第1話:魔法使いの東京ゲームショウ
TOMOは、YUKIたちよりも少し早く地球に戻ってゲーム会社を立ち上げていた。
異世界のギルド職員で勇者パーティによく尽くしてくれた人間属のBRISEを秘書として
一緒に行動していた。こちらの世界には身寄りがいないBRISEは、TOMOと寝食を共に
していたので、秘書というより共同経営者かつ姉妹といったニュアンスのほうが
しっくりくるかもしれないといった関係性だった。
TOMOは自らが異世界で体験したことをそのままゲームにして販売し、それまでの
異世界ゲームでは、大手メーカーが作ったオンラインゲーム「ドラゴン&エルフ」通称D&Eが
長らくの間ナンバーワンの座を揺るぎないものとしていたのだったが、TOMOは異世界と
地球の100倍の時間差を利用して、1年もしない内に、「勇者SEIと賢者とその仲間たち」
通称<SEI&>というゲームを作り上げて販売し、オンラインゲーム部門でナンバーワンの座を
奪い取ったのだった。ゲーム制作過程では、YUKIやIGLEEからもBRISEがみっちりとヒアリングを
行って、よりリアルな物に仕上げることができた。その登場人物はもちろん自分たちの
勇者パーティがメインキャラクターだった。ゲーム制作に当たって仲間たちの許可は
取っていた、勇者以外は、ではあったが。。。
会社の規模も瞬く間に大きくなって、現在では、大阪の電気街日本橋の近くに12階建ての
ビルを一棟所有し、本社ビルとして使用していた。TOMOは代表取締役社長として、
会社経営を十分に遂行できていた。
社長直属の経営企画室として秘書課、法務課、広報課が置かれており、社長のスケジュール
管理やら特許関係や法令関係や広告宣伝などの会社の胆となる部分は社長直属にしていた。
またゲーム開発部門担当役員には大手の対抗会社のオンラインゲームのイベント
「ドラゴン&エルフ」通称D&Eのゲーム大会で昔からTOMOとコスプレ仲間だった田無君を
誘ってゲーム開発部を任せることにしていた。ゲームの知識に関してはTOMOと並ぶ物を
持っていたし、元々小さなゲーム会社で課長をやっていたので適任だとされたのだった。
本人も肩書では課長から役員へ大出世だったので、TOMO社長への恩を返そうと必死で
働いてくれている様だった。
管理部門担当役員として人事、総務、経理部門を任せることにしたのは、まだ会社設立前の
頃に、とあるインキュベーション会社の研修会のようなものに参加した際に、そのイベントの
主催会社の社長の追浜氏とTOMOがたいへん仲良しになったので、そのままTOMOがスカウト
してしまった会社設立のプロだった。しばらくはインキュベーターとしての仕事とTOMOの
会社の両方を兼任していたのだったが、今では自分の会社を清算してしまって、TOMOの会社
<SEI&>で大人しく役員をやってくれていた。会社名を提案したのも実は追浜氏で、TOMO
より少し年上の美形の女性で、さすがは大手広告代理店出身のビジネスウーマンだった。
アミューズメント施設部門の担当役員には、いつもD&Eのイベントでお世話になっていた
大手ゲーム会社の横須賀店の店長の馬堀氏に声をかけてみたところ、既に店長自身も
プライベートで遊ぶゲームをD&EからSEI&に乗り換えたとのことで意気投合し、
転職してきてくれるとのことだった。その面接のようなもので元店長が熱く語ってくれたのは、
プライズゲームは賭博だからダメだ、胴元が儲けるよりお客様が喜ぶ原価率設定が必須だと
いう極端な思想を持っていたのが面白かったのと、早くオンラインゲーム<SEI&>を
コンシューマーからアーケードに移植してお客様を集めたいということを熱弁していたのだった。
馬堀氏も若くして大手ゲームメーカーの直営店の店長に抜擢されただけのことはあって、
一般常識を備えていたし、英語も堪能だったので、米兵のお客様の対応なども問題なくこなし、
特にD&Eのコスプレイベントには海外からのコスプレイヤーを誘致するなどの手腕で高評価を
得られていたからだった。
「田無君、うちのブース大盛況だね。」とゲーム会社SEI&社長のTOMOは今日、
東京ゲームショウの視察に秘書のBRISEと一緒に来ていた。
「社長、ありがとうございます。管理部門の追浜さんが人や資材の手配して頂いたことや
アミューメント部門の馬堀さんが世界中のプロのコスプレイヤーを手配して下さったことが
大きいですね。」
と役員の田無は他部門の協力で全社一丸となっての勝因であることをアピールした。
「それは良かったわ。あら、うちのスタッフたちはどうかしら?」とTOMOは役員の田無に
おどけた様子で質問をした。
「も、もちろんです。異世界にはなくてはならない人たちですから。言うまでもありません。」
と大事なことを言い忘れていたことをTOMOに思い出させられたことで少し冷や汗をかいた
役員の田無だった。というのも、社長直属の経営企画室には広報課があって、販促や広報を
担当している本物の異世界人の部署があり、イベントでは一番の売りとなっているからであった。
もちろん役員たち以外の社員には本物の異世界人であることは教えておらず、秘書課と広報課と
役員たちだけの極秘であった。
「本当に、コスプレイヤーの質、量共に会場ナンバー1なのは誰が見ても明らかでしょう。
カメラのフラッシュだけでもうちのブースが会場一光ってるのが目立ってますから。」
と役員の田無は誇らしげに笑っていた。
東京ゲームショウは毎年毎年鮮やかな装飾、衣装、コスプレーヤー、もちろん新作ゲーム
発表などで盛り上がっていた。あちこちでカメラのフラッシュが炊かれていたり、ビジネスと
しての名刺交換が行われていたり、イベントが行われている光景が煌びやかだった。
「さあて、皆さま、本日はオンラインゲームSEI&のイベントに集まって頂きまして、
誠にありがとうございます。」と株式会社SEI&のブースで司会者を努めていた
アミューメント施設部門担当役員の馬堀氏が壇上に設けられたイベントの舞台から
絶好調のアナウンスを始めた。
「わー、ヒュー、ぱちぱちぱち」観客のそれぞれが思い思いの方法で司会者に声援を送った。
会場は盛り上がりを見せているようだった。役員の馬堀氏は、さすがに長年のアミューズメント
施設での司会経験の持ち主であり落ち着いて任せられるオーラを放っていた。
「では本日のイベントに先立ちまして、スペシャル、スーペーシャールーなゲストをお呼びして
おります。」と役員の馬堀氏は少しお道化た口調で話し始めた。TOMOもイベントの内容は
聞かされていなかったし、観客も手元に配られたパンフレットにはゲストのことは載せて
いなかったので、誰が来るのだろうと、みんなワクワクして様子を見ていた。
「はい、では、本日の特別ゲストは、」
「大魔導士TOMOさんですー。」と言うと、司会者の裏返した手が、会場の後ろに居たTOMOの方を
指示したので、大道具担当の社員が壇上にあったスポットライトを上手く操って、一筋の光を
TOMOに向けて照らしたのだった。
「ヒューヒュー、キャーキャー、ぱちぱちぱちぱち。」それを見て会場は大盛り上がりとなった。
「あいつ、後でお叱りだな。」とTOMOは、ニコリとBRISEに目配せをすると、観念した様子で
壇上に誘導するスタッフに従って舞台に登って行った。マイクの前に立ったTOMOを見て、
観客たちのボルテージは最高潮になった。
「はい、みなさま、只今ご紹介に預かりました大魔導士TOMOです。ってか、それ他社のキャラ
ですから。馬堀さん、後でちゃんと他社様に謝っておいてくださいよ。」と言ったので、
観客は大爆笑となった。オンラインゲームSEI&のプレイヤーは99パーセント、他社のゲーム
D&Eからの乗り換え組だったし、コスプレーヤー仲間以外でも、ここの社長がD&Eの有名な
プレイヤー大魔導士TOMOであったことは知らない者は居なかったので、馬堀氏のおそらく
突然の演出は大成功であった。
「では、少しまじめに、私が株式会社SEI&の代表取締役社長の相崎知美と申します。」
と堅苦しい感じで挨拶をした。しかし観客はまだ爆笑の渦の中から抜け出せない様子で、
「そんなこと知ってるよー、TOMO、TOMO、TOMO」と大合唱が起こって収拾がつかなくなったので、
TOMOは、近くにいたコスプレイヤーから魔法士の杖と帽子をジェスチャで拝借させてもらって、
「ウオーター、レイン。」と魔法を唱えて会場に少し雨を降らせた。
すると、会場は一瞬で静かになった。
「あ、ごめんなさい、みなさん、少し水の演出がやりすぎだったみたいでしたね、ごめんなさい、
あとで馬堀さんに注意しておきますから。」
とTOMOは意地悪気に馬堀氏の方を見て、してやったりの顔をした。
馬堀氏は、TOMOを壇上に呼んだのはその時、たまたま社長を見つけたので遊び心で壇上に
呼んだだけだったので、もちろんシャワーの準備などして居なかったので、開いた口が塞がら
なかった。もちろん、あとでBRISEからみっちりと説教されたのは、本当に水魔法を会場に
ぶち込んだTOMOだった。
「では、皆さま、本日のSEI&イベント楽しんで下さいねー、馬堀さーん、バトンを返しますね。」
と本筋のオンラインゲームイベントへと流れをお返しすることができたのだった。
オンラインゲームイベントでは、普段自分たちが育てているキャラを使用して、イベント用に
開発されたステージでの獲得POINTで優劣を競い合うものだった。もちろん賞金が準備されて
いたのもあったが、ほとんどのプレイヤーたちが目当てにしていたのは、その副賞だった。
全国の予選を勝ち抜いた30名がこの会場での決勝戦に招待されていたのであったが、
優勝者には
賞金1000万円と副賞として異世界カフェにて異世界体験コースにLP3で参加、
準優勝者には
賞金500万円と副賞として異世界カフェにて異世界体験コースにLP2で参加、
準準優勝者には
賞金100万円と副賞として異世界カフェにて異世界体験コースにLP1で参加、
上位10位までの者には賞金は出なかったが、
異世界カフェにて異世界体験コースにLP1で参加できる権利がもらえるのだった。
LPとはLIFE POINTの略で要するに0になると死んでしまう残基のことであった。
LP0になるとその時点でGAME OVERとなり、地球に強制送還される特殊な仕組みに
なっているゲームとして運用していたので、異世界で本当に死ぬようなことはなかった。
異世界オタクの間では、異世界カフェは聖地みたいな物だったし、その仕組みは分から
なかったがバーチャルゲーム的な何か技術で本当に異世界に行ったような体験ができる
裏メニューが存在することは、暗黙の了解、もしくは公然の秘密のような扱いであった。
ゲームイベント中も大勢のコスプレイヤーたちがイベント会場を盛り上げた。
TOMOとBRISEはその様子を見届けると、他のゲーム会社のブースへ移動して、いろいろと
見て回ることにした。特に最近ではコンシューマーゲームよりもスマートフォンで遊ぶ
お手軽なゲームの数が多く出品されていたり、多国のゲーム会社が出展していたりと、
ゲーム会社もいろいろと工夫が見られるようで、TOMOたちも自身の会社方針への参考に
大いにすることができた。十分に知識と見聞を広めた後に、自分たちの仕事へ戻ったのだった。




