29 ☆ ーーγ δ
1日過ぎてしまいましたが、ひな祭りを目標に書いたものです。
……ほんのちょぴっとだけですが…………。
語り部:姫野 亜弥
「ふぅー、ただーいまっと。」
家に帰りついた。
只今PM.11:07。
いつもよりは早く、日付が変わる前に帰ることができた。
休日出勤だし、明日もあるし……
あぁ、もう嫌になっちゃうわ!
何でこんなに働かなくちゃいけないの?同じ課長でも、橋本は全然してないのに!たまに、ゲームしてるのもみるしさ。
なんなのよ!
男女差別反対!男女平等当然!
女だからってね。
仕事をたくさん押し付けるのは、ダメなんだっつーの!
あー、もう!
疲れたっ!
この仕事をあいつにやらせたら、きっと終わらないだろうね!あたしの方が絶対優秀なんだからね!
ぐふふっ。
心の中で罵ると少し心がスッキリした。
◇◆◇◆◇◆
1LKのボロアパートに私は住んでいる。
家賃は言えないけど、安い方。
此処だけが安らぎの空間、そう言っても過言でない。
およ?
電話がチカチカ光ってる。
FAX機能もない電話の留守電のランプ。
あれ、珍しいなーーーー。
不安がふと、胸をよぎる。
今日って真輝、乃子ちゃん家行くって言ってたなぁ。
息子に彼女も出来て安泰だなぁと思う反面、何だかさみしい気もする。
何だろう。
留守電ボタンを押す。
“録音件数は十二件です。ピー……「あっ、もしもし竹村乃子です。あのっ、真輝君が井戸に落ちて意識不明の重体なのですが……この電話を聞いたら、すぐに折り返していただけませんか?よろしくお願いいたします。では。」プツッ、ザー…「もしもし、竹村です。また、折り返し電話します…」プツッ、ザー…――――――”
えっ、真輝が居ない?
何時もはまだ、起きているはず。
あたしの寝室兼真輝の寝室兼真輝の勉強部屋のドアをズバーン!と開ける。
……誰も、居なかった。
ってことは、あれは本当だったのね!
本当に……井戸に落ちた?
それから、竹村乃子。どっかで……聞いたことがある。何処だっけ…?乃子は真輝の彼女って聞いてて珍しいなっと思ってたけど…。竹村、竹村竹村……竹村自動車?
竹村自動車はいい車売ってるけど……
もしかして、あの竹村?
財閥の、あの竹村?
えっ?
ウソだよね。
嘘っぱちだよね。竹村姓なんてたくさんいるよねっ!
…………。
ふぅ。
落ち着こうか、あたし。
あっのバカ息子が竹村財閥の娘かもしれない彼女を残して自分は井戸に落ちて意識不明の重体?
アホじゃないのかしら。
きっと、これはブラフでお泊まりを誤魔化す言い訳ですね。ええ、きっとそうに違いありませんとも。
折り返せと言っていたし、折り返して差し上げようじゃあありませんか。普通は電話なんて掛けていい時間じゃありませんが。ラブラブタイムを邪魔するのにはもってこいでしょう?
服は脱がないまま、リダイヤル。
プルルルルルル、プルルルルルル、プルルルガチャ。「はい、もしもし。」
「夜分遅くに申し訳ありません。あの、真輝が意識不明の重体だって聞いたんですけど……」
「ああ、はい。そうです。えっと、竹村総合病院ってご存知ですか。」
良い腕の医者がたくさんいるって評判だね。
「ええ。」
「では、そこにすぐに来ていただけますか?ええっと、私ロビーにいますので。あっ、明日の方が良かったでしょうか?」
「うんん、ありがとうね。」
「いえ、大丈夫です。では、後程。」
――プッ、プーップーップーッ、プツッ
ほ、本物だわ……
竹村乃子……
竹村財閥の一人娘だったなんて……
真輝、何やらかしてんのよ!
玉の輿じゃない!
ふぅーう。
知らぬは親だけなりってよく言うよな……。
なっ!
とりあえず、病院行くか。
真輝の彼女はどんな子かな?
◇◆◇◆◇◆
「あっ、今晩は……」
ロビーには一人の少女が座っていた。
真輝の学校の女子の制服のセーラー服。
それに、長い髪を2つに束ねてあった。
顔立ちは美人。美少女という感じか? かわいい。
なのに、目は真っ赤になっていた。
寝るのが遅いから、ではないだろう。彼女はきっと、真輝を心配して泣いていたんだ。
自分の娘でもないのに何だか愛しい気持ちになってくる。
「あっ、ケホッ…こんばんは、亜弥さん…でしたか?」
「そうですけど…」
「初めまして、私、真輝くんの彼女となりました、竹村乃子と申します。以後、よろしくお願いします。」
立って、90度の最敬礼をした。
「あっ、これはご丁寧にありがとうございます。あたしは、真輝の母親です。出来たら、真輝の面倒を見てやってね?」
「あっ、はい!もちろんです!」
「…あのさ。」
「敬語は止めて欲しいなぁ。何か、他人行儀な感じがして。」
「あっ、はい!わかりま……いえ。わかっ…た?」
もしかして…タメ口に慣れてない?
「えっと、そんなことよりです…あっ、それより、まーくんの容体を見に来て下さい。」
……まーくん?
「えっと、今は、12階の一番奥に入院してるんです。こっちです。」
「……乃子ちゃんって。」
「はい?何ですか?」
「竹村財閥の娘さん?」
「そうですよ。まーくんから聞いたことがないですか?」
「いや、初耳だね。」
どーでもいいことだけど、敬語に戻ってるよ。
「そうですか…。…明日、お仕事ありますよね。」
「うーん、休んじゃおうかな?仮にも息子が入院した次の日に働かせるバカはいないだろうからね。真輝のお見舞い行ったあとは、体を休めて真輝の二の舞にならないようにしなくちゃだしね。」
「……そうですか……。では、こちらです。」
「ありがとうね。」
◇◆◇◆◇◆
ナースセンターみたいなところを乃子ちゃんは顔パスで通り、奥にあるエレベーターに乗った。
普通の来客用とは違い、キレイで豪華。
材質から違う感じ。
その間は会話がなかった。
少々気まずい空気が流れる。
エレベーターという名の動く空間は、ウィィィィィィィィインという音をたて、上昇していく。
どのくらい経ったか、12階のドアが開いた。
これまた豪華な、例えば廊下に赤絨毯が敷いてあるだとか、高そうな壺が飾ってあるだとか、まあ、言っちゃ悪いけど成金趣味みたいな廊下。
少なくとも病院ではない。ナニコレ珍百景に投稿しても、信じてもらえないんじゃないか…?
「……すいません、父が豪華なものが好きなものですから。恥ずかしいです。」
「あっ、ごごめんね!」
顔が真っ赤になっていた。
可愛いなぁ。
もし、あたしが結婚してて、もう一人産んでたらこんな可愛い娘がいたかもしれないと思うと心が綻ぶ。
かわいらしい、少女。
青臭い、青春。
何故、こんなことが起こったのか。
仲を引き裂くこの事故は――――。
「こちらですよ。」
それは、病院らしく引き戸だった。
開くと、中は白い部屋。
真っ白で真っ白な白い部屋。
普通の、病室。
さっきの廊下と比べたら。
いつもと同じように真輝が横たわっている。
安らかそうな寝顔。
でも、頭には白いあみあみのネットが、腕には管がついている。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッと心拍計が鳴っている。
変わり果てた息子の姿。
もしかしたら、もう起き上がらないかもしれないという濃い不安。
ポロッ
ポロポロッ
涙か、泪か。
もうナミダはあの人に捨てられたときに枯れたはずなのに。
化粧で隠された顔いっぱいにナミダが溢れ出す。
………乃子ちゃんも泣いてる。
やっぱり悲しいよね。
うん。
「あっ、失礼します!」
泣き顔を覗き込んでら、逃げられた。
…………。
――真輝。
意識のない息子の頬に触れる。
女の子も嫉妬しそうなすべすべで白い肌。
頑張って女手一人で育てた息子。
何故、
あたしを置いて逝くつもり?
彼も息子も居なくなったら、どうすればいいの?
いいの?
どうすればいいの?
未だ目を覚まさない真輝にすがり付いて泣く。
クゥーーー
ドアを開ける音が聞こえた。
そこには、さっき出ていった乃子ちゃんがいた。
「拭いて下さい……。」
綺麗なハンカチが手渡された。
あたしは頬はびしょびしょに濡れていたことに気がついた。
「……ありがとう。」
とハンカチを受け取り、拭った。
「あのですね、お義母さん。」
手に提げていた何かを胸の前に持ち上げた。
それは――、
「悲しいときほど笑わなきゃ。まーくんもそんなことは望んでませんから。」
泣きはらしたであろう赤い目を無理矢理笑わせていた。
「うん、そうだね…。」
「……これ、まーくんと遊園地に行ったとき、買ったやつなんです。」
それは――、
それは、浦安の夢の国のネズミの女の子の耳のカチューシャ。
いつ、行ったの?
と思う反面、上手くいってたみたいだなと思ってほっとする。
それを真輝の頭に着けた。
チュッ
そして…キスした。
「大丈夫。私が守ってあげるから。助けてあげるから。だからね、早く戻って来てね。」
泣くなとあたしにいったのに、ホロホロ涙を流している。
わかるよ。
本当に、わかる。
「…じゃあね、乃子ちゃん。また、明日。」
病室から出た。
病室からは、乃子ちゃんの泣きじゃくる声が聞こえる。
……言っとくけど、真輝。
さっさと帰って来なさいよ。帰って来なかったら承知しないんだから。
……あたしは、車を運転して帰った。
そして……
声を出して泣いた。
キーワードは、語り部が女・|結婚(離婚)・耳……です。
耳は、3月3日だからです。
どうでしたか?
あと、2回で第二章が終わります。
そろそろ、ストックがないので一週間に毎に投稿させていただくようになるかと思います。
そして、次章はやっとこさ冒険がはじまります。
さらに、ひとつ変更点があります。
今回、姫野(母)は竹村乃子の名字を知らない設定だったのに、以前ではもう知っていると言うことになっていました。
変更する力がないので、下の文をもって変更そさせていただきます。
煮込み:あのー、今回矛盾があったということですがー……
姫野母:こうなのよー。最近、記憶力が悪くてねぇ。何でもすぐ忘れちゃうっていうか。
煮込み:と、いうことはあなたが全て悪いんですね?
姫野母:何言ってんの? あんたが裏付けしなかったから、こうなったんでしょ?
煮込み:はい、その通りです。
姫野母:じゃあ、読者様に謝りなさい?
煮込み:申し訳ございませんでした! m(_ _)m
姫野母:よろしい。
煮&姫:ありがとうございましたー!!