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第12話

「ギルドが妙な動きをしている。

 こっそり何かやっているらしい」


 伯爵邸。

 三男テルツォ・エッセンシャルズを前に、伯爵は言う。


「そして最も奇妙なことは、その動きの先がクオーツタウンということだ」


 テルツォの性格は水。

 相手に合わせて形を変える、変幻自在の水だ。


「そうですか。

 それで、どっちをやれと?」


「うん?」


「ギルドが何をやっているのか突き止めるのか、クオーツタウンで何が起きているのか調べるのか。どっちをやれと?」


「うむ。行き先は同じだから両方だ。

 クアルトの調査では何も出なかったが、ギルドの動きから察するに、調べ方が甘かったようだからな。きっと何かあるはずだ」


「なるほど。承知しました。では早速出発します」


 テルツォは手早く準備して、クオーツタウンへ向かった。

 街道を進む馬車の中で、テルツォは複雑な表情をした。


「王都までギルドの動きを調べに行かなくて済んだ。

 手間が減って良かったと思うべきか、王都を満喫するチャンスを失ったと見るべきか……。

 どうせ『どちらか一方』を調べるなら、田舎町より王都が良かったな」



 ◇



 クオーツタウン。

 エッセンシャルズ伯爵家の紋章を掲げて、馬車がやってきた。


「やあ弟よ。ギルドを巻き込んで何をコソコソやっているのか、正直に白状してくれると、この兄はとても助かるのだが?」


「ははは……テルツォ兄さんが勘違いするところを初めて見ました」


「勘違い? そうか。どこが勘違いなのか教えてくれ。

 ああ、ちなみに僕が勘違いすることなど、普通によくある事だよ。お前の『無能なふり』も最初は本気だと勘違いしていたからね」


「見破ったのは兄さんだけです。そして後継者争いから脱落するためだと知って、黙っていてくれたのには、感謝していますよ。

 さて、勘違いの中身ですね。

 ギルドを巻き込んでいるわけではない。彼らが勝手に押しかけてきて、バタバタやっているだけ。甚だ迷惑ですよ。ケチでしみったれのギルドは、こっちのメリットになる事は何一つ提示しないで、一方的にこの町から技術を盗もうとしています」


「ほう? それはどんな技術なんだ?」


「離れた距離から会話できる魔道具です」


「ふむ……距離によっては、いろいろと『あり方』を変えてしまう技術だな」


 情報が速やかに伝達される。その意味は大きい。

 もし国家間でリアルタイムに会話できるほどなら、政治・経済・戦争など幅広く様々なあり方が変わるだろう。

 手紙をもたせた伝令兵が走る――現在の方式では、国家間の情報伝達は、急いでも片道1ヶ月とか。従って戦争は非常に「のんびりと」実行されるし、個別の戦闘はすべて司令官が目視できる範囲でのみ実行される。

 もし自国だけが高速伝達技術を持てたら、敵国に反応する時間さえ与えずに電撃的に襲撃し、たちまち侵略していけるだろう。目も耳もふさいだ相手を一方的にボコるような展開になるはずだ。

 概要を聞いてすぐそこまで想像できるテルツォ兄さんはさすがだが、実際はそこまでの技術はできあがっていない。


「屋敷の中で人を探さなくて済む程度のものです。

 門番から来客の取り次ぎを受けるには便利ですよ」


 実際の範囲は町全体だが、ここは過小に伝えておく。

 ものを考えるということは、基本的に「隣の情報と比べる」ということだ。

 たとえばバターは水に溶けるが、ラードは水に溶けない。同じ「脂」なのに、なぜ違うか? バターの原料は牛乳で、牛乳から水分を絞るとバターができる。つまりバターはもともと水に溶けているから元に戻るだけ。

 詳しく説明すれば少し不正確だが、こういうのが「考える」ということだ。そこで重要なのは「バターの原料は牛乳」という情報を持っていること。これが「隣の情報」である。

 しかるに今回の場合、テルツォ兄さんは「隣の情報」を持っていない。会話できる距離が嘘か本当か、考えても分からないということだ。


「その程度でギルドが騒ぐか……? いや、しかし探し回る手間がなくなれば、かなりの時間短縮になるのは事実か……将来的に距離を延ばせれば、とまで考えたときには今すぐ確保しておきたい技術ではあるか。しかし、そこまで考えると国の将来に関わる……はっ……! 中央政府の命令を受けている……?」


 テルツォ兄さんの考えは、頭が良すぎて思考が空回りしている状態だ。

 王宮のほうが勝手に察知して命令してきたのでなければ、間違いなく無関係だ。

 技術オタクとしての本能、それにさんざんコケにして追い返したから意趣返しに燃える気持ちもあるはず。手に入れて改良して、明らかに優れた性能になってから「我らの成果でござい」と得意げに報告したいだろう。

 そうすれば、後から「それは僕らの技術だ」と訴えたところで「後出しで劣った性能のものを出されても……」と相手にされない。


「それで、ギルドには技術を提供しているのか?」


「まさか。

 何のメリットもないと言ったでしょう? この町はギルドとは無関係の独立状態ですよ。困っている時に助けもしなかったくせに、ちょっとばかり成果が出たら奪いに来るようなハゲタカに与える餌などありません」


「……そのまま父上に報告してもいいのだな?」


「もちろん。

 父上が恥知らずのハゲタカなのか、それとも息子の成果を喜ぶ人格者なのか、しっかりと見せてもらいます」


「それも伝えておこう。

 お前はもう演技をやめたのだな」


「解放されましたからね」


「世間的には『追放』と言うのだがな」


「物事は見る角度によって意味が変わります」


「まさしく……。

 ではな。邪魔をした」


「もうお帰りで?」


「何が起きているか調べろと言われただけだからな。奪取だの妨害だのは命じられていない」


「そうですか。

 では道中お気をつけて」


 テルツォ兄さんは帰っていった。

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