
うーあーうー。
あれ?
覚えてないや。
何で、ツッコミしたんだっけ?
あー、わすれた。
何でだっけー?
理由を聞こうとしても、アルサルはガチガチに固まっていて、聞けそうにないしムキムキマッチョに聞くのは、 筋違いだ。
あー、ふょがおるわー。
ふょに聞こっと。
「ふょー、おいでー。」
僕の導きの石を握って、言った。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! ふょですよー。ご用件はなんでしょうか?」
僕は気がついていなかったが、ムキムキマッチョのおじいさんと|執事さん(空気)とアルサルはこちらに目を向けていたらしい。
「僕って何で、ツッコミしたんだっけ?」
ふょに聞いた。
「『俺らのパーティーを“そこのけそこのけ勇者が通る”と名前をつけよう』と言ったことでしょうか?」
頭の中で、ピースが全てはまったきがした。
「それだそれ! ねぇ、あなた! “そこのけそこのけ勇者が通る”なんて、駄目ですよね!」
ムキムキマッチョなおじいさんに指差しで尋ねた。
「いや、そんなことより。」
は? 断られるようなことではないですよね?
「それ、……いや彼女はピクシーかね?」
あっ、やっべぇ。
出しちゃったぜ。
やっは〜☆
「…………。」
ふょはどうします? といった視線をこっちに投げ掛けてくる。
「えーと、うーんと、」
アルサルは言うなよという顔をしている――――――ような気がする。
「……いえ、ピクシーじゃありません。」
言ってやった。
「これは僕の国の妖精です。見慣れない格好をしているでしょう?」
「ふむ、確かに……」
「これは、僕の国の妖精です。」
「……。」
「だからといってどうということではないんですよ。」
「……ワタシ!」
「「「はい?」」」
三人の声がハモった。
「ピクシーなんです!」
っおい!
「はい? じゃあ、そこの少年が嘘をついていたとでも?」
「はい。あ、っといっても、ワタシを守るためについた嘘ですから。」
「は、はい、わわ、わかりました……。」
「よろしいです。」
なんか、ふょが一人で問題解決しちゃったなぁ。
「ところで……。」
村長さんが口を開く。
「ハイ?」
僕はまだ何かあるのかと思って疑問系だ。
「私めに幸福を授けていただけませんか?」
僕は関係ないみたい。
「……ということは、この件はおがとめなしということですか?」
ふょが答える。わ、悪かったねぇ! 自意識過剰のおバカさんで悪かったね!
「そういうことです。」
「……わかりました。」
行きますよーと呟いたのが聞こえた。
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――!」
何かを叫んでいるのは聞こえた。
でも、全く何を言っていたのか、分からない。
そして、ムキムキマッチョなおじいさんがうっすらと光っていた。
「はい、終わりました。これでいつか必ず幸福が来ます。では、おいとましてよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんですとも。」
「さらに、注文をつけたいのですが、……この事は他言無用でお願いします。」
「もちろんです! もちろんですとも!」
富を独り占めする人ってこんなんなのかー。
……………………。
「じゃ、出ますよ。ワタシは石の中に戻ります。」
シュオンと音を出して消えた。
「では、玄関までお送りします。」
「貴様も、この事をいってはダメだ。」
アルサルが珍しく真面目な顔で言った。
「仰せの通りに。」
執事さんも、真面目そうな顔で返した。
「また機会がございましたら、ぜひお寄り下さいませ。」
建前を言っていた。
◇◆◇◆◇◆
外に出ると、陽射しが降り注ぎ、さわやかな風が流れていた。
……空は、まだ晴れていた。
『おとうさんおとうさん、それそこに
てすとのむすめがー』