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迷宮のレオーネ  作者: 朽木真文
一章 暴食の洞窟
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ST16 私達のプロローグ

すいません。投稿しよう!しよう!と思ってもなんか投稿する予定の時間には忘れてるんですよね。本当は結構前に書き終えてるんですけど…このっ、忘れんぼさんめっ!

「そろそろ外してもいいよ、包帯」


 ここ、ベグラトの研究室兼寝室で目が覚めてから約三日。

 あれから毎日定期的に右腕の様子を確認していたベグラトが、ようやく包帯を外す許可を下ろしたのだ。

 てっきり、回復までもっとかかるものだと思っていた私は、一瞬きょとんと気抜けし、また取れたりしないだろうか。等と内心びくびくと怯えながらも、包帯をゆっくりと取っていく。

 布擦れの音と共に、徐々に包帯がはだけ、右腕の全貌が露わになる。


「おぉ……」


 感嘆の息が漏れる。

 縫い目の跡こそ残ってはいるが、それも気にならない程度だ。そもそも一度千切れた腕だ。縫い目を完全に無くせというのは高望みだろう。

 拳を握ってみたり、解いてみたりしてみるも、違和感の一つも無い。


「痛ない? ほんまに大丈夫?」

「無理はするなよ」


 私の様子を無言で見ていたレグルス、春夏冬の二人が我が子を憂う両親のように、心配そうに私を見詰めている。

 大丈夫だと伝えようとするが、ふと思う。普通に伝えるだけではつまらないなと。

 私は両手を春夏冬の柔らかそうな頬に伸ばす。

 そのまま不思議そうにこちらを見る春夏冬の顔を、むぎゅっと頬を挟み込むように手で押さえた。


「ひょっ! にゃにひゅるにぇん!」


 声を荒げはせど抵抗する様子の無い春夏冬の頬を一通り弄び、その後私は三人に右手が思い通り動くことを伝える。


「それは良かった」

「まぁ……言いたいことはあるけど大丈夫ならええわ」


 レグルスが微笑み、春夏冬が拗ねた子供のようにぷいとそっぽを向く。気を悪くさせてしまったらしい。

 不貞腐れる春夏冬に謝罪を入れると、レグルスが先程まで弛んでいた表情を引き締め、重々しく口を開く。

 何かを察してか、春夏冬とベグラトがカーテンの奥に消えていき、残されたのは私とレグルスだけになった。

 深刻そうな雰囲気に、私は掛布団の下で伸ばしていた足をベッドの外に投げ出し、先程までベグラトがいた丸椅子に腰かけるレグルスに向き直る。

 思えば、二人で座って話したのは、ギルドの応接間が最後であったか。

 つい最近の出来事なのに、まるで遥か昔の事のように思える。


「テルミニ」

「はい」

「お前の腕が一度千切れたのは、間違いなく俺のせいだ」

「はい?」


 レグルスから飛び出た予想外の言葉に、私は呆けたように訊き返す。


「俺が不甲斐無いばかりに、無関係なお前に一生消えない傷を付けてしまった。謝罪したい」


 レグルスは俯き、ぽつりぽつりと独白するように漏らす。


「俺が力無いばかりに、友を迷宮に見捨て、お前には癒えることの無い傷を負わせた。俺は、俺自身は何も失う事無くだっ!」


 レグルスは自身の太ももに、力強く握った拳を打ち付ける。歯軋りの音が、ぎりっと低く鳴った。


「これ以上共に居れば、お前は再び何かを失うかもしれない。だから……俺はお前との間に結んだ契約を破棄したいと思っている」


 彼から紡がれる自責の言葉を断ち切ろうとして、ふと彼が迷宮に潜る理由を思い出した。そして、少しだけ理解した。

 きっと、彼は悔しいのだろう。

 いつ死ぬかも分からぬ友の為に、一人迷宮にその身を投げ打ってきた。しかし、迷宮は一人で攻略できる程甘くはない。

 だが、それを身を以て知っても尚、誰にも迷惑を掛けまいと一人で挑み続けた。友の為なら、自身の死すらも厭わぬその覚悟は、私ではとても想像に及ばない。

 しかし、やはり一人では迷宮の攻略は無理だった。歳月が経った迷宮には、友の痕跡など疾うに無かったのだろう。

 だから、私を探し出し雇った。思えば、案内以外のすべてを担うという契約の内容は、彼の覚悟の表れ、そして贖罪のつもりだったのだろう。今度は絶対に、護って見せると。決して傷付けまいと。

 しかし、それは叶わなかった。

 結果として、私は右腕を失い、春夏冬は重傷を負った。運よくベグラトが私を治療しなければ、私はそのまま隻腕となっていただろう。

 しかし、仲間を救えるのなら死すら是としていたレグルスは、頭部を軽く打っただけで、私達二人と比べると比較的軽傷であった。それも、彼の自責に拍車を掛けているのかもしれない。

 私だけでなく、春夏冬にさえも重傷を強いたのは、自分だと。自分が弱かったせいだと。そう責め続けているのだろう。

 これは、恐らく彼なりの謝罪、そしてケジメなのだろう。


「嫌です」


 レグルスがはっと顔を見上げ、私を凝視する。

 彼の気持ちは私には理解できない。いや、理解しようと寄り添う事すら烏滸(おこ)がましい。


「レグルスさんは、少し……何というか……、傲慢だと思います」


 私の言葉に呆気に取られているレグルスに続ける。


「何でも一人でなんて出来る訳無いじゃないですか。確かにレグルスさんが強いのは知ってますよ。剣すら砕いちゃうし、集中しなきゃ目で追えないし。でも、所詮は人間なんですよ?私も、レグルスさんも」


 そうだ。他人が関わらない人生を送る人間などいる筈がない。人と関わり、影響を及ぼしあってこその人間ではないか。

 舌が温まってきた私は、更に畳みかけるように続ける。


「人間なんて矮小で、下らない生き物です。一人じゃなんも出来やしない。それは赤ちゃんも、大人だって同じです。互いに手を取り合って、影響し合って、共鳴し合って、その先にある今を生きてるんです。私も、春夏冬さんも、ベグラトも、誰もかも。それを、自分は弱いからって一人で抜け出すなんて、卑怯です、惰弱(だじゃく)です、傲慢です」


 彼の言葉は間違っている。

 彼がいなければ、私は今頃大喰らいの口の中だったかも知れない。ケイブローチに追われた末、他の魔物に殺されていたかもしれない。再構築の狭間に落ち、永遠にあの虚空を彷徨ったかもしれない。

 宿屋の金が払えなくてゼクレに無心しているかもしれない。路上で寒さに震えながら寝ているかもしれない。身体を売りながら娼館で働いているかもしれない。田舎に帰っていたかもしれない。

 いい未来とも、悪い未来とも分からない。しかし、そんなこと考えてもキリが無い。分からないものは、考えても仕方が無いではないか。何故なら、何時まで考えても、分からないものは分からないのだから。

 確かなことは、彼の言葉が、彼の思考が、彼の行動が、私に影響を及ぼし、今のこの私を形成した。彼がいたからこそ、私は今ここにいる。

 目を丸くするレグルスに、私は右手を差し伸べる。彼が私の人生に影響を及ぼした証の、縫い跡が残った右腕を。


「弱いからって逃がしませんよ。私の人生に影響を及ぼした以上、最後まで付き合ってください。それが、仲間でしょ?」


 出来る限り優しく、私は微笑みを向ける。

 それに、私は彼を放っておけない。

 始めは報酬目当てだった。報酬を七割も渡すなど、怪しい人物か恐ろしいほどの金持ちしか説明が付かない。表面で彼はいい人かもしれないと思いながらも、心のどこかで彼は得体の知れない人物だった。

 でも今では、彼の旅の行方を知りたいと思っている自分がいる。彼を手伝いたいと思っている自分がいる。

 私をただの案内人ではなく、落ちこぼれでもなく、貴族家の令嬢でもなく、一人の仲間として見てくれる彼の近くで。


「……そうか、傲慢か。確かにそうかもしれないな」


 レグルスは逡巡するように呟くと、決然とした表情で顔を上げやがて私の手を取った。


「協力してくれ。俺は……ナルメアを救いたい」

「勿論です」


 互いに握手を交わし、意思を確かめ合う。今度は案内人と探索者としてではなく、一人の仲間として。

 そんな湿っぽい雰囲気を、さも吹き飛ばすかのように白いカーテンが音を立てて開かれた。ベグラトと、春夏冬によってだ。

 まさかカーテンのすぐ裏にいるとは思っておらず、驚く私を尻目に春夏冬はカーテンを開けるや否や私に向かい拍手する。ベグラトは、切られた林檎を頬張り頷いていた。

 こうなってしまえば、しんみりとしていた空気も吹き飛んでしまう。


「ええ話やな……うん」

「聞いてたの……? 完全にそういう流れじゃないじゃん。え、噓でしょ?」

「テルミニにしてはいいこと言うね」

「お前は右腕斬り飛ばすぞ」

「テルミニってたまにえげつない毒吐くよね……」


 ほざく二人に突っ込みを入れる。

 そして、私が、二人が私の話を盗み聞きしていたことを再度文句を言おうとした時、それを遮るようにレグルスが口を開く。


「今回はイレギュラーで第一階層で引き返したが、目標はもっと遠い。テルミニ、次はどこまで潜る?」


 迷宮に潜る直前、私達は実は迷宮にどこまで潜るかを相談していた。

 今回は大喰らいに遭遇し、やむを得ず第一階層で引き返したが、当初の予定では第二階層までは行き、二人で息を合わせる練習をしようという事になっていたのだ。

 新しくパーティーを組んだ時、いざというときに供えて連携の練習をしておくことは探索者の基本だ。

 私は顎に手を当てて思案する。

 大喰らいとの遭遇は完全の予想外であったが、二人プラスもう一人で息を合わせて何とか生還することが出来た。息を合わせる練習は、もう完了したとして扱っていいだろう。


「私達ならもう練習は不要でしょう。今回は……そうだな、第四階層まで行くのはどうですか?」


 レグルスはノータイムで頷いた。異論は無いらしい。


「そうだな。……」

「ん? ……何ですか?」


 しかし何か言いたげに少し下を向くレグルスに、私は身体ごと耳を傾ける。


「後……あまり畏まるな」


 照れのせいか、私の顔を直視せずに告げるレグルスが可笑しくて、私はその場で吹き出してしまうのだった。




 ◆~~~~~◆




「――――次に、受付嬢ゼクレ・メクシールより、先日の三人について報告します」


 顎髭を蓄えた精悍(せいかん)な顔付きの男に、少女は手元の紙に時折視線を落としながら口を開く。

 男はそんな少女に、鋭い視線を向けたまま頷いた。


「うむ」


 男が先を促したのを確認して、少女は視線を落とす。

 羊皮紙には一見、虫が這っているのかと見紛うほどにびっしりと文字が書き込まれていた。


「探索者チーム『夜明けの風』からの報告です。彼らは商人である春夏冬薊に雇われ、先日ギルドを通さず案内人として契約したテルミニの捜索に出向きました。その後第一階層の道中で合流し、同人から仲間とはぐれたと聞きその者の捜索に出向いたところ、捜索している人物と大喰らいが交戦中のところに合流しました。テルミニ・テセス・ローレンライト、春夏冬薊、そして捜索していた人物の指示を受け、夜明けの風のメリア・ハイレール、リュート・フクースナは撤退。その後、迷宮付近を通った他の探索者二チームを連れ、先の三人の救助の為に再度彼女等の下に向かった所、右腕を欠損したテルミニ・テセス・ローレンライト、全身を強く打撲した春夏冬薊、同じく全身を強く打撲したテルミニと契約した者が、気絶した状態で発見された、とのことです」


 少女の言葉が途切れる。

 ギィと机の軋む音を鳴らしながら両肘を机に突き、両手を口許で組みながら男は重々しく口を開いた。


「…………大喰らいは、その後どうなった?」

「はい。大喰らいは夜明けの風が再び駆け付けた際には、既にその場にはいなかったそうです。二人は、テルミニを含む三人が被害を受けつつも大喰らいを撃退したと判断し、救助したと」


 少女が言葉を途切り男の様子を窺う。男は尚もナイフのような鋭利な眼光を湛えていたが、しかしそれは少女に向けているのではなく、どこか遠くに向けているようだった。


「なるほど。――――つまり、大喰らいが狩られた訳では無いと」

これにて一章「暴食の洞窟」幕引きになります。ブクマはまぁ…全然増えてないし感想とかも来ないけど、読んでくれる方がいるだけで非常に大きなモチベーションになります。これからも変わらず読んでくださると嬉しいです。出来れば、出来ればでいいんですが、ブクマや感想等もお願いします!

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[一言] 大喰らい、怖すぎるんですが
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