第37話
その夜。
カサブランカは、エルフの言葉で呟く。
「聞いて」
「ええ」
ソレイユはベッドに横たわる彼女の隣で、編み物をしながらうなずく。床には双子と守護者が葉を敷いて眠っている。
「盗賊は来なかった。東の森に、盗賊は来ていないの」
「そうですか」
ソレイユは驚きもせず、ただ彼女の言葉を聞いた。
「私が火をつけた」
「どうして?」
「お父様が……」
カサブランカが息を吐いた。
「お父様が、死んでしまったから」
ソレイユは編針を膝に置いて、カサブランカを振り返った。
「どうして?」
「お父様は自分で死んだ。私にしたことを悔いて、自分を責めていて、私は気にしなくていいよと言った。でも……」
「あなたのお父様は、精霊?」
「うん」
ソレイユはうなずいて、カサブランカの髪を撫でた。
「お父様が死んで、あなたは、どう思ったの」
ソレイユは『悲しかったね』とも『ひどい精霊だ』とも言わない。
ただ、たずねた。
「お父様が死んでしまったから、私も生きていけないと思った。ああ、ここで終わりなんだって。そうしたら太ったおじさんがやってきて、私を馬車に乗せたの。いろんな人がいたわ」
「たとえば?」
「鼻の大きな、コボルト。甘い香りのする、マンドレイク。それから……」
カサブランカは涙も流さず、ソレイユを見つめたまま続けた。
「とても体の大きな、オーク」
言葉を聞いて、ソレイユはうなずく。
「そう」
「楽しかった」
「よかったわね」
「もう一つ、聞いて」
「ええ」
カサブランカは微笑んだ。
「わたし、アレスを迎えに行きたい」
ソレイユは目を見開く。しかしそれは一瞬で、すぐに優しく細めた。
「どうして?」
「彼、つらそうだった」
「……そうね」
「お父様と、同じ」
カサブランカの微笑を見て、ソレイユの瞼が震える。
「泣かないで」
「ごめんなさい」
「謝らないで」
カサブランカの手が布団から出て、ソレイユの髪を撫でた。
夜は更ける。




