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歌声喫茶『やまびこ』  作者: あんたのわたし


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歌声喫茶『やまびこ』

小説は


なろうの世界


こころの温泉


癒しと


くつろぎの里へ


ようこそ




by


あんたよわたし



道でその女性に会った。その女性とは、初対面では無かった。男は、そう思った。それは、間違いではなかった。男は、女性の様子を見てわかった。


その女性に会ったとき、男は、手にマッチボックスを持ち、新宿歌舞伎町を一晩歩き回っていた。とある店、歌声喫茶『やまびこ』を探していたのだ。ずいぶん歩き回っていたのに、男はその店の少しの手がかりも発見できないでいた。


「ホッ」と、その女性を見かけた時に男は思った。


この街には、人が溢れていて、何度か顔を合わせていても、顔を合わせたことを覚えていることなんてほとんどなかった。おとこは、その女性をみて安堵の気持ちを覚えた。しかし、男はこの女性に対して違和感も覚えた。


「歌声にひかれてここにたどり着いたのですよ」


不思議なことを言う女性だと、男は思った。その女性は、男にとって見覚えのある女性であった。しかし、男はその女性を探して、新宿歌舞伎町を歩き回っていたのではなかった。


さらに、男は自分が何かの歌声が聴こえていたわけでわなかった。


それなのに、この女性は、何かの歌声に導かれて、男が彼女のところにやって来たというようなことを言ったのだ。


俺は、自分が何か彼女の誤解や思い違いを正す必要があると感じた。しかし、そのための言葉が見つからず。男は、気まずい思いをして黙り込んだままの状態だった。それは、確かだった。


思い余った男は、彼女に、マッチボックスを差し出してみせた。男の振る舞いは唐突だったので、その女性は、少し驚いた。


「……」


男は、マッチボックスを取り出したまま、引っ込めることもせずにその場に立ち尽くしていた。もちろん、男は、黙りこくったままだった。


男のマッチボックスには、歌声喫茶「やまびこ」と文字が印刷されていた。しかし、「やまびこ」というようような歌声喫茶は、男は、新宿歌舞伎町においてだれにきいても、どこを探しても見つけることはできなかった。


住所など、電話番号などの情報はこのマッチボックスには書かれていなかった。書かれていたのは、歌声喫茶「やまびこ」という屋号だけであった。



       *       *  



男が彼女と出くわす少し前のことであった。


この町で、早朝、ゴミとして出される残飯を目当てに姿を表すネズミたちがいた。



その生ゴミあさりのネズミの中の一匹のネズミがマンホールのふたに、しっぽが挟まって身動きできなくなっていた。


ネズミの尻尾は、根本のけっこう太いところでマンホールのフタに挟まっていたので、ネズミは、尻尾が切れてもマンホールのフタから自由になりたかったのだが、それがどうにもうまくいかなかった。


ネズミは、立ち往生してしまった。


ネズミの騒ぎを聞きつけたのか、人間たちが、いつの間にかネズミのまわりを取り囲んでいた。


そして、その中の一人が、ガタイの良い若い男が身動きのできないネズミのところによって来た。


ネズミは、顔を上げるとその男の目を見つめた。


それを_一思ひとおいに殺してしまおうと思ってるようだ。ネズミは感じた。それを、命乞いした。


この街では、ネズミは嫌われものでネズミの命は、全くの無価値なもので、身動きのできないネズミは、誰か人間が踏み潰しても何の罪でもないし、何の問題もなかった。


       *       *  


「あんたは、このマッチボックスの店を探しているのね」


自分の前にいる女性は、一言も言葉をかわさずに、男の心を読んだのには驚いた。


       *       *  


「このマッチボックスには、住所も電話番号もないんです。だから、どうやってこの店にたどり着けるのかまったく分からないのです」


男にとっての難問はとるにたらないものであるかのように、この女性は取り扱った。女性は、大弱りの男を、微笑ましく笑った。


「普通じゃ分からないよ。その歌声喫茶『やまびこ』という店は、とてつもなく回り道をして、やっとたどり着けるような店なんだよ。ぽっとこの町にやってきたくらいのやつには、一年探しても見つからないような時があるそんな店なんだよ」


「……」


「そこの店にたどり着く方法を今から教えてあげるから、しっかり聞くんだよ。これは、特別、あんたが私の家族を助けてくれたから」


「……」


「まず、そのマッチボックスの中のマッチを擦ってみなさいよ。どうだい、音楽が聴こえてこないかい? 誰かが歌っているだろう。みんなで歌っているだろう。その歌声を頼りにして、探していけば、あんたが探している、歌声喫茶「やまびこ」にたどり着けるはずだよ。マッチの火が消えたら、「やまびこ」のみんなの歌声は聞こえなくなってしまう。そしたら、マッチボックスの新しいマッチを取り出して、擦って火をつけるんだ。そしたら、また歌声が聴こえてくる。そう、マッチをりつづけて、歌声喫茶「やまびこ」から聴こえてくる歌を追って行けば、やがては、歌声喫茶『やまびこ』にたどり着けるはずさ。ただ、歌声喫茶『やまびこ』でどんな運命があんたを待ち受けているか。あんたの覚悟はたしかかい」


男は、うなづくと、火のついたマッチを風から守り、聴こえてくる人々の歌声を頼りに歌声喫茶『やまびこ』への道をすすんでいった。


     *      *


女性は、男が見えなくなるまで、男のことを見送っていた。


ところで、その女性のそばにはネズミがいた。そのネズミ、尻尾を怪我しているらしく、そのネズミの尻尾には包帯がまかれていた。


「人が望んで、好き好んでゾンビになろうとか、訳がわからん世の中じゃのう」


ネズミが話した。


「人は、世の中のしがらみから逃れるために、進んでゾンビになっていく人間も少なくはないんだよ。そんな世の中だから、かえってそんな人間を歌声喫茶『やまびこ』から、取り戻そうとする恋人も」








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― 新着の感想 ―
歌舞伎町の怖さ胡散臭さを感じます。 少し気になったのが、『ともしび』だったり『やまびこ』だったり。 特に『ともしび』は実在する歌声喫茶なので変更をお勧めします。
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