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第7話

「知っとるかね? 最近あちこちの飲食店で、外に漏れる匂いが強くなっているという噂」


「魔術師ギルドの長が、飲食店の匂いにどうしたと? 好物でも増えたのかね?」


「職人ギルドの長ともあろう者が、そんな短絡的な考えでどうする。重要なのは『なぜ匂いが強まったか』という、その機序ではないか」


「分かっているとも。まったく、冗談の通じないジジイだ。

 で? 何を言いたい?」


「ジジイはお互い様じゃ。

 店内の匂いを外へ出すようにした、何らかの原因があるのは確実だろう。

 そういう魔道具を作ろうと思えば作れるはずだが、ギルド所属の魔術師たちがそんな魔道具を作ったという話は聞いておらん。

 ならば魔道具ではない、普通の道具によるものか? だとしたら、職人ギルドの長が知らん道理はあるまい。さっさと白状するがいい」


「あいにく、知らんな。

 というより、こっちはこっちで、てっきり魔道具だと思っていたが、本当に知らんのか?」


「知らん。

 ……ちと調べてみなくてはならんようじゃな」



 ◇



「……という話が、王都にあってな」


「匂いを移動させる道具、ですか。

 それがあれば、革製品の工房やらゴミ処理施設やらの悪臭が来ないようにできるのでは?」


「悪臭など、もともと来ないだろう?

 そうした施設とは距離をとっているからな」


「父上はお役目柄しょっちゅう外出なさるから、ご存じないのでしょう。

 日によって……風向きが悪いときは、臭ってきますよ?」


「バカな。そのあたりは十分に計算して都市開発を進めてきたはずだ」


「風向きなど自然現象ですから、計算が狂うこともあるでしょう。

 それに、想定以上に発展してしまったのかもしれません。悪臭は、集まると強くなりますから」


「御しきれなかった私が悪いと言いたいのか」


「さもありなん。父上の優秀さは、父上自身にも御しきれないという事です。

 だからこそ、その才能は息子の私にも受け継がれた。ただまあ、いくらか能力的に劣る私のほうが、己の実力を御しきれるという意味では父上より上かもしれません」


「ふん……そういう事にしておいてやろう。

 とにかく、その道具の出処をつきとめるのだ」


「お任せください」



 ◇



「ポッター、今大丈夫か?」


「やあ、ハンター。また追加の注文?」


「ああ。ミストランサーを仕留めるには、やはりあの矢が一番だ」


「クオーツを砕いて練り込んだ粘土で作る鏃……結果、風魔法を宿す魔法の矢になる。

 とんでもない事を考えるもんだよ、あのフリンジって奴は」


「それを開発しろと言い出したクイント様も、とんでもない人だ。畑違いの事だろうに、なんでそういう発想が出てくるのかね?」


「いずれにせよ、このクオーツタウンは第三の転換点を迎えている」


「「エルダー」」


「第一の転換点は、採石場ができたこと。町は発展していった。

 第二の転換点は、毒霧が噴き出したこと。町は衰退していった。

 そして第三の転換点は、クイント様が来たこと。町は復興しつつある」


「違いない。

 で? わざわざウチまで何の用なの? お茶飲みに来たのなら悪いけど、ちょうど今ハンターから注文を受けたところだから」


「ネメシスが来た。

 何か売り買いするものがあればと思って、知らせに来ただけじゃよ。儂のような年寄りは、どうせ暇だからな。

 周りの役に立ちつつ、歩き回って己の健康維持にも役立つ。使い走りなどと侮ってはおれぬよ」


「あいつもそろそろ店を持てばいいのに」


「だよなあ。どうせ建物は余ってんだから」


「使う人がおらねば、傷みも早まるでの」


 よし、みんなで説得に行くか。

 と3人はネメシスが居るだろう広場へ向かった。



 ◇



 ギシギシ……ズズズ………。

 重そうな軋みを上げて、大きな木戸が開いた。

 かつて商店だった建物だ。

 店舗スペースの使い道がないとか、寝室やキッチンがないとか、住宅として使うには都合が悪いので、今は誰も使っていない。


「どうかな、ネメシス?」


「悪くないね。掃除と多少の手入れは必要だけど、十分だ。十分すぎる。今のあたしが持つには大きすぎる店だよ」


「すぐに見合うようになるさ」


「クイント様に言われると、夢物語とも思えないね。実際もうけは右肩上がりだし」


「そうでなくては困るよ。

 ネメシスの活躍でクオーツタウンは発展してきている。

 ネメシスが右肩上がりでなくては、クオーツタウンも右肩上がりにならない」


 この町には、ネメシス以外の商人が来ない。外部とつながる生命線だ。

 寂れた田舎町に商売の旨味があろうはずもなく、アンダーグラウンドな販路を持っているらしいネメシスだからこそ、大口の取引先を得られない代わりに小口の取引先をたくさん回る形でクオーツタウンにも来てくれる。

 だがネメシスは僕を盟主と認めた。どんな事情があるか知らないが、どうやら僕が実家から捨てられたことに関係するらしい。貴族に泣かされて恨みに思っている口だろうか。残酷だが珍しくない話だ。

 ともあれ、僕らクオーツタウンとネメシスは、共存関係にある両輪だ。一方が大きくなれば他方も大きく育つ。養分を分け合って育つ関係にある。どっちからどっちへの影響を期待して、という意味では双方向だ。せいぜい大きくなってもらおう。


「順調だね。何もかも」


「好事魔多し……そんな時こそ悪いことが起きるものだ。

 ネメシスがばら撒いた『黄金』が、そろそろ見つかる頃だろう。

 クオーツタウンはこれから、外部との戦いを始めることになる」

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