Q.先天性のデバフを食らったときの対処法は? A.いったんブチギレましょう
「ピッ、、、ピッ、、、ピッ、、、ピッ、、、」
等間隔で鳴る心電図モニター、かすかに空気中に漂う消毒液の匂い、体に幾つもまとわりつくゴム製の管。
俺の意識はかすかにあるばかりで、幾つもある点滴の針や、手に繋がれた管もあるかどうかわからないほど、感覚は鈍っていた。1週間前まではあんなにも痛んでいた臓器も、今ではまるで、すでに死んでいるかのように痛みも何も感じられかった。
「あぁ、死んだな、、、」
薄れゆく意識の中から、それだけは感じられた。
俺は21歳独身、少しだけガチっているゲーマー。子供の頃から、先天性心疾患を持ち手術しても、不整脈で即死する可能性のある、理不尽極まりない病気を持ち、残念ながら重症な類らしい。即死はしなかったが、ゲームの大会中にぶっ倒れ、その時偶然俺の家で大会に出ていたチームメイトの男友達2人と女友達2人が通報してくれ、なんとか病院まで搬送された。
「おい!頑張れ!死ぬな!」
隣から叫び声が聞こえてきた。
「あと少しだろ!世界大会まで!全員で出場するって言っただろ!」
「そうだよ!死んじゃったら意味ないじゃん!どこにあなたの代わりがいるの!生きてよ!」
そうだよなあ、死んだら意味ないよなあ、頑張ったのになあ。頑張ってくれたのになあ。
ごめんな、ほんと、
「いま、、で、ありがと、、、」
俺は声にならない声を出し、意識が途切れた。
世界大会出たかったなあ、、
俺等は3年前から様々なfpsゲームを一緒にやる仲で、そのゲームの中のバトルロイヤル「The top of top」
の大会に出ていた。そう、みんなで、全力で練習し、みんなで、考え、みんなで、喜んだり、悔しくなったりした。
死にたくないなあ、、、あと少しだったじゃん、、、
みんなで絶対勝ちたかったなあ、絶対世界大会でたかったなあ、絶対面白かっただろうなあ、絶対嬉しいだろうなあ、世界大会確定させて、あの焼肉屋で大はしゃぎしたかったなあ、いや世界大会行くんだから、アメリカのマジででかいハンバーガーとか食べちゃったり、ゆうとのポテトこっそり横から取ったり、、、
会場に入場するとき、どんな感じなんだろ、 めっちゃ盛り上がるだろうなあ、一本道の端からバーンって紙吹雪がでてきて、カメラに向かってピースとかみんなでして、、、
ああ、またみんなでゲームしてえ、、
ていうか、ちょっと待って、これおかしくね?家庭環境だとか、生まれた途端即死する可能性のあるデバフかけられて、そんな中でも頑張って目標の世界大会まであと少しのところで死ぬって。
そんなことを考えていると(体も脳もないのにどこ使って考えていたかはさておき)、急に視界がひらけた!そこには空は快晴で美しく、地面は雲の上に似たような見た目で、ふわふわした感触があった。そして眼の前にはとても大きな天使のような、いや天使か。天使が一人座っていた。天使の周りには机の上にもしたにも山のように本が置いてあり、ガラスの水晶のようなものや、水のような液体が入ったグラスがおいてあった。
ここが天国?
すると、眼の前の天使がゆっくりと口を開け、優しい声音で喋り始めた。
「あなたも驚いているでしょうがここは天国と地獄の境です。あなたは、21歳という比較的若い歳で死んでしまったようですね。現世でも特に悪いことをしていたわけでもないようですし、天国にお送りします。なにかご質問はありますか?」
「......」
「特にないようでしたら、早速天国にお送りしまs」
「ふざけんな!」
「え?」
「[21歳という比較的若い歳で死んでしまったようですね?]いやいや、俺が生まれたときから即死デバフかけたのどこの誰だよ?しかも、あと少しで世界大会に行けるていう希望見せといて、ハイ残念でした?ふざけんなよ!クソゲーも大概二世!オワコンになるぞ!」
「えぇ?」
このとき大天使の頭の中には「???」しかなかった。あとにも先にも一瞬でも大天使の思考停止状態にさせたのは、このときしかなかったという。
「何疑問形使ってんだよ!全知全能だろ!」
いや、えぇ?私天使だし、全知全能の神じゃないし、、、いや大天使だから、現世の大体のことは知ってるつもりだったんだけど、、、えぇ?意味がわからない、、、大天使の私に対して、死んでもブチギレてくることある?ていうか、人間の魂作ってんの私以外の天使だし、、、
「俺は!チームメイトと!こんなクソデバフくらっても!世界大会あと少しのところまでいったんだよ!さっさと現世戻せ!」
「いやそれはちょっと、、、」
「なんでだよ!お客様は神様だろ!神様の言う事くらい聞け!」
なるほど、これが、現世でいうカスハラかぁ、ていうかお客様なんだ、魂ってお客様なの?
ていうかどうしよ、天国行けるのにこんなにキレてる人間初めて見た。強制的に天国連れて行ってもいいけど、でもよく聞くと可哀想だしなあ。
「わかりました。では現世に戻します。ただあなたの前の身体はもう死んでいるので別の身体に魂を移します。あと、本来は一度死んだ魂を現世にまた戻すなんてこと、多分だめだし、やったこともないので、私がついていきます。それでいいですね?」
「なんでもいいからはよ現世に戻せ!」
感謝もないよ、この人間wもう笑うしかないわw
Χαμένες ψυχές, επιστρέψτε σε αυτόν τον κόσμο. Ή μάλλον, γύρνα γρήγορα, ηλίθιε!
俺の足元から魔法陣のようなものがでてきて、光りだした。そしてすぐに眼の前は真っ暗になった。
戻ってはやく来年に向けて練習しなきゃ。
俺の頭の中はゲームのことで頭はいっぱいだった。
「大丈夫?!起きれる?」
どれほどの時間がたっただろうか。騒々しいが、心配したような女性の声が聞こえ、目が覚めた。
視界は道路のコンクリート一色で、どういうことか、わからなくなり、固まった。
「痛くなかった?大丈夫?」
なるほど、俺はころんだのか。
ゆっくりと身体を起こそうとすると小さく可愛らしい手が見えた。
誰の手だ?
、、、違う。これは、、、
急いで起き上がった見ると、俺の視界は明らかに低かった。
この身体、、、ちっこい!
完全に思考が停止し、再び地面へとダイブした。