表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『風音のあとで』  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/50

1年目10月:第二十話「悔しさの分だけ、音になる」

次の日。放課後の音楽室。

 澪はひとりで箏の前に座っていた。


 


 昨日の録音チェックで聴いた、自分の音。


 細くて、頼りなくて、今にも消えそうだった。

 でも、それが「私の音だった」と、ようやく認めることができた。


 


 だからこそ、悔しかった。


 もっと届く音を出したい。

 もっと、“伝わる音”にしたい。


 


 澪は、小さく息を吸った。


 


 ——ぽろん。


 


 爪が弦をはじく音が、静かな部屋に響く。


 澪は少しずつ、ゆっくりと指を動かした。


 


 (違う。今のは弱すぎる)

 (力を入れすぎた。音がつぶれた)


 


 何度も、繰り返す。

 ひとつひとつ、確かめるように。


 


 正解があるわけじゃない。

 でも、「自分で納得できる音」を出したいと思った。


 


 「……ひとりで練習?」


 


 音楽室のドアが開いて、亜季が入ってきた。


 


 「うん。……昨日、録音聴いて思ったの」

 「わたし、やっぱりまだ全然できてない。だから、もう少しだけ練習したくて」


 


 亜季は何も言わずに、黙って自分の箏を構えた。


 


 「えっ……一緒にやってくれるの?」


 


 「うん」

 ぽつりと返ってきた言葉は、それだけだったけれど、澪の胸があたたかくなった。


 


 二人で、同じフレーズを繰り返す。


 


 ひとつひとつの音に、耳を澄ませる。

 重なる音が、澪の中に少しずつしみこんでくる。


 


 失敗しても、音がずれても、やり直せる。

 悔しいと思った分だけ、音は変わっていく。


 


 ふと、亜季が言った。


 


 「澪の音、最初より強くなった」


 


 「……そうかな」


 


 「うん。でも、まだ“強がってる音”」


 


 「えっ」


 


 「それでも、いいと思う。最初はみんな、そうだから」


 


 澪は、思わず笑ってしまった。

 それは、悔しさのあとに初めて浮かんだ、素直な笑顔だった。


 


 箏の音が、再び部屋に響く。

 ふたりの音は、まだ未完成だけど、どこかあたたかかった。


 


 ——悔しさの分だけ、音になる。

 澪は、そう信じたくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ