鉄と狂気
記憶が力を持つ世界で、彼は忘却という能力を世界を救う資格と引き換えに名を失ってしまった。そして、長年の願いを記したノートだけを残し、名を失ってしまった。「もし私が自分自身を忘れてしまったら、どうか思い出させてください。私はこの世界を救いたいのです。」しかし、旅の途中で、過去の仲間、壊れた記憶、狂気の機械騎士、そして歪んだ真実が次々と浮かび上がってくる。ꀂꀘꀺꁘꁸꂓꂰ
夕暮れは三度目に冷たくなった。この名もなき地は、まるで世界そのものから忘れ去られたかのようだった。枯れた草が腐った道を覆い、空の鳥たちは口を開けるのも億劫で、風だけが骸骨の間を滑るように流れていた。主人公は長い間歩き続けた。自分がどこから来たのか、なぜ向かっているのかも分からなかった。ただ分かっていたのは、立ち止まれば心の「空虚」が膨らみ、飲み込まれてしまうことだけだった。手にしたノートは既に破れていた。ページには、彼自身の言葉のようでいて、そうでない言葉がいくつか書かれていた。「忘れるのは嫌だ」「でも、思い出すのが怖い」。その言葉の意味は分からなかった。しかし、それが「彼」の、ある特定のバージョンによって書かれたものだと分かっていた。あたりは暗くなっていた。目の前には崩れ落ちた監視塔があり、まるで世界の折れた背骨に向けられた片方の目のように。とりあえず、風が四方八方から骨を突き刺すことはないだろうから、彼はそこに隠れることにした。しかし、塔の底に残った壁の中に足を踏み入れた途端、「止まれ」という声が聞こえた。主人公は見上げると、目の前に巨大な金属の生物が立っていた。その装甲構造は古代の騎士のそれのようだったが、その体はタービン肩装甲、エネルギー容器、そして脈動する胸部コアといったSF的な機械部品で覆われていた。屈強な体格で、テノール訛りに機械音波が混じった、安定した甲高い声だった。重装甲の下のアイライトが光り、主人公に向けられた。ロボットは二言目を発した。「君には、モーターオイルと単三電池を媚薬代わりに摂取した時の、JOレベルの禁断の匂いがする…」主人公は唖然とし、反応する間もなく、相手は言った。「落ち着け、俺は敵じゃない」「私はただ…えっと…本能的に、あらゆる『異常変数』に警鐘を鳴らすんです」「だって、ね?」「真の狂気は必ず人の姿で現れる」主人公は顔を上げ、その「人」をじっと見つめた。いや、ロボットだ。鎧の下の顔は可動式の義手モジュールで、まるで擬人化された構造物と混ざり合った残骸のようだった。彼はついに最初の言葉を尋ねた。「…あなたは誰ですか?」相手は情報を探しているかのように数秒間沈黙した。それから片膝をつき、金属製の拳を振り上げ、気取った様子で胸に叩きつけた。「コードネーム:フィロス・ゼロ!」「性別は『可変』、思考は『浮遊』、スタンスは『楽しさこそ正義』!」「覚えておけ、この鋼鉄の鎧の下にまだ魂を宿したこの狂気の名前を。フィロス卿は今この瞬間、ここで、この分母の中で、お前に挨拶している!」主人公は言葉を失い、何と返答すればいいのか分からなかった。しかし、彼が何かを言う前に――遺跡の奥から轟音が響いた。――異星人。――鋼鉄と筋肉でできた、まるでかつて人間だったものが、バラバラにされ、再び組み合わされたかのような、異形の人型生物。それは飢餓と混沌をもたらしながら、押し寄せてきた。フィロスにはそれを止める暇もなかった。主人公は思わず手を挙げた。その時――時間が引き伸ばされたように感じられた。記憶が引き裂かれた。画面がフラッシュした。見慣れた笑顔と、聞き取れない別れの言葉。心の奥底から、再び声が響いた。「生きる希望を忘却と取り替えよ。」そして――巨大な力が炎のように噴き出した!瞳孔は灰金色に染まり、掌には古代の紋様が浮かび上がり、空気が歪み、時間が揺れ動いた。異星人の体が近づく前に、既に空中で幾つもの破片に砕け、音もなく砕け散っていた。世界は数秒間、静まり返った。主人公は息を切らし、膝から崩れ落ちた。記憶が再び失われた。たった今見た笑顔が誰のものだったか、忘れてしまった。痛みに頭を抱えた。フィロスは近づき、手のひらの模様を見つめ、考えに沈んだ。しばらくして、彼は静かに言った。「…あなたはホロウだ」「いや。あなたはホロウになるべきだった。だが、そうはならなかった」「これはとても興味深く、そして危険だ」「だから私は決めた」「あなたが奇跡なのか、それとも失敗の産物なのかを理解するまで、私はあなたについていく」主人公は息を切らし、彼を見上げた。「なぜ…私を助けようとするのですか?」フィロスはニヤリと笑った(もしそれがニヤリと呼べるなら)。「もしかしたら、それは愛なのかもしれない。愛は私を盲目にし、愛は私を理性を失うようにする。お願いだ、たとえあなたが私を自慰カップのように扱ったとしても、あなたに従わせてくれ…一生あなたに従わせてくれ」主人公は混乱した。こんなにも狂おしくも穏やかな存在を見たのは初めてだった。しかし、彼の心のどこかに生じた亀裂は、突然、それほど痛くなくなった。ノートブックは少し温かみがあり、まるで「まだ終わっていないよ」と言っているかのようでした。