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迷宮のレオーネ  作者: 朽木真文
一章 暴食の洞窟
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ST14 帰還作戦

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 魔物の圧倒的な力の前に次々と仲間は倒れ、遂に化け物の餌にならんとしたその時、私は未知の力に覚醒した。

 そう言えば、誰もが悪と戦う冒険小説の序章を考えさせるだろうが、現実はそうでは無い。圧倒的な力を経てさえも、大喰らいは強者であった。


「はぁっ!」


 レグルスを真似するように腰を低く落とし、出来る限り早く剣で突きを放つ。

 しかしそれは形だけで、直剣という鉄の塊を持っているとはいえレグルスの突きより数段遅い。

 大喰らいは半身を逸らすように容易く私の突きを躱すと、視界から消えるように姿勢を下げ、這うようにして大口を開け私に飛び掛かる。

 考えなしの攻撃は逆効果だ、手痛い反撃が付いてくることを考慮しろ。敵の行動を予測して組み立てるんだ。

 自身に言い聞かせるも、既に腕を引き戻し剣で受ける余裕は無い。剣を地面に突き立て、私はその勢いを利用し大きく跳び上がる。

 舞う服の端を牙が(かじ)り取る。大口のその奥底に、微かに私の鞄が見えた。

 まだこの身体能力に身体が慣れていないのか、思うように着地は出来ず、体勢を崩して私は転がる。だが、痛みは無い。

 大喰らいを見据える。奴は巨体の向きを変え、こちらに向き直そうとしている最中だった。

 状況は振り出しに戻った。相対する私と大喰らい。このままでは、その状況を何度も繰り返すこととなるだろう。

 しかし私が飛び退いた方向には、倒れた春夏冬がいるのだ。


「大丈夫!? 春夏冬さん!?」


 春夏冬の肩を勢いよく揺らす。すると、血の塊を勢いよく吐き、閉じていた目をゆっくりと開ける。無事では無いが、まだ生きているようだ。

 ウェストポーチに入っていた強心剤と治癒薬を手早く取り出し、無理矢理彼女の口に流し込む。

 春夏冬の生存が確認出来たならば、次は彼だ。


「レグルスさん! 生きてますよね!?」

「あぁ……油断した」


 レグルスが大喰らいの意識外でのそりと立ち上がる。傍らには即効性のある治癒薬の入っていたらしい小瓶。どうやら緊急時に備えて携えていたらしい。

 大喰らいが私を捉え、牙を剥き出す。まるで、怒りを露わにしているかのように。


「何や……うち眠いんやけど……」

「それ寝たら死にますよ! 起きて下さい!」


 血が乾きかけた口許を腕で拭い、春夏冬が壁に体重を預けながら立ち上がる。


「私の鞄が大喰らいの口の中! 中には迷宮便利道具が沢山!」

「ゴホッ……。人使い……荒ない……?」


 二人は私よりも聡い。作戦をみなまで言わずとも理解したらしい。レグルスが返事の代わりに頷きを返し、春夏冬は血を吐いて文句を垂らす。薬が効いてきたのか、文句が言える程の気力は出て来たらしい。


「ふぅ……。やるんだ」


 拳を握り締め、決意を固める。

 三人寄れば何とやらだ。それに、私を除く二人はただの凡人とは言い難い。

 必ず成功させる。我々は生きて帰還するのだ。

 決意を胸に、深く集中する。


「はぁっ!」


 出来る限り強く踏み抜き、大喰らいに剣を振る。

 しかし、容易く見切られていたようだ。大喰らいは斬撃を牙で防ぐ。

 茜色の火花がいくつか跳ね、大喰らいの口腔に消える。

 レグルスの腕を噛み千切ろうとしていたことから何となくは察していたが、やはり奴は自身の強みを理解しているらしい。

 それでもいつかは刃が当たると信じ、力任せに幾度も剣を振り続ける。しかし、奴は巧妙に牙で、そして時には爪で、斬撃を防ぎ続けた。

 埒が明かない。しかしながらそれでいい。私が時間を稼いでいる内に回復したであろう、春夏冬とレグルスたちに合流する。


「テルミニ。どうだ?」

「重畳! ちょっと慣れてきました!」

「それ……ほんまどないしたん?」


 痛みが麻痺し始めたのか、ようやく動けるようになってきた春夏冬は不思議そうに尋ねる。

「それ」が示すのは、間違い無くこの身に漲る力であろう。

 しかし、その質問を簡単に答えることは出来ない。私自身、この力には思い当たりが無いのだ。いや、記憶の深層にはあるのだが思い出せない、と言う方が正しいか。

 火事馬の馬鹿力。と考えることもできるだろうが、正直未知数だ。この力が我が身にどのような影響を齎すか。悪影響が無ければ良いのだが。


「私が知りたいですよ。でも、生きる為に使えるものは使わないと……」

「せやないと困るわ。……うち、まだ眠いねんから」

「寝ないで下さいね!?」


 軽口を叩き合う余裕が出て来た。自ずと自身と希望も湧いてくるが、彼奴の牙は我々を増長させない。


「オォォォォォォォォォイィィィィィィィィィシィィィィィィィソォォォォォォォォウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!????」


 奴の巨躯が小さく縮こまる。バネのように縮み、そして――――。


「来ます!」


 放たれた矢の如き勢いで飛び掛かる大喰らい。

 受ければ衝撃をまともに食らう。それにこの剣は安物の鈍らだ。折れてしまう可能性もある。これは避けるが吉だろう。

 余りある力で横跳びで躱す。狙いは私だ。私を食べ損ねた事を激昂しているのか、奴の意図は図りかねるが。

 そのまま奴は壁に激突するかと思ったが、そうではなかった。

 予期していたかの如く、壁を蹴るようにして方向転換。私を狙いから外す気は無いらしい。


「まだあんま動けへんねんけどっ――――!」


 私と大喰らいの間に滑るように春夏冬が躍り出ると、奴の下に潜り込み、春夏冬がその顎を蹴り上げる。

 勢いが殺され、巨躯が浮いたその隙に、レグルスが僅かに浮いた大喰らいを頭上から叩き落とす。

 衝撃が地面を迸る。土煙が舞い、そして晴れたそこには、相も変わらず無傷の大喰らいが立っていた。


「お、今のいかすなぁ! 名付けるならなんやろ……」

「どうでもいい」

「春夏冬さん集中してください!……どうやら殴打、刺突、斬撃、どれも効果が薄いみたいですね。魔法があれば別なんですけど」

「せ……せやな。うちも魔法は使えへんし、ここで手札を切らないってことは」


 私とレグルスは頷く。どちらも、攻撃に転用できるような魔法は無い。


「鞄にはアレも入っとるんやろ?」

「ご賢察」

「なるほど、存外頭が回るな。外からか? 中からか?」

「私の鞄は耐衝撃性が高い特注品です。奴の皮と肉で殺された衝撃で起爆するとは思えません」

「ほな直接か、厳しいで」


 春夏冬が冷たく吐く。到底不可能であると含ませているかのように。

 レグルスの強力な打撃、春夏冬の剣による斬撃、私の強化された攻撃にも、大喰らいの硬い外皮が動じることは無い。ならば、手段は限られてくる。

 大喰らいの牙と爪を掻い潜り、奴の最も奥深くの私の鞄に強い衝撃を与える。春夏冬の剣を使えば出来るだろう。あの剣、私の推測が正しければ――――。

 ただの机上の空論だ。無理も承知の上。

 しかし大喰らいと私達の実力は、私が謎の力に目覚めた今になり初めて拮抗している状態。このままでは埒が明かない。だからこそ、実践の価値はある。


「私が一番軽傷です。合わせてください」

「言うやん」

「任せた」

「任されました」


 奴は、その本能に赴くままに動いているように見えて、その実は頭が回る。

 しくじれば、そのまま私達の意図に気付き防がれるようになるだろう。よって、チャンスは一回。

 成功しても隙が作れるだけ、失敗すれば死。背を向けて退くことは出来ない。私に訪れた、あの飢餓感が来る。選択肢は、端から無い。

 ふと、大喰らいが様子を窺うように首を傾げる。


「ゴォォォォオォォォォアァァァァァァンンンンンンンン?????」


 作戦開始だ。しかし作戦と言えども、その方法はシンプルかつ運任せ。

 私は思いっ切り振りかぶって――――。


「はぁっ!」


 直剣を投擲(とうてき)する。手放された剣は一切勢いを減衰させず、大喰らいの口目掛けて飛来する。

 鉄を鳴らす快音。

 大喰らいは真剣白刃取りとでも言うように、刃を牙で挟むことで防ぐ。

 惜しくも、大喰らいの口腔を傷付けるには至らない。心做(こころな)しか、大喰らい自身もしたり顔だ。

 しかし、私の真の狙いはこの状況を作り出すことだ。


「春夏冬さん!」


 春夏冬から投げ渡された槍を受け取る。

 と同時に、牙に挟まった剣をレグルスが力一杯に弾く。梃子の原理により、あんぐりと大喰らいの口が開かれる。

 この状況。私からは、やつの喉奥の、私の鞄までよく見える。


「数秒しかもたない! やれ!」


 私は更に加速する。岩を蹴り、空すらも駆けるように。

 大喰らいがようやく私の意図に気が付いたらしく、大口が閉じ始めた。

 流石は大喰らいの名を冠するもの。奴の顎の力には、さしものレグルスでも叶わない。

 しかしそれも、レグルスだけならばだ。


「手伝うで!」


 春夏冬がレグルスと共に、大喰らいの口を開く剣を抑えにかかる。

 閉じ始めていた顎は減速し、停止する。それは、力の拮抗を示していた。

 加速。そして私は大きく槍を振りかぶる。

 迷宮便利道具。

 私が勝手に呼称する、迷宮探索において無くてはならない様々な道具たちだ。

 第一階層で光源を確保する為の光弾。第三階層で煙幕を張る為の葡萄煙弾。離れた場所を行き来出来るようになる透導門(とうどうもん)。エトセトラ。

 私は自称、迷宮便利道具マニアである。備えあれば憂い無しだ。心配症の私は、普段から信用する道具屋の元でそれらの道具を買い揃えている。

 今回の私の鞄には、爆弾という直球な名前の道具が入っている。火気に反応し、凄まじい衝撃波と共に爆発する道具だ。

 これが今大喰らいの体内で爆発すれば、流石の奴でもただでは済まないだろう。

 しかし、その爆弾に強い衝撃を与えるだけでは起爆することは無い。そこで使うのが光弾だ。

 光弾は、紐を引いて強い衝撃を与えることで強い光を放つ道具。しかし内部を貫いて衝撃を与えれば、発光することは知っている。

 そして光とは即ち――――熱である。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 槍を開かれた口の中へと突きだす。槍先は喉奥へ、そして、私の鞄へと向かい進む。

 されど、槍先は後少しというところで中空で後退。


「うぉっ!?」

「なんやっ!」


 大喰らいの上顎という支えを失い、剣を抑えていた二人が軽い悲鳴と共に剣を地面に叩きつける。

 いや、私には槍が後退したように見えただけであり、その実は大喰らいが後退したのだ。

 忌々しいことに最後の最後で頭が回る。しかし、ここまでくれば私のものだ。

 歯を食いしばり覚悟を決める。ここを逃せば好機は来ない。何としてでも、今、ここで決めるのだ。私の肉を斬らせて、奴の骨を断つ!

 私は槍を持つ右腕を、ごと大食らいの口腔に突っ込む。

 槍先は私の腕の分だけ伸びて、鞄を貫く感触を感じる。仄かな光が、大喰らいの喉奥から漏れる。

 同時に、大食らいの大顎が閉じられる。鋭い牙は私の肉に食い込み、いとも容易く断ち切った。


「っつ!」


 吹き出すような大量の出血。痛みに息が詰まる。しかし、悶えるでもなく、悲鳴を上げるでもなく、私は最後の力を振り絞り、力一杯その大顎を蹴り上げた。


「テルミニ!?」


 大食らいの牙の隙間から閃光が瞬く、その刹那、轟音が奴の腹奥に響き、爆風が洞窟を駆け巡った。

 口を天井に向けたため直接爆風を受けることは無かったが、迷宮という閉鎖空間の中で衝撃波は荒れ狂う。

 まず春夏冬の槍が吹き飛び、次に三人まとめて爆風に吹き飛ばされ、地面を数度跳ねながら転がる。

 山道を転がる小石のように転がる最中、大喰らいがその大口を天に向け、黒煙を吐いているのが見えた。

 そして、勢いは減衰することを知らず、私は壁に衝突する。


「かっ……は……!」


 背中に受けた衝撃は全身を迸り、肺の空気を強制的に追い出す。

 そして、私の身体は壁を跳ね地面に叩き付けられる。立ち上がる力も無く、私はただ地面に伏した。

 爆音を間近で聞いたからか、耳鳴りが頭の中でガンガンと響いている。喉からは鉄の味を染みるように感じる。どこか出血しているようだが、痛みは感じない。

 呼吸をするたびに胸痛が鈍く響く。視界は靄がかかったようで、意識は次第に不明瞭に。

 右腕は高熱を発しながらも、痺れるような倦怠感(けんたいかん)が支配している。


「逃げ……なきゃ……」


 蝋燭に灯る火のような、小さく揺れる意識の中で、大喰らいを見据える。

 余程の大打撃だったらしい。奴は尚も動くことなく、煙突のように頭上に向かって黒煙を吐き続けている。

 これ以上の隙は無い。この隙を作るためだけに右腕を犠牲にしたのだ。命があるなら右腕などどうでもいい。今動かずして、いつ動くというのか。

 しかし、私の意思に反して、私の身体は右腕からの倦怠感がまるで全身に伝播したかのようで、寝返りを打つことさえままならない。

 そして、今しがた荒波のようにやってきた、耐え難い強烈な睡魔。


「に……げ……」


 心身共に、睡魔に抗う余裕は無かった。

 私は、二人の無事を祈りながら、静かに瞼を閉じたのだった。

って言うとブクマとか増えるらしいって偉い人が言ってました。さて、どう転びますかね?

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