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側にいてくれる存在の大きさ【パヴェル視点】


 詰所で巡回の準備をしていると、同僚のダンが巡回から戻るや否や詰め寄ってきた。


「おい、パヴェル!お前の幼馴染が婚約者に選ばれたって本当か!?」

「えっ、どうしてそれを……」


 フロウと僕の婚約話は内々の話で、オルモス伯爵にもまだ返事をしていないし、僕はまだ誰にも言っていない。

 オルモス伯爵が誰かに言うとは思えないが、どこかから話が漏れたのか?


「昨日の夜会で求婚されたんだろ!?なかなか紹介してくれないと思ったらそういうことだったのかよ。お前は前から知ってたのか?」


 仕事に一生懸命だし、屈託のない笑顔は騎士仲間からも好評で、最近はフロウを紹介してくれと頼まれることが増えてきた。

 ダンは僕とペアを組むことも多くて良い奴だと思うから、ダンから紹介を頼まれたときにフロウにダンをどう思うか聞いたこともあった。

 結局、なんとなく紹介する気になれず躱していたが、それは僕がフロウを他の男に取られたくなかったからなのかもしれない、と最近気づいたのだが……。

 僕とフロウが婚約したら、何人かの同僚からは嫌味を言われるだろうな。ダンもこの驚きようだし――――


「――ん?ちょっと待って。夜会って何?」

「だから、昨日の夜会。ほら、第三王子殿下のお相手探しのための夜会だよ。昨日と一昨日、城でやってただろ。茶会と夜会を。正式には妃探しの儀って言ったか」

「あー、やってたね。……え?殿下のお相手に誰が選ばれたって?」

「だから!お前の幼馴染!オルモス伯爵令嬢!彼女が殿下のお相手だったんだろ!?なんだよ、ポカンとして。もしかして、パヴェルも知らなかったのか?」

「…………え?」


 僕はフロウとの婚約話を前向きに考えていて、今までは異性として意識してこなかったけど、改めて考えてもフロウのことは大切で、僕たちならいい夫婦になれるのではないかと考えるようになっていた。


 婚約は自分の中では決まったも同然と考えていたから、今回の茶会にも夜会にも僕は参加するつもりがなかった。

 だから『相手を探しているのに!令嬢が一堂に会するってのに、仕事だ!俺はなんて間が悪いんだ』と嘆いていた同僚と勤務を代わって仕事をすることにした。


 その夜会で、フロウが婚約者に選ばれた?

 何故だ?殿下とフロウは何か接点があったのか?

 フロウからそんな話は聞いたことがないが、魔術研究所で接点があったのだろうか?

 何故、フロウが選ばれたんだ?もっと王族と結びつくに相応しい高位貴族のご令嬢もいただろ。


 確かに、茶会の前日に少し引っかかることはあった――――


『パヴェルも明日と明後日は行くの?』

『ん?あー、あれ?あの、殿下のお相手探しの?』

『そう』

『行かないよ。仕事なんだ』

『そうなんだ。いいね』

『何?いいねって。フロウも行かないんじゃないの?』

『面倒だから行きたくないんだけど、お父様が必ず行くようにって……だから、行くしかないの』

『え。伯爵が?……そうなんだ』


 てっきりフロウも行かないのだと思い込んでいた。

 フロウ自身、茶会も夜会も積極的に行きたがるタイプではないし、今回も面倒だと言って行きたがらないと思っていた。

 だから、行くと言われて、しかも伯爵から行くように言われたというから驚いた。

 もしかして、僕がすぐに返事をしなかったから、オルモス伯爵は他の候補を探させるつもりなのか?

 まずいな。

 だけど、フロウはまだ色気より食い気だし、案外仕事命だし、すぐに別の候補が見つかるとか、どうこうなることはないはず。

 茶会と夜会に出ても何もないだろう。

 あ、でも。夜会でフロウが誰かを見つけなくても、フロウが誰かから申し込まれる可能性はあるのか……。

 暇を見て早めにオルモス伯爵に会うことにしよう。僕の考えを伝えておいたほうがいい気がする。


 ――――と、思っていたのに。

 明日は休みだから、オルモス伯爵と会えるか確認しようと思っていたのに。


 第三王子殿下から求婚された?

 フロウが?

 何かの間違いではないのか?

 だって、フロウは僕の……――――


 僕の……?


 僕の、なんだ?

 婚約者にはまだなっていない。

 僕たちは、ただの幼馴染だ…………。


 殿下から求婚されたのが本当なら、僕たちの関係は永遠にただの幼馴染のまま…………。

  

 ◇


「フロウ……」


 城下巡回中にフロウが足早にやってくるのが見えた。

同僚が嘘をついているとは思わないが、間違った情報の可能性もある。

 何故だか聞くのが怖いのに、直接聞くまで信じたくなかった。


「パヴェル。お疲れさま。どうかしたの?」

「フロウ、本当なの?ユリウス殿下に結婚の申し込みをされたっていうのは」

「あー、……うん」

「本当なんだ……そうか…………。凄いな、フロウは。こんな言い方は不敬かもしれないけど、殿下は見る目があるね」


 そうだ。

 殿下は見る目がある。

 僕はフロウの魅力になかなか気づくことができなかったのに。


「そうか……。殿下から求婚されたなら、結婚するんだよね。フロウも嫁に行くのか……寂しく、なるな」

「まだ、いかないよ」


 王族と結婚するならどんなに早くても一年はかかる。

 この国で言えば、成人したら相手探しの夜会をして、婚約してから三年後に式を挙げるのが近年の慣例だったはず。

 確かに今すぐではないが、フロウが急に遠い存在になってしまった気がした。


「王族との結婚ならどんなに早くても一年くらいはかかるか。きっとあっという間だよ」


 僕は遠くばかり見ていたんだな。

 近すぎて見えていなかった。

 大切だと思っていたのに、見ようとしてこなかった。

 側にいてくれる存在の大きさに気づいた時には遅いだなんて。

 僕は本当にのんびりしているんだな……。


 フロウを見送った後に、おめでとうと言っていなかったことに気がついた。

 おめでとうと言える気分ではなかった。



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