20 ☆ ーβ γ δ
語り部:竹村 乃子
PM.2:01
遅いなぁ、まーくん。
もう二時を一分をも過ぎちゃったよ?
大丈夫かなぁ?
そうだ!まーくんを迎えに行ってあげよう!
入れ違いにはならないだろうしねっ!
かわいらしい上品なお洒落着をつけて砂利道をサクサク歩いて行きます。
今日初めてまーくんに私服を見せるから、少し頑張っちゃった。えへっ。
まーくんに早く会いたいなぁ。
「あれ?乃子じゃないか。」
「? お父様?」
「ああ。何をしてるんだ?」
「えっ…ちょっと……」
「まあ、あらかたまーくんとやらを迎えに行くつもりなんだろう?まあ、ワシも同じだが。」
「そうなんですか。」
「乃子、姫野真輝はやめといた方がいいぞ?約束の時間にも遅れてくる、悪い奴だぞ?」
「まーくんのことを何にも知らないお父様は黙っていて下さい。」
「? よーく知ってるぞ。最近のことでいえば、この前の金曜日真輝君に髪を結ってもらったそうじゃないか。統計からいうと、付き合ってる女の子の髪を触る男はもうキスは済んでいるって話だぞ?ワシはお前をそんな淫乱に育てた覚えはないぞ。お前を誘拐しようとした男のどこがいいんだ?」
サクサクサク
「うっ…どこでもいいでしょ!」
「良くない。それは多分吊り橋効果って言うやつだぞ?恐怖のドキドキがときめきのドキドキと脳みそが勘違いするってヤツ。」
「ちっ、違うのっ!」
「じゃあ、お前はあの男のどこが好きなんだ?」
「………もっ門、ぁぁぁ開けるねっ。」
「…………。」
はぁーー。という溜め息が返って来た。
また、呆れさせちゃったみたい。
でも、まーくんのためだったらいいの。
まーくんと私は運命の赤い糸で結ばれているから。
そんなことを考えながら、門を開いた。
ギィィィィイという音を響かせながら門は開く。
と共に真輝も倒れてきた。
「!??」
全く分からなかった。
◇◆◇◆◇◆
「あなたたち、誰ですか?」
真輝は、そう言った。
私はとても悲しくなった。
だって、愛しい人に忘れられてしまったのだから。
涙が少し溢れそうになる。
「……乃子の名前も覚えていないのかい?そんな奴には乃子をあげられないなぁ。」
お父様が意地悪なことを言った。
きっと、嘘だよね。
「まーくん、大丈夫?」
「あなた、誰ですか…?ここはどこですか?」
「………。」
本当に、本当に私のことを忘れてしまったのですか?
「ワシは世界の竹村財閥の会長だが?ここはワシの家だ。」
「おっ、お父様…!」
な、なんて意地悪なことを……!!
「そ、そんな畏れ多いところにいるなんてっ!あっ、ありがとうございましたっ!さささようならっ!」
ダッシュで門から出て、右に曲がっていった。
「おっ、お父様!」
「何だ、乃子?」
「何で挑発するようなことを言ったんですかっ?」
「これでや――」
「私はまーくんを追います。レベル2を発動させます。良いですか?」
「ああ…」
「わかりました。」
首に提げていたチェーンを取り出す。その先には笛がついていた。
ヒュィィィィィィッピッ!
白銀の笛が鳴る。
ダダダダダダダダダダダッ!
黒服の執事が現れた。
「お嬢様、何事でしょう?」
「人探しよ。レベルは2。なるべく速く御願い。探す人は…」
「姫野真輝、ですか?」
「そうよ。」
「わかりました。あの、旦那様……」
「……乃子の言う通りにしろ。」
「はい、かしこまりました。」
「見つけたら、私に連絡して頂戴。携帯にね。車をまわしてくれると嬉しいんだけど…」
「かしこまりました。」
「よろしくね。」
With にこっと悩殺スマイル!
「よっ、喜んでー!」
再び駆けて行った。
「乃子、何であんな男に執着するんだ?」
「ぅ~っ…ほ、惚れたからよぉ!」
「掘れた?温泉でもみつけたのか??」
「違うのっ!」
「そうか…」
我が子もすっかり変わってしまったなあと思う。
ワシの言うことに従う良い子じゃあなくなってしまったけれど、それでもまだまだ愛しい我が子。
「惚れた弱味を持たれないようにな…」
その声は「姫野真輝が見つかりましたっ!」と言う声に掻き消された。
ふっ……と彼は乾いた笑みを浅黒い顔に浮かべた。