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第22話

 オデの試験の合否発表がある。

 オレとモフは彼について行った。


 看板に貼られた受験番号の羅列に、オレは目眩がする。


「あるか」

「見当たらないど」


 ヒャン……とモフが答えた。彼の目にも見つけられないようだ。


「……亜人種が司法試験なんて受けるなよ」


 背後から小さな声が聴こえた。

 オレは聴こえないふりをした。


 結局、オデの受験番号はなかった。




「すみませんだど」

「謝ることじゃないさ」


 オレとオデとモフは、帰路につく。


「良い経験だったと思って、覚えておくだど」

「ああ、来年も頑張ろうな」

「ら、来年の受験料はオデの稼ぎから出すど」

「いいからいいから」


 遠くから陽気な音楽が聞こえてくる。


「今日はお祭りだったな」


 夜の帳が下りる間際、橙色の灯りが街を練り歩く。

 人々が歌う。かつてこの国を統治していた十二人の王の名前を連ねる。

 モフが駆け出す。オレはオデの腕を引いた。

 飴細工の出店に駆け寄る。


「なんでも作ってもらえるぞ。オレはそうだな、この子にしてくれ」


 モフを抱えあげて飴屋の店主に見せる。透明な飴が練り上げられて、瞬く間に犬の形になる。


「お、オデは……」


 オデは逡巡したあと、オレの背中を押した。


「この人にしてくれど!」


 瞬く間に透明な飴が練り上げられて、オレの形の飴ができた。

 飴を小銭と引き換える。


「……食べづらいど」

「だと思った」


 オレはオレ型の飴をモフ型の飴と交換する。

 オデはまじまじと、飴を眺める。


「こっちも食べられないど」

「だよな」


 笑いながらオレは自分の形の飴をかじる。

 オデも肩を揺らして笑った。




「よう」


 オレは呼びかけられて振り返る。

 松葉杖をついたアレスだった。


「証言台に立ったんだってな。全部ソレイユから聴いたよ」


 オレは身構える。しかしアレスは弱々しい声で、呟いた。


「……てくれ」

「え」

「アイツが幸せになるようにしてくれ、俺はどうでもいいから」

「アイツって」

「わかるだろうが」


 到底あのアレスから出てくる言葉とは思えず、意外だった。少女の怯えた顔を思い出す。

 オレは構えを解いた。


「オレにそんな力はない。ソレイユに言えよ」

「だから腹立つんだよ、お前は」


 アレスは足を引きずりながら去っていった。




 夜空に花火が上がる。

 オレとオデとモフは公園の芝生に座って、大輪の花が咲く夜空を見上げる。


「お祭り、はじめてだど」


 オデはそう言った。


「楽しいだろ」

「毎日お祭りなら、悲しいことがあってもつらくないど」


 オデは微笑んでいた。

 オレは頷く。


「そうだな」


 モフがあくびをした。

 花火が終わるまで、オレとオデとモフはそのままでいた。




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