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第6話

「簡単な話だ」


 フリンジは、そう言って二つの瓶を取り出した。

 一方は無色透明。中身は茶色の液体だ。おそらくウイスキーだろう。

 もう一方は茶色。中身が液体なのは分かるが、色は分からない。正体も不明だ。


「クオーツの用途のひとつ、ガラスだ。

 透明なほうが高純度だが、酒を入れるなら純度に劣る茶色の瓶がいい。風味が劣化するのを防げるからな」


 日光が当たると風味が劣化する。

 それでも透明な酒瓶があるのは、中身の色を見せるほうが魅力的な商品に見えるからだ。

 管理が難しくなるので、安酒ではやらない手法である。


「純度が低いなんてのは、どうでもいい事なのだよ。

 大事なのは『何に使うか』だ。

 低純度のクオーツを高く売るには、高く売れる『使い道』を開発すればいい」


「分かりやすい話だが、そこが一番難しいのでは?」


「まさにそこ! 私の理論はその基礎研究となる部分なのだ! クオーツは『不純物が何か』に応じて、適した魔法属性が異なる! 具体的にどんな不純物によって何の属性に適するか、というのが私の理論の全容なのだ!」


「お、おう……」


「……ごほん、失礼。ちょっと興奮してしまった。まともに話を聞いてくれる人は貴重でね」


「なんて悲しい話なんだ」


「うぐ……し、しかしまあ、学者でも研究者でもない者に、これ以上詳しい話は退屈だろう。

 てことで結論だが、調べてみたところ、ここクオーツタウンで採れるクオーツは、風属性に適している。そしてクイントさん、君にはちょうど作りたい『風の魔道具』があるじゃあないかね」


「そうだな。

 ちょうど風の流れを人工的に整える魔道具がほしいと思っているところだ」


「それだよ。それが重要だ。

 どこまで出来るか挑戦するような場合を除けば、発明の最も重要なことは『どういう困りごとを解決するか』というターゲティングだよ。

 多機能なだけの『全部盛り』は商業的に失敗するから、開発する価値がないし、研究費をペイできないから後が続かない。

 しかし君はすでにターゲティングを完了している」


「しかし作る技術がない」


「任せておきたまえ。

 何のために私が来たと思っているんだね」


「なるほど。ちょうどいい実験課題だと」


「そうとも。

 威力が不要で、精密さが重要。しかも成功すればそのまま実用化できる。

 最初の実験課題としては、まさに理想的だよ」



 ◇



「てことで、作ってみた。

 さっそく実験してみようじゃないかね」


「早いな」


「天才だからね」


「自分で言う……まあいい。試してみよう」


 ちょうど毒霧が薄く流れてきている日だ。

 ミストランサーが寄ってくるには霧が薄すぎるが、空気の流れを可視化するには十分という絶好の実験日和である。


「よし始めるぞ。スイッチオン」


 魔道具が起動すると、周囲の霧が一定の方向へ流れ始めた。

 単純に空気を押し出しているだけではない。流れを整えて乱れないようにしている。

 そのため、流れた先にある空気とぶつかってブロッコリーみたいに広がることがなく、長ネギみたいにまっすぐ流れて少しずつ広がっていく。


「大成功じゃないかね?」


「大成功だな」


「ふはははは! やはり天才」


「言わせといてやろう。

 しかし低純度のクオーツでこれほどの効果があるとは……」


「低純度だからこそ、だよ。風属性以外の魔力は、不純物にフィルタリングされて通過できない。結果、魔道具を動かすのに使われる魔力は、純粋な風属性のみとなる。

 これに高純度のクオーツを使うと、風属性以外の魔力まで使ってしまって、逆に不純な魔力で気流が乱れる。強い風を起こすには適するが、気流を整えるのが目的なら不適切というわけだ」


「あえて低純度のクオーツを使うことで、逆に高純度の魔力を得られると……なんとも皮肉な結果だな」


「『濾過』とは、そういうものだよ!

 ぜひパンを両耳に当ててみたまえ。バカのサンドイッチのできあがりだ。

 ふはははは! 中央のアホどもに食わせてやりたいね」


「できたのかい?」


「おお、ネメシス! ちょうどいい所へ。

 今まさに実験が成功したところだよ」


「へぇ……こいつは便利そうだ。

 工事現場の防塵や、厨房の換気なんかに使えそうだね」


「ふむ? ではそのあたりを仮定して、複数組み合わせてみようか」


「ああ、一台だけで使うってことは無いだろうからな。

 やってみよう」



 ◇



 王都、某所――


「風のない日の厨房ってのは大変だな」


「あん? 飛び込み営業の商人か?」


 料理人は、汗を拭いながら尋ねた。

 昼時の忙しい時間が終わった午後2時ごろ。

 やれやれと一息ついて、まかないも食べ終わったところだった。

 つまり、暇になって話を聞く余裕がある。


「その通り。

 ちょうど涼しくなれる商品を持ってきたんだよ。これなんだが――」


 ネメシスが取り出した商品を、料理人がひょいとひったくるように取り上げた。

 涼しくなれると聞いては、じっとしていられない。

 まさしく今日は風がなくて、厨房は地獄のように暑いのだ。加熱調理のための火があり、ぐらぐら沸かした湯があって、その熱気が逃げていかないのだから。

 しかし、起動してすぐ、料理人は眉をひそめた。


「自動で風を送ってくれるのはいいが、弱すぎて涼しさが足りないな」


「ははは。これは『自分に向かって吹き付ける用』じゃないんだよ。

 厨房の中の熱気を、外へ吸い出す用だ」


「そうなのか。じゃあ、たとえば窓に、こう、外向きに付けて……?」


「そう。まさにその通り。竈のすぐ近くに置けばなお効果的だ」


「なるほど、なるほど……しかし、この風の弱さで、そんなに効果があるのかねぇ?」


「あるのか無いのか、明日まで試したらいいさ。明日また来るよ。

 てことで、はい試供品」


「二台もいらんだろ」


「『足りない』と思ったら、複数置けば効果は強まる。

 比べてみて、何台ほしいか、明日聞かせてくれ」


「値段は?」


「使ってから教えるよ。

 その方が『安い』と思うだろうからね」


 そして翌日、二台とも売れた。

 近隣の飲食店に口コミで広まり、翌週には数十台が売れた。

 あとはもう、ねずみ算だった。

 かくて静かに「黄金」が広がっていく――

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