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バカなのか?と正直呆れた【ユリウス視点】

 

「はい、レンツィ。ミートドリアお待たせ!熱いから気をつけるんだよ」

「わぁ!美味しそう!いただきます!……あっ!?っふ!ふはっ!ほぉっ、ふおぉぉ……はふ……ほあぁ……は、はあぁ……んんっ!あー、あっつかったぁ!火傷したかも!」

「だから言っただろ?大丈夫かい?ほら、冷たい水をお飲み」


 彼女のほうを見なくても分かる。

 女将に熱いから気をつけろと言われた側から、オーブンから出したてでまだ微かにグツグツしているだろう熱々ドリアにがっつくなど、バカなのか?と正直呆れた。


「熱いけど、でも凄く美味しいです!コクのあるクリーミーで優しいホワイトソースと、ホワイトソースのクリーミーさに負けない肉肉しいミートソース。それにチーズ!一緒に食べると最っ高です!」

「そりゃ良かった。まだ熱いから気をつけるんだよ」

「はぁい」


 彼女の説明を聞いているとミートドリアが食べたくなってきた。

 未だにはふはふ言いながら頬張っているのだろう音が隣から聞こえて来て、ちらりと彼女を横目で見た。


 ドリアが余程熱いのだろう。

 少し上を向いて頬を赤く染め、軽く眉間に皺を寄せつつ、はふはふと口の中に空気を含ませながら食べていた。

 口に入れた分を飲み込むと、またすぐに嬉しそうに皿へと視線を戻す。

 一口分をスプーンで掬い取り、ぱくりと口の中へ。

 そしてまた、はふはふと言う。その繰り返し。

 段々ドリアの温度が下がってきたのか、次第にはふはふ言わなくなった。


 ――――何て幸せそうに美味しそうに食べるのだろうか。


 はふはふ言いながら食べるなんて、貴族のテーブルマナーとしては違反だが、庶民向けのこの店では気にならない。寧ろそうして食べたほうが美味く味わえそうだ。

 それなのに、大きな口を開けなくてもぎりぎり入る適量をスプーンに掬い取って口に運ぶまでの動作は優雅で、貴族であることを隠しきれていない。見る人が見ればすぐに分かる。

 とてもアンバランスだと思った。


 彼女が急にこちらをチラリと見て、フード越しに目が合ったからドキっとした。


 衣装部に特別に作らせた通常より目深に被れるフードは特殊な布を使っていて、外から顔は見えないが、内側からは布越しでも見えるようになっている。

 だから彼女としては俺の目の辺りを見ただけなのだろうが、俺からするといきなり目が合ったので内心動揺した。


 そして、彼女に話しかけられた直後に気がついた。

 俺が彼女に見入っていたから、彼女がこちらを向いたのだと。


「あの、なにか?」

「え?……あ、いや、美味しそうだと思って」

「あ、はい!美味しいです!ここのドリアは食べたことありますか?もしもないなら食べてみてください。美味しいですよ!」

「そう」

「いつもおひとりでこの席に座っていますよね。いつから通われているのですか?」

「……五年ほど前から」

「完全なる常連さんですね。ってことは五年前にはあったんだ、このお店」

「もう七年くらい経っているはず」

「そうなんですか。もっと早く知っていたら姉と一緒に来られたのに。残念……。姉も美味しいものが好きだったから……もっと早く知りたかったな」

「…………」


 あの、隣国に嫁いだという長女か。あの魔術研究バカな所長の調子を狂わせた。


「……あっ。亡くなった訳じゃないですよ?お嫁に行っただけで」

「そうなんだ」


 その後、彼女から色々と話しかけられた。

 レッカーのおすすめ料理や俺の一番好きな料理、彼女がまだ食べていないメニューについて――つまり、レッカーの料理の話に終始していた。

 それで気がついたのは、食の好みが結構似ているということと、話しやすいということ。

 彼女は俺が王子であることに気づいていないから当たり前だけど、普通に話ができるというのが新鮮で嬉しかった。


 次に会った時から彼女は迷わず俺の隣に座るようになり、いつしか料理以外の話も普通にするし、「レンツィ」「サイラス」と呼び合うような仲になっていた。


 けれど、自分だけが彼女の正体を正確に把握しているのに対して、彼女は俺について聞いてこない。

 そのことに気がついた瞬間、少し寂しく感じた。

 聞かれても困るのに、自分でも矛盾していると思う。


 料理の話から世間話、いつの間にか恋の相談までされるようになった。

 フードで隠されて顔の見えない男を好きになるとは思っていないけど、当たり前のように好きな人の話をされると、男として全く意識されていないのだと突きつけられて何故だか切ない。


 レンツィは幼馴染の騎士、パヴェル・ピーリネンが好きだ。

 幼馴染の騎士に異性として見てもらいたくて、男性はどんな女性が好きなのか聞きたがった。


「一般的になんて知らないよ」

「えー……。じゃあサイラスはどっちが好き?」

「俺は――――」


 君が君であるなら何だって良い。


 自分の心の中で漏れた本音に自分でも驚いた。

 こうしてレッカーで話をするようになって、日々些細なことで少しずつ俺の中にレンツィが浸透してきて、レンツィへの想いがパラパラと降り注いて積もっていくのは感じていた。

 だけど、いつでも引き返せる程度だと思っていたのに――――


「俺は?なに?」

「…………」

「サイラス?」

「……どっちでも良いよ。噂の騎士様に聞いてみなよ」

「直接聞けないからサイラスに聞いてるのに」

「俺の意見を聞くってことは、俺のことも興味持ってくれてるの?」

「えっ?」


 つい本音が漏れた時は冗談に変える。

 いつしかレンツィの前でだけ身についた癖。

 レンツィが俺と気安く話してくれるのは、俺のことを意識していないからだろう。

 俺のことも意識して欲しいのに、失敗が怖くて誤魔化してしまう。


「あっ。また揶揄って!」

「揶揄ってないよ?」

「うそ!笑い方ですぐ分かるんだからね!」


 口元しか見えていないはずなのに、正確に読み取ってくれるレンツィ。

 俺のことをよく見てくれているのだと思うと嬉しくなる。

 こういう些細なことが想いを深くする。


 二年経ってもレンツィは相変わらず、美味しそうに幸せそうに食事をしている。

 先日、レンツィに食いしん坊と言ったら少し怒ってしまった。

 想い人に伝えることを考えると言葉選びは間違えたかもしれないが、俺としては本心からの褒め言葉だ。

 食事は毎日のことだから、美味しく食事できるのは、その時間を楽しく過ごす以上の効果をもたらすと思っている。




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