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第11話

 遠方より来客があった。


「王都の魔術師ギルドで長を務めておる」


「同じく、職人ギルドの長じゃ」


 彼らは視察を申し込んできた。

 断ろうにも本人たちが来てしまっているのでは、帰れとも言いづらい。言えばやましいことでもあるのかと言われるのがオチだ。


「ギルドの恩恵なく過ごしている『外部』に視察を申し込むのに、今日の今日でというのは無理筋が過ぎますね。

 宿屋もないゴーストタウンですが、空き家ならいくらでもありますから、お好きな家屋でお過ごしください。

 ただし、住民からここはダメだと言われた場所は遠慮してください。ここは毒の霧と魔物がいつ現れるか分からない危険地帯であるということ、お忘れなく」


 知識造詣は深くとも、この現場に限っては物の位置さえ分からない「素人」の視察だ。何が危険かは見れば分かる頭があっても、どこに何があるか把握していなければ気付かずぶつかったり蹴飛ばしたりしてドカン! ということもある。安全対策は怠れない。


「何を視察に来たのか……おそらくクイント様の兄上と同じだろう。見せれば伯爵家から怒りを買うだろうし、見せねば帰らぬつもりだろう。

 どうするつもりだ?」


 エルダーが尋ねた。

 指摘は正しいと思う。

 しかし、もう少し引いて見れば、解決策は単純だ。


「放っておくから、構うことはないよ。

 ダメなところへ行きそうになったら、ぶん殴ってふん縛ってしまえ、と皆に伝えて」


「いいのか?」


「同業他社が勝手に乗り込んできて企業秘密を見せろと言うんだから、断るに決まってるよね。

 視察の申し込みは聞いたけど、受けるとも断るとも答えてない。相手をするのは、彼らがギルドに入るように勧誘してきてからだ。こっちにメリットがない話なんて、相手にしなくていいんだよ」


 こっちはギルド未加入で、なんの恩恵も受けてないのだ。

 このまま視察を受けたら、一方的な搾取になる。

 彼れらには、そのことを自覚してもらわないとね。



 ◇



 1週間後。

 痺れを切らしたギルド長たちが押しかけてきた。

 いつまで待たせるつもりだ、と彼らは言う。


「ギルドを敵に回していいのかね?」


「このままではギルドの恩恵を受けられなくなるぞ」


「エフッ……エフッ……アハハハハハ!」


 あまりにも状況認識ができていない態度に、僕は腹を抱えて笑った。

 ソファのひじかけをバンバン叩いて大笑いしたあと、涙をぬぐって尋ねてみた。


「このクオーツタウンが、今どんな恩恵を受けているのか教えてください」


 最初に言ったはずだ。

 ここはギルドの「外」だと。

 今まで困窮していた町に何の支援もしてこなかったくせに、何を今更「視察」などと。

 儲かりだしたとたんに集まるハゲタカ風情が調子に乗るなというのが、この町の総意だ。苦しんできた人たちほど、特にである。


「この……!」


 顔を真っ赤にするギルド長二人。

 だがその時――


 トゥルルル トゥルルル


 柔らかいベルのような音がした。

 僕は右手を耳に当てる。


「こちらクイント。どうぞ」


 話しかけると、指輪から声が聞こえた。


「フリンジだ。分業制の生産量データができた。必要十分だ。ネメシスにも確認した。詳しくはあとで書類を出すから確認してくれ」


 分業制。工場制手工業だ。工場に集めた奴隷たち――専門知識を持たない彼らに、「これを、こっちから、こっちへ運べ」というレベルに分解した作業でやらせた。

 つまり理解できる単純作業だ。それを生産ラインとして組み立てるのが、フリンジの仕事となる。従って、いったんラインができてしまえば、もはやフリンジが居なくても生産は止まらない。

 この方法で、不足していた魔道具の供給量を一気に増やすことができた。今のが、その成功の連絡だ。


「了解した。魔道具ギルドと職人ギルドの長が来てるが、何か伝える事はあるか?」


「ない。ああ、いや……『ざまあみやがれ』と言っといてくれ」


 聞こえたようだ。顔色が変わった。

 この魔道具は、まだ周りに聞こえないようにする工夫が足りないからな。

 雑踏のなかで使うと、周りの音まで拾って伝えてしまったり、聞き取りにくかったりするのが問題だ。


「了解した。通話を終了する」


 右手を耳から離す。

 魔力を流すのをやめれば、指輪は機能を停止する。

 ただの話し声。威力が弱い風魔法の魔道具だ。通話可能な距離はまだ短いが、クオーツタウンと採石場くらいなら十分届く。

 居場所を探してあちこち歩き回る必要なく、すぐ会話できるので便利なものだ。


「な、なんなんだ、それは?」


「指輪で離れた相手と会話を……? なんという画期的なアイテム……!」


 もはや視察どころではないらしい。

 ちなみに、これは見せても困らない。真似しようとしても出来ないだろう。フリンジの独自理論――低純度クオーツによる魔力の純化という技術がなければ、いかに高純度のクオーツを使おうとも雑音だらけで話ができない。

 高純度クオーツのほうが遠距離まで通話できるので、組み合わせて使えば距離を伸ばせるのではないか、ということで研究してもらっている。


「せめて同等以上の技術力がなければ、話になりませんね。僕らはまだ、一方的に施しを与えるほど余裕はないので」


 そう言ってやると、ギルド長二人は悔しそうにすごすごと帰っていった。

 そのあとクオーツタウンは宴会になった。

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