第32話
オレたちは外壁に近い宿を取った。
「イステ、というのは」
「わたしの元の名前です。アンナは洗礼名でして」
アンナはぜんそくの薬を飲みほした。
「本当は優しいお父様なのです」
暖炉にあたりながら、アンナは俯く。
「このローズではルノボグ教がまだ受け入れられていません。わたしが入信していたことで、多くの迷惑をかけたはずです」
宣教の旅をする中で何度も迫害されてきたと彼女は語る。
「女学校とは」
「就職……いいえ、嫁入りの準備をする学校です。わたしはそれが嫌でルノボグ様に助けを求めたのですが……」
「司祭様と反りが合わなくて、もう一回逃げました。と」
アレスが嫌味を言う。
「うう……」
アンナは俯いて黙ってしまった。
「そんな風に言うことはない。彼女にとっては大切なことだったんだ」
「フン」
オレがたしなめると、アレスはそっぽを向いた。
アンナはすでにルノボグ教をやめて新たな宗教を立ち上げたのだが、追い返されるのでは説得のしようがない。
窓の外は雪が降り続いている。
「アンナは両親に感謝を伝えるんだろ。そうだ、手紙はどうだ」
「あの様子で読むわけねえだろ」
アレスが横槍を入れる。
オレは食い下がる。なにかできることはないかと、ぼやけた頭で模索する。
「その、魔術で頭に直接送り込むとか。通信技術があるだろ」
「無理矢理つなげりゃ傷害罪、悪くてテロ行為で一発アウトだ。こいつの爪の垢でも飲んどけ」
アレスがオデを指さす。
「そうだ。オデは、なにか考えはあるか」
オレは彼が法律書を取り出すのを待ったが、オデはふるふると首を横に振った。
「ローズにはローズのしきたりがあるど。ここでは女性の権利はアクアに比べてすごく弱いんだど」
「そんな……」
オレはともかく、オデにも手立てがないのは、つらかった。
ドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
宿の管理人だろうか。オレは招き入れる。
しかしドアを開けたのは、コートで着ぶくれした、そばかすの目立つ青年だった。
「コナー?」
アンナが立ちあがった。
「そちらのイステ=アラスラダ・フランドロの弟、コナー=ユクラテス・フランドロです。姉様がお世話になっています」
「姉様」
オレは面食らう。唖然としてるアンナを見上げる。
オデとアレスも目を丸くして、同じ様子だった。




