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罠にかかった【ユリウス視点】


「わぁ!可愛い」


 約一カ月ぶりの休憩時間をレンツィと共に過ごす。すぐに土産を手渡した。


 レンツィのことを思い浮かべて選んだクッキーだ。

 喜んでくれるだろうかと想像して選ぶのは楽しかったし、選ぶだけでなんだか嬉しい気持ちになった。

 そして、こうして渡す瞬間はソワソワして嬉しくも恥ずかしい気持ちと、喜んでくれるだろうかと不安感や心配が胸を渦巻いた。

 しかし、レンツィの喜ぶ声や土産のクッキーを見るきらきらとした瞳で、渡した土産を喜んでくれたのだと分かる。

 ほっとして、もっと喜んで欲しい、もっと喜ばせたいと欲が顔を出す。


 公務で他国や地方へ行った際に王子宮の使用人などに土産を買うことはあったが、特定の女性に土産を買うのは初めてだった。

 今回、大切な人へ土産を選ぶ楽しさも渡す喜びも知ることができたが、それ以上にレンツィは喜んでくれるだろうかという不安で、たくさん買ってしまった。

 たくさんあれば、どれかひとつでも気に入ってもらえるだろうと思って。

 数を打てばどれかは当たるだろうと安易な考えであれこれ買ってしまった。


 クッキーを渡した感触が良かったから、コンフィチュールを取り出して、銀細工の小物入れも渡した。

 更には飴細工や最近流通し始めたばかりの珍しい青リンゴも渡した。

 そして最後に、俺の中でメインの白いレースのリボンを渡した。


 色とりどりのリボンがあったが、一番初めに目に飛び込んできたレース編みの白いリボン。

 目を引く繊細さで職人が丁寧に作ったのが分かる上等な一品だった。

 これは絶対にレンツィのホットチョコレートのような髪に似合うと思って選んだ。

 レンツィの髪にこのリボンが結ばれたら、まるでマシュマロを浮かべたホットチョコレートのように相性が良さそうだと想像して、勝手に笑みが漏れてしまうほどだった。

 今回の土産の中で、一番自信のある品だ。

 どれもレンツィのためだけに選んだ物だが、このレースの白いリボンは絶対に似合うと思ったし、レンツィなら豪華なヘアアクセサリーよりもリボンのほうが喜んで受け取りやすいだろうと思った。

 のだが……俺が「似合うと思って選んだ」と言ってから、徐々にレンツィの表情が曇っていってる気がする。


 気に入らなかったのか?

 成人した女性への土産にリボンなんて、子供の土産のようだと思われたか?


「もしかして、気に入らなかった?」

「いえっ。とても、素敵です。本当に、素敵で……ありがとうございます」

「それなら良かった」


 いや、良くない……。

 とても素敵と口では言っているのに、最初にクッキーを渡した時に見せてくれた瞳の輝きや表情の明るさがなくなっている。

 本当に素敵で……で?その後に続く予定だった言葉はなんだ?


 何故だ?何がいけなかった?

 数を打てば当たると思ったが、多すぎたか?

 一つ一つは安価なもので、銀細工の小物入れはそれなりの価格ではあるが、全て合わせても貴族の金銭感覚からいえば全く高額とは言わないはずだし、全て贈ったからといって負担に感じさせてしまうこともないはずなのに。

 逆に、安物ばかりでお金をかけていないと思われてしまったか?

 もっと、一点豪華主義な土産にするべきだったか。

 しかし、ドレスや宝石だと渡すのが遅くなってしまうし……。


「殿下、お話し中申し訳ございません。至急確認したいことがあると……例の捜査の担当者が来ています」

「分かった。……すまない、すぐ戻る。――サイラス、私が戻るまでにお茶を新しいものにしておいてくれ」

「承知いたしました」


 レンツィの表情が曇ってしまった理由を聞こうかと思ったら、文官から呼ばれてしまった。

 ヘッレル伯爵家を調べさせている担当者が来たと言われたら確認しなければいけないだろう。

 レンツィの優れない表情も凄く気になるが、ヘッレル伯爵家の調査は重要案件だ。


 かの家を調べると予想通り不審な人物が出入りしているのが分かった。

 ただ、レリア嬢が禁術を使っていたこと以外はギリギリ法に触れない程度に見えた。

 しかし最近まで平民として育って来たレリア嬢が禁術を自分の意思や研究だけで使いこなせるようになるとは思えず、徹底的に調べさせていた。

 その結果、漸くヘッレル伯爵家を裁ける材料が見つかったと報告を受けたのが、隣国への公務に発つ数日前。

 そのため、今は確実に捕らえるために水面下で罠を仕掛けていたところだったが、罠にかかったという報告だった。


 レリア伯爵令嬢は、予定通り古代魔術を研究している第二棟へ研究材料として引き渡されることになった。

 引き渡し先は魔術研究所の辺境分所。

 研究開発に失敗しても被害が最小限に食い止められるよう、人里離れた辺境の地で少々危険な研究をしている研究室がある。

 レリア伯爵令嬢はそこへ送ることにした。

 逃げられるとは思えないし、逃げたところで辺境分所敷地外には大型魔物も多いから無事では済まないはずだ。


 ヘッレル伯爵は暫く言い逃れていたが、レリア伯爵令嬢が実の娘ではないことをリークした結果、元恋人でレリア嬢の母親への殺人未遂で捕らえられた。

 この国では、殺人や殺人未遂の罪は重い。

 ひとまず捕らえて、どんどん供述してもらえば徹底的に裁けるだろう。

 ヘッレル伯爵が管理していた地域を長く留守にして放置するわけにはいかないので、ヘッレル伯爵家は遠縁の男が継ぐことに決まった。



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