第24話
モフと散歩に出た。北風が吹き付けてモフの毛がなびく。
ルノボグ教会の前には人だかりができていた。汚れたコートをまとって新聞を首に巻いた人々が談笑することもなく、下を向いて並んでいる。
「焦らず。順番に並んでください。おかわりはまだまだありますので」
炊き出しをおこなっているのはダーレンだった。
ダーレンは微笑みながら、炊き出しのパン粥を器に注ぎ続けている。
視線があう。オレは会釈をした。
ふと視線をあげると、屋根が白く輝いて見えた。
家に戻ると門の前にアレスが立っていた。
「来て悪いかよ」
「珍しいなと思っただけだ」
なんでも悪くとらえるアレスにオレはそう言って、応接室へ通した。
オデはソレイユと共に集会へ行っている。
「ルノボグ教会の前を通ったよ」
「ルノボグ教。ああ、最近流行ってるな。貴族の間でも信徒が増えてる」
アレスは松葉杖を置き、ソファに腰を掛けた。
「こういう雰囲気の時は終末論が流行るんだ。ドン先生の講義で習っただろ」
「終末論」
ダーレンやアンナの印象からは想像もつかない言葉が出て来て、オレは頭をひねる。
「ルノボグ教の教典読んでないのか? 仲いいんだろ」
オレは記憶をたどり、本棚に入ったままだったルノボグ教のパンフレットを思い出す。
指でなぞって、辞書の間に挟まった薄い冊子を取り出す。
表紙を開いた一ページ目には『ルノボグ様がもたらす終末を待ちましょう!』『よき終末があらんことを』と書いてある。
「正直なところ、正シー教の増長もあるだろうな。貴族は聴き訳のいい宗教が欲しいのさ」
そこでアレスは言葉を区切った。オレから視線を外し、キッチンのほうを見やる。
「なんでも利用するって決めたんだろ」
その言葉に、オレは少しひっかかった。
「オレじゃなくてソレイユが言ったことだ」
「奴を貸したんなら同じことだ。責めちゃいない。大いなる波には乗ったほうが良い」
指で膝を叩き、アレスは呟く。
「客に茶も出さないのか、ここは」
「今淹れるよ」
淹れた紅茶には結局手を付けず、アレスはいくらか愚痴を言って帰っていった。
すっかり日が暮れた頃、オデが帰って来た。モフが太い脚に走り寄る。
「遅くなってしまったど。申し訳ないど」
「夕食にしよう」
カレーを器に注いで、パンを温め直す。
「今日も緊張したど」
「なにか言われてないか、その」
「少し頭は固いけれど、皆良い人だど」
オデもオレと同じことを思っていたらしい。
「大丈夫だど」
大丈夫と言う時ほど、大丈夫ではない時だ。どこで聴いた言葉だったか。元の世界に居た頃かも知れない。
オレはまだ心配だった。