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第18話


 オレがモフを連れて公園に行くと、子供たちが一か所に集まっていた。

 その中心にしゃがんでいるのは、あのルノボグ教の司祭だった。


「それで葉っぱを、こうするのですね?」

「そうそう」

「吹いてみて吹いてみて」


 司祭は口元に葉を当てる。

 草笛の澄んだ音が響いた。

 子供たちが騒ぐ。


「うまいじゃん、おっさん」

「ありがとうございます。おや」


 司祭は様子を見ていたオレに気付いた。

 二人は軽く会釈しあう。


「おっさんの友達?」


 子供の一人がたずねる。

 司祭は少し困ったような顔で微笑んで、うなずく。


「そうですね」




 かくれんぼがはじまった。

 オレと司祭は必然的に、体を隠す場所がかぶってしまう。


「その」

「ダーレンと申します」

「オレです」


 茂みの中でしゃがんだまま、彼と話した。

 利口なモフは吠えることもなく、静かに草むらに座っている。


「アンナさんはお元気でしょうか」

「知ってるんですか、どこにいるか」

「風の噂で」


 ダーレンはウインクをしてみせる。

 それから、眉根を寄せてうつむいた。


「年少者を監督するのは大人の役目だと、無意識に思っていたのかもしれません。アンナさんは特に、故郷へおいて来た娘を重ねてしまって」

「ああ……」


 アンナがダーレンを苦手としていたのは彼自身にも伝わっていたようだ。

 彼は後悔している。


「いけませんね。彼女は大人の女性なのに。このまま会わない方がアンナさんのためなのかも知れません」

「そんなことはありませんよ」


 オレの口から自然とその言葉が出ていた。


「彼女、よく司祭様の話をしているようですし」

「そうなんですか?」

「様子を見るくらいは良いと思います。その、あちらがどう思うかは別として」


 ダーレンの目から、涙が零れ落ちた。

 余計なことを言っただろうか。オレの心に後悔が過る。


「ありがとうございます。オレさん」

「はあ」


 気の抜けた返事をした。

 オレと義理の父親は疎遠だった。彼のように想われることがあったのだろうか。オレはふとそんなことを考えていた。

 茂みががさがさと揺れる。


「いた! おっさん二人と犬、見ーつけた!」


 オニ役の子供に見つかった。




 夕方まで子供たちの遊びに付き合い、オレとモフはへとへとになって帰ってきた。


「おかえりなさいませだど」


 本を抱えたオデが出迎えた。

 夕食の準備に取り掛かる。


「父親って、どういうものなんだろうな」

「どうかなさいましたど?」


 今日あったことをオデに話した。


「……オデも父とは顔を会わせたことはないので、わかりませんだど」

「あっ」


 オレは今度こそ後悔する。


「だけど、良い親でありたいとする気持ちは、きっとあるだど」

「……そうだな」


 オレはスープとパンを取り分け、夕食を机に並べる。



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