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『風音のあとで』  作者: 南蛇井


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18/50

1年目9月:第十八話「涙のあとに響いた音」

演奏を終えて舞台袖に戻ると、

 澪の足は一歩ごとに重くなった。


 


 演奏は、最後まで終わった。

 拍手ももらえた。

 けれど──どうしても、あの「止まった一瞬」が胸に引っかかっていた。


 


 控室に戻ると、他の部員たちはそれぞれに話していた。


 「うまくまとまったね」

 「ラスト、ちょっと速くなった?」

 「お客さんの反応、すごかったよ!」


 


 その明るい声の中に、澪は入れなかった。


 


 佐伯先輩が笑いながら「おつかれ」と声をかけてくれたけれど、

 澪はただ、首を小さくふった。


 「……わたし、途中で……止まっちゃって……」


 


 ぽつりとこぼれた言葉に、場の空気が一瞬だけ静かになった。


 


 それでも、誰も否定しなかった。

 ただ、茉莉先輩がふうっと息をついて、言った。


 


 「いいじゃん。止まったあと、ちゃんと戻れたんだから」

 「音楽ってさ、“ミスしないこと”じゃないと思うよ」

 「“戻れる強さ”があるかどうかだよ。私はそう思う」


 


 その言葉が、澪の心にじんわり染みてきた。

 でも、それでも──目の奥が熱くてたまらなかった。


 


 「……くやしくて」


 ぽろぽろと涙がこぼれた。

 「ちゃんと……届けたかったのに……」

 「もっと、ちゃんと弾きたかったのに……」


 


 そのとき。

 何も言わずに近づいてきた亜季が、そっと澪の肩を叩いた。


 


 ただ、それだけ。

 でもそれは、まるで「よくやったね」と言ってくれているようだった。


 


 他の部員たちも、騒がず、何も言わずにそばにいた。


 その静けさが、あたたかかった。


 


 やがて、控室の外に立つ母と妹の姿が見えた。


 「……すごくよかったよ」

 母のそのひとことが、澪の涙をもう一度こぼさせた。


 


 「緊張してるの、見てて分かった。でも……」

 「ちゃんと、届いたよ。あんたの音」


 


 澪は泣き笑いのまま、何も言えなかった。


 


 演奏は完璧じゃなかった。

 でも、完璧じゃなくても、人の心に届くことがある。


 


 ──また、音を鳴らしたい。

 ──次は、もっと誰かに届けたい。


 


 そんな願いが、澪の胸に芽吹き始めていた。

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