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第11話


 オレは、オデを探して街を練り歩いた。モフを連れて。

 あの巨体だ、街では目立つ。聞き込みを続ければ手掛かりを集めるのはそう難しくない。

 雨が降ってきた。


「あっちか。………」


 また、何かを間違えたのだろう。

 このまま会ってもいいのだろうか。

 オレは思う。

 そうして立ち止まったオレを、ヒャン、ヒャン、とモフが引っ張る。


「そうだな。迎えに、いかないと」


 中央広場を抜けて西側の城砦跡へと向かう。鐘撞塔の間から見覚えのある姿が見えた。

 閉鎖ロープを跨いで階段を上っていく。


「オデ」


 オレは彼の名を呼んだ。

 胸壁にもたれかかって、オデははるか地上を見ていた。


「掃除をした時に、ご主人様の蔵書を見てしまったど」

「……オデ、岸壁伯は君の」

「貴族を殺し、奴隷に子供を産ませて、なんの贖いもせず死んだ不肖の父だど」


 オレは俯く。


「優しいご主人様は、穢れた出生のオデを追い出せないど。だからオデ自身で、出ていくことに決めたど」

「出て行かなくていい」


 オレは頭を振る。髪に溜まっていた雨が降り落とされる。


 オデは、ふ、と笑った。


 ヒャンッ、とモフが走った。緩んだオレの手からリードが離れる。

 オデの足首に噛みついた。

 オレも丸太のような脚を両腕で掴む。

 胸壁の間から落ちかけたオデを、引き上げる。


 石畳の床にオデを座らせて、オレはその頬を叩いた。


「痛いど」

「なんで死のうとした」

「止めたのは奴隷の管理責任があるからだど?」


 オデの視線は逸らされたままだった。

 オレは続ける。


「お前は奴隷じゃない」


 オデがオレの目を覗く。


「お前は岸壁伯でもない。オデ、お前はオレの友だ」


 雨が二人に降りしきる。

 クシュン、と、モフのくしゃみが沈黙を断った。

 それに笑いを堪えていたが、やがてオレとオデは笑い始めた。


「他の女の子たちが買えても、同じことを言ったかど?」

「ああ」


 オレは迷わず答えた。


「優しいご主人様だど」






 家に帰ってきた。


 モフが体を震わせて水滴を飛ばす。

 オレの頭にタオルがかけられる。見上げるとオデが微笑んでいる。


「夕食にしよう」

「お手伝いしますど」


 ヒャン、とモフが鳴いた。



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