第36話
その夜。
オレは、たずねた。
「婚約を申し出た理由は」
「なんだ、急に」
「反対されたんだろ、家族に」
オレの言葉に、「勘が良いんだか悪いんだか」と呟きながら窓枠に寄りかかる。
「……責任を取ろうと思ったんだ。いや、そういう意味じゃねえよ。雇った時から妊娠してたのは本当だ。エルフってのは人間より長く身ごもるらしい。十年だってよ。本当バケモンだよな……すまん」
アレスは窓枠に寄り掛かったまま、言った。
その言葉が取り繕ったものであっても、オレは黙って聞いていた。
「あいつ、トロくさくてさ、使えないから解雇するって話になったんだ。それがなんか気に食わなくて、じゃあ俺が引き受けるって言った。本当に全然使えなくて。すぐ吐くし、怠けるし、周りの目が気になって、鎖をかけるようになって、……」
言葉が徐々に弱くなっていく。
「彼女の過去を想像したことはあったか」
「あるさ……浅い知識でな。どっかの森で野生動物みたいに暮らしてたんだろって」
オレは、たずねる。
「家族に、褒められたことはあったか」
「なんだ急に、そんなの、無いのが普通だろ」
アレスは当然のように言った。
「オレに成績で勝った時はどうだった。親は褒めてくれたか」
「ねえだろ。兄貴たちには遠く及ばねえし」
「一緒に遊んだことは」
「親父によく稽古つけて貰ってたっけ。全然楽しくなかったけど、でも唯一、親父が俺を見てくれるから……」
幼い子供のようになっていく自分の声に気付いて、アレスは頭を振る。
「……あいつが叱られるたびに、俺と同じじゃないかと思った。あいつなら俺をわかってくれるって、なんか、思い込んでたんだ。でも、俺がされてきた『教育』を考えたら、ぜんぜん生ぬるいなって、なって……」
なって、なって……と繰り返して、アレスは沈黙した。
オレは立ち上がる。
「アレス」
「な、なんだよ」
「彼女に会おう」
アレスは目を見開く。
「無理に決まってるだろ」
「それでもだ。お前には、必要なことだ」
「……」




