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第4話


「じゃあ、仕事を探してくるよ」


 オレはモフの顔を撫でまわした。


「いい子で留守番するんだぞ。安い肉ばかりでごめんな。そのうちいいものを食わせてやるから」


 ヒャン、とモフは鳴いた。


「ご、ご主人様、お供しますど」


 庭を掃除していたオデが駆けて来た。

 やはりすごい迫力だ。

 オレは目の前で止まったオデの、服の葉っぱを払ってやった。


「二人で探した方が見つかりやすいかもな」

「その通りだど、です」





 貴族のソレイユは家庭教師を探していた。

 履歴書を指ではじいて、じろりとオレの足から頭までを睨みつける。


「オレ・アースディンさん、士官学校を卒業した後は何をしていたのかしら」


 面接は当然、一番痛いところを突かれるものだ。


「戦争もなかったし家も裕福でしたので、道楽です」

「あらそう、正直ですのね」


 ソレイユは吊り上がった目をオレから逸らして、隣のオデに向けた。


「そちらのあなたは付添人かしら」


 オデは小さな椅子を壊さないように腰をわずかに浮かせているので、ぷるぷると震えている。


「こちらは、オデというのですが、なんというか」

「ご、ご主人様の、お、お世話をしていますど」


 足の震えがそのまま伝わった声でオデは言った。


「……はあ」


 ソレイユはため息をついて、オレに向き直った。


「あなたの母親と私が旧知の仲というのはご存じですよね」


 オレは背筋を正す。


「はい」

「私が奴隷制度廃止の運動をしていることも承知した上で、使用人を面接に連れて来たのですか?」

「………」


 オレは言葉に詰まる。

 すると、オデが咳ばらいを一つして、声を発した。


「ゴホンッ、お、お、オデは、使用人では、ありません、ど」


 無理のある嘘だ。


「あなた、先ほどご自分で」

「ごごご、ご主人様の、友だど、です」


 オデは、震えたまま言った。


「……はあ」


 ソレイユはため息をついて履歴書に視線を落とす。


「そそそ、それに、今のような質問は不当だど。仕事に関係ないど。こ、雇用主の態度として、良くないど」

「こら、さすがに喋り過ぎだ」


 オレはオデの口を塞ごうと手を伸ばす。届かない。

 ソレイユが立ち上がった。


「オデさんと一緒にこちらの部屋へ。合格です」


 オレは耳を疑う。


「え」

「子供たちとの様子を見てから採用を決めます。それから契約書を渡しますので」

「合格理由について、尋ねても……」

「私は正しい人が好きです」


 ソレイユは表情は変えない。


「ですがそれだけでは、子供たちに多くを教えることはできないでしょう?」





 通された部屋には、ぬいぐるみや木馬、沢山のおもちゃが置かれていた。

 それに埋もれるようになっていた、二人の銀色の少女が、ばね仕掛けのように立ち上がる。


「コレットとドレシアです。家庭教師のオレさんとオデさんにご挨拶を」


 ソレイユに促され、二人は緊張気味にこちらを見上げる。同じタイミングで優雅にお辞儀をした。銀色の睫毛は陽光を反射し、まるで陶器人形のようだ。

 オレも応える。


「よろしく」


 握手を求めた手が、ぺちんと打ち鳴らされた。


「ウェーイ、よろよろ」


 ドレシアのほうだった。


「じゃ、おにいさんがオニね」


 コレットのほうはいつの間にかオレの背中によじのぼり、目隠しの布をかけ始めた。


「お、オデはオデだど」

「よろウェーイ」

「逃げるんだよォ」

「どこにだど!?」


 目隠しオニは盛り上がり、オレは少女たちからの合格も貰えた。




「ただいま、モフ」


 ヒャン、とモフが出迎えに走ってくる。


「疲れたな」

「すぐにお風呂を用意しますど」

「お前も疲れてるだろ」

「ご主人様のお体が大事だど」


 オデが浴室へと向かう。

 子供の相手というのは存外に体力を使うものだ。

 モフに顔を舐められながら、オレは自分の腕を掴む。


「少しは鍛えたほうがいいか……?」


 その日は夕食を簡単に済ませ、オレ・アースディンは泥のように眠った。



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