第33話
西の森の入り口に踏み入ると、ソレイユの足元に矢が突き立った。
「手厚い歓迎ですね」
ソレイユはドレシアとコレットを抱えて下がる。
矢が雨のように立て続けに降ってくる。
怯えているカサブランカの襟を指に引っかけて、矢を躱した。
「出た。お母様の死の舞踏」
「これを見た敵に命はないわ」
適当なことを言う娘たちを無視して、ソレイユは声を張った。
「敵対の意志はありません! ここにいる、東の森のカサブランカを受け入れてください!」
矢の雨が止む。
大木のまだ新しい枝に、まるで重さがないかのように立っているエルフの弓兵がいた。
それを睨んだまま、ソレイユは繰り返す。
「東の森のカサブランカです。彼女が、そう名乗っていました」
「耳は」
ソレイユは娘たちを地面に下ろして、カサブランカの耳当てを優しく上げた。
切られた耳が露になる。
「見ての通り、彼女は奴隷として略取されていました。エルフ本来の住居である森に帰してあげたい」
「ならない」
弓兵は矢をつがえたまま頭を振る。
「どうして」
ソレイユは冷静に訊ねた。
「ならない。それは商品だ」
ソレイユの両目が見開かれた。
娘たちは顔を見合わせた。
カサブランカは、ふう、と息を吐いて、なにかを諦めたかのように座り込んだ。
「……なんと、言いましたか」
ソレイユが掠れた声を出す。
「商品だ、それは」
「待ってください。あなたたちエルフは、自分たちの意志で、仲間を」
「森の獣が来る。ついてこい」
弓兵は弓矢を背中に回して、木の枝を飛び移った。ソレイユを待っている。
ソレイユは振り返る。ドレシアとコレットは不安げに見上げるが、カサブランカはぼおっと宙を見つめていた。
「カサブランカ」
ソレイユは声をかける。反応がない。
「ねえ、行きましょう」
「ここには、居られないわ」
周囲を警戒しながら、双子の娘たちはカサブランカを両脇から抱えた。
二人は彼女を持ち上げて、ソレイユの後をついていった。




