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第1話


「お、オデ、がんばって、はたらくど」


 巨漢がたどたどしい言葉で言った。

 その前に立つ人買いは横柄な態度で親指を立てる。


「その額だと、今これしか買えないね。いい?」


 巨漢のつぶらな瞳が潤んでいる。

 オレは根負けしてしまった。大枚をはたいて巨漢を引き取った。


 人買いが去っていく。その後ろには鎖につながれた少女が何人も引きずられている。


「名前、なんて呼んだらいいんだ?」

「オデで、いいど。ご主人様」


 短絡的すぎる。




 家に帰って来た。


「ただいま」


 玄関に入ると、モフが出迎えた。

 ヒャン、ヒャン、と掠れ気味の声でオレを呼ぶ。


「かわいいど」


 モフは無邪気に足元を走り回る。

 オレはそんなモフを捕まえて、オデの顔の近くまで持ち上げてやった。


「モフだ。で、モフ、こいつはオデだ」


 ヒャン、とモフは応えた。

 怖がっていないようでなにより。


 モフを抱えてリビングに入る。

 オデは離れの寝室に……は入らないだろうから、今日はここで寝てもらおう。


「本、よんでもいいど?」

「あ、ああ、いいですよ」


 オレは思わず敬語になってしまった。


「ありがとう、だど」


 そう言ってオデは腰巻から本を取り出した。

 巨体のせいで小さく見えるが、分厚い本だった。


 オレはオデに鎖をつけなかった。


「好きにしていいからな」

「ありがとうだど」


 オデは背を丸めて、部屋の掃除をはじめた。


「好きにしていいからな」

「そうしてますど」


 オデは部屋の掃除を続けている。

 玄関のドアを開けたままにした。


「……好きにしていいからな」

「お、オデは、やさしいご主人様にご恩を返したいど」


 流石に、オデも気付いたらしい。

 オレは自分の冷酷さに嫌気が差した。


「すまん」


 頭を下げた。


「謝らないで欲しいど」


 オデはしょぼくれた声で言った。






「待て」


 利口なモフは目の前にごはんがあるというのに、尻尾を振り回して座っている。


「よし」


 モフはごはんに飛びついた。

 そんなモフの頭を撫でて、オレは台所へ戻る。


「今日はカレーだ」


 オデを椅子に座らせた。

 椅子が潰れた。

 仕方なく漬物石を持ってきて置いた。


「ごめんだど」

「かまわんかまわん」


 オレもなんとなくご主人様らしい言葉遣いをしてみる。

 椅子の残骸を端に寄せて、オレも自分の席に座る。


「好きにしていいんだからな」


 今度は違う意味で、俺は言った。


「ありがとうだど」


 オデは頭を下げてから、匙を手に取った。

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