第13話
「ほ……ほぉーう……?」
伯爵邸。
テルツォからの調査報告を聞いた伯爵は、こめかみに青筋を浮かべてピクピク震えながら、怒鳴り散らして暴れたい衝動を必死に我慢していた。
「この私が恥知らずのハゲタカなのか、それとも息子の成果を喜ぶ人格者なのか、見せてもらう……と。そう言ったのか、クイントのやつは」
恥知らずだのハゲタカだの、天下のエッセンシャルズ伯爵に向かって何たる言い草か。身の程をわきまえろと殴ってやりたいところだ。しかし、これをもって「バカにするな」と怒ることは、それ自体が「自分はその手のバカである」と言っているも同然。怒るに怒れない。
もし「当然後者である」との意識があれば、前者はただの冗談であり、笑って済ませるか、せいぜい「ちょっと口が過ぎるぞ」と注意して終わるところだ。
一方で「取り込まない」という手はない。王都のギルドが欲しがるほどの技術、それも画期的な情報伝達技術となれば、遠からず王宮の耳にも入るはず。ここは何としても、その芽吹きかけた巨大利権を取り込みたい。
ハゲタカ呼ばわりは許せないが、ハゲタカ行為はしたい。この矛盾が伯爵を苦しめていた。
「父上。僕としましては、クイントの言い草は甚だ不遜で不敬であるとは思うのですが、あちらの思惑に乗るのも癪です。こうした場合に貴族として、どのように考え、振る舞うべきでしょうか?」
自分に降り掛かった火の粉、払うか受けるか。
という意識から目を逸らして、息子への教育という部分に目を向けさせる。
伯爵をいくらか冷静にさせる、テルツォの話術だ。
「叩き潰せばよろしいのでは?」
次男セコンド・エッセンシャルズが言った。
その性格は風。今も実に飄々とした態度だ。
「兄上。恥知らずのハゲタカ呼ばわりは無視すると?」
「それもひとつの手だけど、そもそもクオーツタウンは伯爵領だからね。
クイントは追放されたのであって、派遣されたのではない。統治者の任命・派遣はもちろん領主である父上の権限だ。
ギルドが『恥知らずのハゲタカ』なのは、奴らがそもそも部外者だからだよ。伯爵家は部外者ではない。伯爵が伯爵家の持ち物をどうしようと自由ではないかね」
「なるほど。
よろしい。セコンドを代官として派遣しよう。毒霧に潜む魔物がいるという情報もあるから『護衛は多めに』連れて行くとよい」
「承知しました」
セコンドが一礼して部屋を出る。
その後に続いて、テルツォも一礼し、部屋を出た。
「……結局ハゲタカか」
テルツォの考えは、セコンドとは違った。
クイントは「息子の成果を喜ぶ人格者」という道も示してみせた。対外的にはそのように見せればいいのだ。つまり「成果を上げたから追放は解除」という形にしておき、家に戻すという形で「抱え込み」の上、実際は飼い殺しというのが、テルツォの考える「最もスマートな方法」だった。
こんなのは下町のチンピラにも出来る演技なのに……と思うと、テルツォはため息が出た。
◇
「あー、あー……聞こえるかい?」
「聞こえるよ。良好だ」
「こっちもよく聞こえるよ。成功だね」
通話の指輪。
それを強化改造した通話装置の実験中だ。
原理的には風属性だけを通す低純度クオーツを指輪に装着。指輪から通話装置に接続し、通話装置は高純度クオーツを搭載して通話距離を延ばす。高純度クオーツは多様な属性を通すから雑音が入るが、相手側の指輪に搭載された低純度クオーツが「フィルター」として機能し、風属性だけを通すことで雑音がカットされる。
通話相手を選んだり、他の通話と混線しないようにしたり……そのあたりの技術的な困難は、フリンジが指輪や装置に搭載する魔法陣を工夫して解決した。つまりソフトウェア的な解決方法だ。
「よし、フリンジ。大量生産の準備を急いで。
ネメシス。王宮へ売り込みだ。軍から注文をもぎ取ってきて。
これは単なる技術改革じゃない。今後の国家運営を支える根幹だ。王宮に『いち貴族に掌握されているのはマズイ』と自覚させるんだ。通話技術は王宮が自分で持っていないと、秘密で伝えたいことが漏れる可能性がある。
そして伯爵家は、テルツォ兄さんからの報告で、この技術に目をつける。もう時間はない。今すぐ確保に走らないと、王国は伯爵家にすべての情報を握られることになる」
「じゃあクオーツタウンは王党派に入るってことでいいんだね?」
「伯爵家をぎゃふんと言わせる、今がその時だ。
王党派に入るのに、なにか問題が?」
「ないとも。じゃあ、後は任せておきな」
意気揚々と。
姿は見えなくても、ネメシスが張り切っているのは伝わってきた。
さあ、いよいよ決戦だ。
プロジェクト・クワイエットゴールド――沈黙の黄金は、雄弁な銀の輝きをまとってその真価を見せつけるだろう。
今、王国が激震する。




