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オデしか買えなかった件  作者: 月這山中


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第30話


 オレたちはローズの外門までたどり着いた。

 雪道は旅客の靴で踏み固められている。


「皆さん、ここで待っていてください」

「わかったど」


 アンナが入国許可を取りに行く。


 雪が降り始めた。オデが傘を取り出して、オレたちの上にさした。

 アレスはどこかへ行こうとしたが、オレはその肩を引っ張る。


「なんていうか、いい奴だよな、お前」


 オレは言った。


「はあ?」


 アレスは、機嫌の悪い声で言った。


「喧嘩売ってんのか、どこ見てそう思ったんだよ」

「アンナの財布」

「馬鹿。なめられて腹が立っただけだ」


 肩に置いた手を振りはらわれる。


「その、どこ見てるかわかんねえ目。やめろよ。気持ち悪い」

「あの子を痛めつけてたことにも、何か理由があったんだろ」

「それはっ……」


 その言葉はアレス自身の口から出た。


「どんな理由があっても、駄目だろ」


 オレは頷く。


「そうだ」


 沈黙。

 しばらくして、アレスは拳を固めて振り上げた。


「やっぱり喧嘩売ってんな?」

「やめるど」


 オデがアレスとオレを遮る。

 アンナが戻って来た。


「皆さん来てくださーい、個別に面接するそうですー」


 アンナについていく。


 面接では来歴や罪歴を聴かれ、オレは故郷……アクアで施設にいたことも正直に答えた。

 全員に入国許可が下りたので、オレたちはローズの門をくぐった。




 アンナの実家へ向かう。

 歩きながら、オレは降り積もっていく雪を見つめていた。

 あれから空気が透き通って見える。


「やめろつってんだろ。その目」


 冷たい指がオレの頬を突いた。

 アレスはやはり不機嫌な顔で、俺を観察している。


「アレス」


 オレは口の端で微笑んだ。


「なんだよ」

「監督役、おつかれ」


 アレスは目を丸くして、それから息を吐く。


「お前がいくら馬鹿になっててもわかるか、さすがに」


 オデとアンナは反応しない。やはり、オレだけが聴かされてなかったらしい。

 いや、聴かされていたが覚えていないだけか。


「病院には、どういう」

「正式には転生者療養施設、だ。入所の時に聴かされただろ」

「……」

「マジかよ」


 オデが立ち止まった。オレも止まる。

 アレスはぶつかりそうになって、歩幅を調整する。雪を踏む音が響く。

 オレの鼻先をアレスの指が突く。


「いいか、オレ・アースディン。施設にはお前の様子を常時送信している。俺の視覚と施設本部の監察官たちは魔術的にリンクしてる。目を離すなって言われてるけど、俺にも自由ってもんがあるからな」


 指を立てたまま、アレスはオレの周りを包囲する。


「お前がちょっとでも妙な真似をしたら、すぐにでも施設へ送り返す。やったら自供しろ」

「妙な真似とは」

「転生者ぶって政治に干渉したり、治療行為や戦闘を行おうとしたり、とにかくそれっぽいこと」

「なるほど、曖昧だな」


 オレの言葉にアレスは眉を吊り上げたが、呼吸をおいて冷静さを取り戻す。


「お前を許したわけじゃねえからな」

「オレは許されないことをしたのか」

「……」


 金属が打ち鳴らされる音。


「いまさらなぜ戻って来た! イステ!」


 声のする方を振り返った。

 オデの左側から顔を覗かせると、大きな屋敷の門が見えた。

 口ひげをたくわえた初老の男が剣を構えている。その左右に従者らしき男女。見下ろすとアンナが尻もちをついている。


「あちゃあ、これは面倒だな」


 オデの右側から顔を覗かせていたアレスが呟いた。


「お父様……わたしは」

「うるさい! 邪教に染まり女学校をやめて家出したかと思えば、のこのこと!」


 アンナにお父様と呼ばれた男は、剣を振りかぶり、ぐっと何かを堪え、雪の地面に突き刺す。


「フランドロの名を穢したお前が、この門をくぐることは許さん、さっさと立ち去れ!」

「わたしは、ただ……」


 ゴホッ、と彼女がむせる。やがて荒い息が細い喉から漏れる。ぜんそくの発作だ。

 その音を聴いてアンナの父は立ち止まったが、振り返ることなく屋敷へと入ってしまった。


 オデはアンナを抱えあげ、冷たい雪の地面から離した。


「出直すど」


 雪が降り続ける。



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