第15話
「負けて帰ってきただとぉ!? お前ら揃いも揃って無能ばかりか!?
一人もクイントに勝てないではないか!」
「いや……あの……調査に勝つも負けるもないでしょう?」
「…………」
調べてこいと言われたテルツォが言った。その性格は水。伯爵を落ち着かせようと、目をそらさせることに腐心する。
同じく調査を命じられたクアルトは黙っていたが、腕を組んでいた。これは伯爵へ反発し、テルツォに同意するというクアルトなりの態度だ。岩のような性格のクアルトは、不満を口には出さない。
「申し訳ありません、父上! しかしクイントと戦う以前の問題でした! ある意味クイントに負けたわけではありません!」
制圧のため「代官に着任」という口実で向かったセコンドは、平謝りだ。
毒霧に巻かれて魔物に襲われ、風魔法を放って自滅した。
クイント相手には一度も矛を交えていない。
たしかにクイントに負けたわけではないが、結果は「もっとダメ」だった。
しかし飄々と生きるセコンド。その平謝りは、どこか「軽い」印象だ。それが伯爵の怒りをいくらか鎮めた。犠牲が出てないのだから、まあいいさ。そんな考えが透けて見えるが、ちっとも反省していない愚者と違って、これでもちゃんと反省しているのは、これまでの付き合いで分かりきっている。ゆえに見えた。たしかに犠牲は出ていないという利点。
一種の偵察だと思えば悪くない。実際に見てきた地形情報、気象情報、それにミストランサーと実際に戦ったという経験も得られた。革鎧を貫くという攻撃力も、騎士の板金鎧は貫けなかった。これが分かっただけでも大きい。
「話にならんな、お前たちは。
父上。私がやりましょう」
長男プリモが進み出た。
その性格は火。伯爵の性格を最も色濃く受け継いだ激しい性格だ。
「よーし、行け! 行ってクオーツタウンを制圧してこい!」
「はっ!」
プリモが出撃した。
そしてすぐに戻ってきた。
「だ、ダメです、父上……! や、奴ら……強い……!」
「ええい! どいつもこいつも!
それで!? お前はどうやられたんだ!?」
「魔法が発動しませんでした。奴らクオーツタウンの周囲に低純度クオーツをばら撒いていたんです!」
「なにィ!? そ、そんなことをすれば魔法が出ない……あっ、それで」
クオーツは魔力が通りやすい。
しかし低純度クオーツは、特定の魔力しか通さない。
クオーツタウンで採れるクオーツは風属性の魔力しか通さない。だからクイントやセコンドの風魔法は問題なく使えるが、火魔法を使うプリモでは魔法が一切使えなくなる。
もっとも「風魔法なら使える」と知っている者は、クオーツタウン以外には居ない。伯爵家では、セコンドが風魔法を使えたのは「まだクオーツを撒いていなかったから」と考えた。彼らにとっては、低純度クオーツは魔力を吸い取るだけで効果がない非効率なものという認識だ。
それが常識。そして常識という先入観はとても強い。対魔法用の防衛装置として使うなどという発想すら無かった。だからクオーツタウンは寂れるままに放置されていた。
「しかし魔法が使えなければ兵力で攻めればよかろう?」
「護衛の名目で連れて行ったので、騎士団が弓矢を持っていないのは失敗でした。
奴らの弓矢は、着弾地点で爆発します。騎士の鎧が通用しないのです」
「なにィ!? どういうことだ!? 爆発!? 魔法を込めた矢だというのか!?」
「分かりません。爆発で矢も壊れるので、鹵獲できませんでした。
とにかく完全武装の騎士が吹き飛ぶ威力です。かろうじて重症者や死者は出ていませんが、まともに進むこともできず、やむなく撤退を……!」
ハンターがポッターに注文していた「例の矢」だ。
ミストランサーに対して「爆音」で気絶させるのが主目的。殺傷力を高めるには破片が飛び散るように設計するべきだが、倒したミストランサーは食べるので、破片はあまり飛び散らないように設計されている。
つまり、爆発兵器というより音響兵器なのである。だから吹き飛ばされた騎士は、大怪我をしなかった。とは言え、次々と飛んでくる矢の中では、まるで地面が揺れるように四方八方から吹き飛ばされる。とても「立って歩く」なんて事はできなかった。
「ええい! もういい!
かくなる上は、私が直接出る!」
伯爵はついに自ら出撃することを決意した。
「父上、同行の許可を! 知見がある者が必要でしょう? 雪辱の機会を是非!」
プリモがすがる。
「よし、いいだろう! ついてこい!」
「ありがとうございます!」
激しい性格の似た者同士だ。
勇んで出ていくその背中を、セコンド以下三人の兄弟が見送った。
誰ともなくため息をついた事を、伯爵とプリモは知らない。




