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彼女の名前

少し警戒しながらも僕は食事に手を付ける。まだ警戒心を拭えないでいるのは、彼女が僕に求めるものが分からないからだ。魔法の力によって結ばれた契約は相手が履行するまでの行動を制限できる。それにペナルティの内容は、契約を結ぶものに委ねられるからこそ、事前に求められることを知っておきたかった。


今回は死にかけていた俺を救ったのだ、それ相応の罰を設定されていてもおかしくない。そんな状態で戻って、もし、アリスと母様を傷つてしまったら。そんな疑惑を抱いてしまう。彼女は傷つけなくても、俺が傷つける可能性はまだ拭えないから。


そんな彼女の人間性を窺う中、ふと耳にした言葉を思い出す。


『……まだ生き残りがいたのね』


そう、彼女が呟いていたことを。


「あのっ、他の人達は!!」


俺は身を乗り出しながら尋ねる。仮に死んでいるとしても最後を知っておく必要がある。それに弔うためにも。


「御者と馬は落下で死んでいたわ。彼らは埋葬した。……あなただけが唯一の生存者よ」


彼女は少し目を伏せながら俺に伝えてくる。ふと俺と視線が合うと、彼女は優し気に微笑んだ。


「ほら、冷めちゃうわよ」


促されるまま、僕は食事を食べる。美味しいはずの食事なのに、何故か塩味が多く感じた。彼女は俺が食事を終えるまで、待ってくれる。何か話したいことがあったはずなのに。


いや、優し気に見詰める彼女を見ていると違う気がした。きっと、警戒する俺を安心させたかったのかもしれない。ずっと気を張っているのは負担だからと。今も自らの手を止め、俺の事を優し気な目で見つめる彼女を見てそう思った。



***



食事を終え、食器の片づけを済ませる。初めてということもあり、使う道具や手順を一つずつ教わりながらの作業する。彼女は急かすこともなく、一つ一つ丁寧に教えてくれる。少しでも手が止まると、「こうやるんだよ」そう言って、さりげなく手本を見せてくれた。


相手の事をよく見ている人だなと感じる。彼女に優しさを感じるほど気持ち的な余裕が出てきたからか、重要なことに気付く。


(そういえば、この人の名前はなんというのだろう?)


崖下に落ちたときに名乗ってくれた気がするが、思い出せない。あの時は、生き残るのに必死で、敵と仲間の存在、それだけに集中していたら。……っ!!せっかく落ち着いてきたところなのに、嫌なことを思い出す、崖下に落ちる前の敵のニヤリとした顔を。


俺は頭を軽く振って切り替える。


「そういえば、お名前を聞いておりませんでしたね。僕はフェリックスといいます。お名前を窺ってもよろしいですか?」


彼女の方を見て伝えると、彼女は俺の方をじーっと見つめる。


(……なにか、まずいことを言っただろうか?)


少し警戒心を強めながら、身体を半歩引いてしまう。だが彼女は、何をするでもなく、ただ僕を見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「アリシア……私の名前は、アリシアよ」

「アリシア……」

「さんとつけなさい、少年」


そう言って、ふっと笑った。まるで、年の離れた姉が弟をたしなめるような表情で。


「……アリシアさん?」

「うん、それでいい」


満足そうに頷く。その後、片づけを終えた俺たちは、改めて席に座り直した。彼女は僕の前にティーカップを置くと、反対側まで戻り僕の目の前に座る。


「それじゃ、私と君のこれからについて話そうか」


胸が、わずかに強く脈打つ。それは僕が最も知りたがっていることだから。


「まず、君の意志を聞きたい。これからどうしたいの?」


そんなことは決まっていた。早く母と妹の元に戻って安心させたい。俺が死んでいると勘違いして泣いているかもしれないから。でも……その本心をここで語っても良いのだろうか?そんな疑問を感じる。


目の前の彼女は接している限りでは友好的だ。俺を気遣ってくれているのも分かる。でも……殺されかけた手前信じられずにいた。本当に彼女は善意で俺を助けてくれたのかと。そんな俺の思惑を呼んだのだろう。彼女はふっと微笑んだ。


少し外に出て話そうか。彼女はそう言って、俺の手を引いた。一瞬、身体がこわばる。それでも、振りほどくことはできず、警戒心を抱いたまま、俺は彼女についていくのだった。



***



外に出て驚く、ここは村もしくは町の中にある一軒家だと思っていたからだ。周囲を見渡せる場所に来て理解する。ここは完全に森の中に存在している。他の村人はおろか、家すらも見当たらない。


「……ここはいったい」


思わず、そんな呟き声が漏れる。彼女は少し笑って答える。


「ここは、ラルフ大森林。普通の人なら立ち入らない危険地帯よ」


一気に警戒心を増大させる。ここが、危険な魔獣が闊歩するような大森林の中だからだ。普通の人なら絶対に立ち入らない。かつて、伯爵家が探索隊100名を出し、たった一人の生き残りもいなかった事実から、誰も攻略しようなどと考えてない危険地帯だ。


呼吸が乱れるのが分かる。


「ここは安全なんですか?」

「えぇ、私が結界を張っているから」


恐る恐る聞く俺に対して、彼女はサラッと答える。結界か、そんな高等魔術を使える彼女はやはり厄災と呼ばれるだけの存在なのだろう。もし彼女が相手を傷つけようと思うなら、一人で可能だ。俺の力等必要としないだろう……。


「この光景をみせて、俺の抵抗力を削ぎたかったのですか?」


僕は、半場諦めように問いかける。もはや小細工を考えるだけ無駄だから。彼女は困ったように、苦笑いしながら伝える。


「……君が、窮屈そうに見えたから。外の空気を吸った方が和らぐかなって」


その言葉に俺は力が抜けて、正直に話し始めのだった。

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