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第14話

 とある貴族に、小さな荷物が託された。

 日頃の関係、今後の利権、余計な手出しをした際のリスク……それら諸々を考えた結果、貴族は正直に、頼まれた通り上位貴族へ荷物を届けることにした。

 受け取った上位貴族――公爵は、王家の分家であり、受け取った荷物の価値を理解すると、直ちに王宮へ乗り込んだ。


「お兄様。内密にお話が」


「妹よ。いくら兄妹とはいえ、女性が夜中に男の部屋へ忍んでくるものではないぞ。

 そっちの旦那はどうか知らんが、我が后はなかなか嫉妬深いのだ。勘弁してくれ」


「ここで『陛下』と呼ばずに『お兄様』と呼んだ意味、ご理解いただけませんの?」


「互いに公的な身分だ。私的な関係を口実にして予定をねじ込むのは、それだけ火急の用件であろうとは思うがな。それはそれとして――」


「公的な用件の最中に、私的な振る舞いの是非を正すのが『公的な身分』のする事でしょうかね?」


「誰だ!?」


 突然聞こえた第三者の声。

 国王は警戒をあらわに、周囲を探って視線を向けた。

 しかし姿が見当たらない。


「これですわ、お兄様」


 王妹が指輪を取り出す。


「はじめまして、と申し上げるべきでしょうかね。まだ陛下のご尊顔を存じ上げませんが」


 声は指輪から聞こえていた。


「……改めて問おう。誰だ?」


「伯爵家の三男クイント・エッセンシャルズ隷下の商人ネメシスと申します」


「どこにいる? 姿も見せぬとは無礼な」


「まさにそこが重要です、陛下。

 私は今、王都の宿屋の一室におります」


「なに?」


「この距離を無視して話ができる魔道具。

 単体では町の中ぐらいの距離が限度ですが、増幅装置と併用することで王都と伯爵領をつなぐ事が可能です。

 伝令兵が書簡を携えてひた走るのに比べて、この圧倒的な速度がもたらす優位。その価値は、私のような商人でも分かりますから、陛下ならなおさらでしょう。

 我が盟主クイントは、伯爵家がこの技術を独占することを危険視しており、これをもって『軍の注文をもぎ取れ』と。そこで王妹殿下のご協力を賜り、手を伸ばした次第ですが……『もぐ』必要がありますか?」


 よそへ売り込みをかけてもいいんだぞ、とも解釈できる一言に、国王は顔を青くした。


「軍に納品するほどの数を用意できるというのだな?」


「量産体制はすでに。

 どこへ配備するかは陛下のご自由ですが」


 軍用以外にも平時の内政における様々な伝達が、劇的に加速するのは明らかだ。

 圧倒的な速度に加えて、伝令という仲介役が存在しないメリット――情報が劣化しないという点も強い。これによって地方への支配力が大幅に強化される。

 同時に、敵がこれを手に入れたらという絶望的な仮想が浮かぶ。

 諸刃の剣――いや、禁断の果実か。


「お悩み中のところ申し訳ありませんが、時間はあまり残されておりません。

 伯爵家がすでに情報を嗅ぎつけ、我が物にせんと動き出していることでしょう」


 国王は、1秒ほどの長い瞬きをした。

 表情が抜け落ちる。


「……了解した。ただちに援軍を送る」


 通話を終了し、人を呼び、指示を出し。

 それから国王は、椅子に深く腰掛けた。


「クイント・エッセンシャルズか……」


 椅子が軋む。

 何かとほうもなく重いものを乗せたように。

 抑揚をなくした声が漏れ、思考はさらに加速していく。

 そこに居るのは、もう「人」ではない。

 国家を動かす「国王という装置」だ。



 ◇



 きらびやかな軍団が、クオーツタウンに現れた。


「我が名はセコンド・エッセンシャルズ!

 ここに伯爵家から追放し、『毒霧にまかれて果てよ』と命じたはずのクイントが逃げ込んでいるとの情報を得た。速やかに身柄を差し出せ。さもなくば隠匿の罪にて町もろとも地上から消えると知れ!」


 名目は、代官として派遣された。

 ならばこれは、代官としての初仕事だ。

 あとで何かあったら、そう言い逃れる算段である。


「兄上! いますぐ逃げて! 霧が迫っています!」


「クイント! そこに居たか! 今その首をはねてやるぞ! 全軍前進!」


「駄目です! 止まって! もう霧がそこまで来ています!」


「進めー!」


「「ぐわーっ!?」」


「なんだ!? 何が起きた!?」


「あんな大きな足音を立てて歩いたのでは、ミストランサーの餌食だ……」


「ええい、霧でよく見えん! 巻き上げろ、トルネード!」


「「ぎゃあああ! セコンド様!?」」


「あっ、しまった! 味方まで……! おのれクイント! これが貴様の策略か!」


「兄上、いつの間にそんなアホになったのですか!?」


「撤退! 撤退だ!」


「あ、兄上……何しに来たんですか……」


「おのれー! 帰ってテルツォに相談だ! あいつは俺より頭いいからな!」


「え? ああ、そういう……」


 僕は伯爵家から出ることで跡目争いから脱落したが、セコンド兄さんは伯爵家の中に残りながら同じ事をしているらしい。

 そして次男でありながら、長男よりも三男推しなのか。同感だけど。

 なんというか、飄々と生きるセコンド兄さんらしいな。

 ……となると次は……。

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